柚月裕子著 『盤上の向日葵』








              2019-04-25

(作品は、柚月裕子著 『盤上の向日葵』     中央公論新社による。)

          

  初出 2015年8月から2017年4月まで、「読売プレミアム」にて連載。
  本書 2017年(平成29年)8月刊行。

 柚月裕子
(ゆづき・ゆうこ)(本書より)
 
 1968年、岩手県生まれ。2008年、「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。2013年に「検事の本懐」(宝島社)で第15回大藪春彦賞を、2016年に「弧狼の血」(KADOKAWA)で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編部門)、「慈雨」(集英社)で(本の雑誌が選ぶ2016年度ベスト10)第1位を獲得。その他の著作に「最後の証人」「検事の死命」(以上、宝島社)「パレートの誤算」(祥伝社)「ウツボカズラの甘い息」(幻冬舎)「あしたの君へ」(文藝春秋)「合理的にあり得ない」(講談社)など。      

主な登場人物:

佐野直也 大宮北署地域課刑事、巡査。30過ぎ。刑事になり立て。捜査本部では石破が上司となる。プロ棋士を目指すも諦め刑事となる元奨励会メンバー。
石破剛志(つよし)

埼玉県警捜査一課、警部補。45歳。基本的に身勝手な気分屋。
刑事の腕は評価されている。

<天木山山中男性死体遺棄事件捜査本部>関係者 平成6年8月大宮市内から北に15キロほどの天木山山中に死後3年40〜50代の人骨(男)が発見される。遺留品に将棋の駒が、それも初代菊水月作の大変高価な物。
本部長 橘雅之(まさゆき) 大宮北署署長、警視。30代後半。
捜査指揮 五十嵐智雄(ともお)県警捜査一課管理官、警視。
進行役 本間敏(さとし)県警捜査一課理事官、警視。
他に 糸谷文彦(いとたに)大宮北署刑事課長、警部。
壬生芳樹 若き天才棋士、24歳。王棋位を除く六冠保持者。14歳でプロ棋士に到る正統派。竜昇位保持者。
上條桂介 第24期竜昇戦の挑戦者、6段。奨励会を経ず実業界から転身の東大卒エリート棋士。異端の革命児。炎の棋士。
矢萩充(みつる) 将棋の駒の鑑定人。
<昭和46年〜現在(平成6年)に到る時代へ>

唐沢光一郎
妻 美子
(よしこ)

教師を定年退職し、諏訪を終の棲家にする63歳。将棋が趣味。
諏訪市岬町に終の棲家を持つ。上條圭介を息子のように可愛がる。

児島 PTAの役員。子供は小学3年の信治、上條桂介と同じ。

上條桂介
父親 庸一
母親 春子(没)

父親の酒浸り、雀荘の賭け事浸りに幼少の頃から新聞配達で生活を支え、父親の暴力にも絶える。将棋に興味を持ち、唐沢光一郎の指導を受ける。
・父親の庸一は味噌造り職人だったが、妻の春子の死を境に酒浸り、雀荘通いの生活に。
・春子 島根県湯崎町生まれ。

横森誠治 東京「坂部将棋道場」の席主(責任者)。アマチュア五段。

幹本寛治
(みきもとかんじ)

「坂部将棋道場」の常連客、三段。

東明重慶
(とうみょう・じゅうけい)

「鬼殺しのジュウケイ」のふたつの名を持つ真剣師(賭け将棋で飯を食う)。元アマ名人、アマチュア最強と言われる。
穂高篤郎(あつろう) 将棋道場「王将」の店主。アマチュア棋界で一世を風靡した男。
兼崎元治(もとじ) 「青森の鉈割り元治」といわれ、3年前引退したが、死に花咲かせたく真剣の相手を探している。
角舘銀治郎(つのだて) 岩手の角舘で老舗旅館を営む愛棋家、穂高は大学時代、将棋部の合宿で世話になった。

米内重一
(よねない・しげいち)

東北では名の知られた真剣師。今東北で勢いがある指し手。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 埼玉県天木山山中で発見された白骨死体。遺留品である初代菊水月作の名駒を頼りに、叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志していた新米刑事・佐野のコンビが将棋の聖地・天童に降り立つ…。慟哭のミステリー。

読後感:

 序章では、将棋の最高位とも言われる第24期昇竜戦が、天童市において壬生芳樹昇竜と上條圭介六段の対戦が始まっている。
 平成6年埼玉県天木山山中で白骨死体が発見され、捜査本部が立つ。ただ白骨死体は胸に高価そうな将棋の駒が入った駒袋を抱いている。
 そこでコンビを組まされたのが県警捜査一課の、身勝手な気分屋石破剛志と、大宮北署地域課の刑事成りたての佐野直也。石破は刑事としての腕はピカ一。一方佐野は、いったんは将棋プロを目指して奨励会に入門するも、昇段出来ずに年齢制限ルールで退会せざるを得ず、刑事になった若者。
 このコンビの捜査状況とそのやり取りがこの小説の一つの目玉。

 高価な駒は初代菊水月作の錦旗(きんき)島黄根杢(ねもく)盛り上げ駒で7セットしか作られていなくてその持ち主を探す捜査が展開する。
 一方白骨死体の人定には複眼に時間がかかり、もっぱら石破・佐野の調査が重要となっている。
 それとは同時進行で昭和45年の、長野県諏訪市で唐沢光一郎と上條桂介の幼少時代の状況から、上條圭介の生い立ち、将棋の腕を上げていく描写が次第にウェイトを増してきて進行していく。これがもう一つのメインテーマとなる。

 話の展開は章で区切られていて読者は混乱することなく頭の中にスッキリと入ってくる。ラストに近づくにつれ、章は次第に少ないページ数になり、終焉に近づいている様相をなす。そして短文でびしばしとたたきつけるようなやり取りに。
 上條が何桂介らかの犯罪に関わっているのが容易に想像できるが、ただ殺された人物は彼の父親なのか、東明重慶なのかに絞られてくる。

 本の題の向日葵がどういう意味合いがあるのか。それが判るのが父親の庸一と桂介のやり取りからで、意外な展開に母親春子の素性が大きく影響してきてますます奥深いものとなってくる。
 東明重慶の存在の大きさがキラリと光るのが憎らしいくらい。
 読み終えて何か崇高なドラマを見た感じで、素晴らしい作品の出来と感服。長編小説をラストまでグイグイ引き込んでいく著者はやはりすごい。  

余談:

 最近の将棋界の話題もあり、タイミング的には非常に面白く読める小説である。
 将棋の駒のことも面白いし、将棋のプロとアマの世界の違い、将棋の指し方の流儀といった諸々のことも面白く読めた。自分も小さい自分父親に勝てなくて一生懸命にやっていたが、やっと父親に買ったときの思い出がよみがえってきた。何手も先を読めなくちゃあ段なんて望めないのは当然か。大変な世界であることをあたらめて感じた。 
     
背景画は、花をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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