柚月裕子著 『 慈雨 』



              2018-05-25


(作品は、柚月裕子著 『 慈雨 』    集英社による。)

          

 
 初出 「小説すばる」2014年12月号〜2015年12月号 単行本化にあたり加筆・修正。
   本書 2016年(平成28年)10月刊行。 

 柚月裕子:
(「弧狼の血」より)
 
 
1968年、岩手県生まれ。山形県在住。2008年、「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年「検事の本懐」で第15回大藪春彦賞を受賞。他の著書に「最後の証人」「検事の死命」「蟻の菜園−アントガーデン」「パレートの誤算」「朽ちないサクラ」「ウツボカズラの甘い息」がある。     

主な登場人物:

神場智則(60歳)
(じんば・とものり)
妻 香代子(58歳)
娘 幸知
(さち)(25歳)

5年の群馬県の夜長瀬(やながせ)駐在所勤めを終え刑事に。県警捜査一課強行班係の主任(警部補)を最後に定年退職する。
鷲尾と共に金内純子ちゃん殺害事件を担当、真実から逃げた思い出を持つ。
・妻 香代子 全ての出来事を善としてとらえることができ、屈託のなさ、おおらかさに癒やされる神場。
・幸知 神場の部下であった緒方と結婚を前提に付き合っている。しかし父親は刑事を夫にすることを認めていない状態。

緒方圭祐(けいすけ)
(32歳)
神場の部下、巡査部長。3年前29歳で本部の捜査一課に。
鷲尾調(さとし) 神場の2つ年下。今は群馬県警捜査一課長。

須田健二
妻 翔子
娘 幸恵

神場に夜長瀬駐在所への異動を勧めた先輩。須田の家庭の不幸が幸恵と神馬家を結びつけることに。

村田節子
夫 幸助
義父 武男
義母 キヨ

群馬県雨久良村の寒村での藤の花にまつわる思い出。
神場が夜長瀬
(やながせ)駐在所勤めの1年でのこと、悲しい殺人事件に遭遇、後2〜3年はここに止まることを嘆いた。

柄本航大(こうた) 父親が柄本建設の社長の息子で傍若無人。神場が小学6年生の時、友人雄太に対するいじめに、両親が柄本建設のもとに働いていることで逃げたのは人生で二度目。
川瀬(53歳) 遍路ころがしで三度出会った逆打ち巡礼の男。暗く、深い闇に満ちた目。この男の話に神場は長年のしこりが一気に溶けた。

補足:
1)金内純子ちゃん殺害事件 16年前(1998年6月12日)当時6歳の小一少女がひとりで下校のとき行方不明に。遺体が遠壬山(とおみやま)で発見される。被疑者八重樫一雄。わいせつ行為で捕まった経歴有り。今も刑務所に。県警捜査一課長国分健也が指揮、鷲尾−神場が担当。
2)岡田愛里菜(ありな)ちゃん殺害事件 今回群馬県尾原市小一の少女が行方不明に。同じ遠壬山で遺体発見される。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 16年前の幼女殺害と酷似した事件が発生。かつて刑事として捜査にあたった神場は、退職した身で現在の事件を追い始める。消せない罪悪感を抱えながら…。元警察官の魂の彷徨を描く傑作ミステリー。  

読後感:

 定年退職の元刑事神場智則が妻とふたり、四国八十八カ所遍路に出かける。神場の目的は金内純子ちゃん殺人事件に関わる自分の犯した罪を懺悔するため。
 四国遍路は第一番札所の霊山寺から第八十八番の大窪寺迄約二ヶ月かけての歩き遍路。
 その間札所にまつわる様子や道中での様々な描写があり、遍路紀行としての興味も尽きない。

 しかしその間に描写されるのは現役の現場で起きる岡田愛里菜ちゃん殺害事件が16年前の自分が担当した純子ちゃん幼女殺人事件と類似している事から、部下であった緒方圭介に情報を聞きながら、自らも協力を申し出る。

 この岡田愛里菜ちゃん殺害事件の展開とは別に、神場の刑事時代の出来事、特に金内純子ちゃん殺人事件のこと、警察官としての自分が育ったよりどころ(原点)となった群馬県夜長瀬(やながせ)駐在所での住民とのつながりがなった時の様子、2つ年下の今は県警捜査一課長鷲尾との生き様、娘の幸知と緒方の結婚を前提の付き合いを認められずにいる神場。
 妻の香代子との夫婦のつながり等遍路の道中に織り込まれた話題を展開しながらふたつの事件の最終局面に到るミステリーとしても。 
余談:

 四国遍路を扱った小説を以前読んだ覚えがあるが、何だったか。本読書録を探していて見つかった。澤田ふじ子著「遍照の海」(2006.11.25ver)。約10年前に作成した読書録だ。読み返してみて最近の書きっぷりと比べると簡潔すぎるなあの印象。でも当時の思っていた事が甦ってくる。 昔は罪人を生涯四国遍路を行わせて死に到らせたのか。時代の移り変わりを感じる。 

背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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