柳美里著 『ルージュ』






 

                
2010-07-25
(作品は、柳美里(ユウ・ミリ)著 『 ルージュ 』 角川書店による。)

                 

 初出 「月刊feature」に1998年6月号から2000年2月号木で連載された作品に加筆、訂正をしたもの。
 2001年3月刊行

 著者の略歴
 昭和43年、神奈川県横浜市出身。在日韓国人。高校中退後、東京キッドブラザースを経て、昭和63年、劇団「青春五月党」を結成。
 平成5年、「魚の祭」で第37回岸田國士戯曲賞を受賞。
 平成8年、「フルハウス」で第18回野間文芸新人賞。第24回泉鏡花文学賞受賞。
 平成9年、「家族シネマ」で第116回芥川賞を受賞。

主な登場人物:

<クリスティーナ> 大手の化粧品会社

谷川里彩(りさ)
祖母 文乃
父親 威一郎
母親 美和

デザイン専門学校出での新人、21歳。
父親は家を出て愛人と暮らしており、母親美和(43歳)も店を持って別居状態。 新製品のイメージキャラに、本人はモデルやタレントになることを拒否している。 エイリアンみたいと評される。
後宮(女性) クリエィディブディレクター。 宣伝部制作課を任されている。 新製品のイメージキャラに社員の里彩を登用することで悩み多い。
秋葉季之(としゆき) 後宮の前夫、44歳。個人事務所設立して5年目。里彩と付き合っている(?)関係。
桜木 才能を見抜く力だけで取締役兼人事部長の地位に。
矢嶋(女性) 後宮のアシスタント。谷川里彩の面倒を見る役仰せつけられている。
外岡(女性) カメラマン、月刊誌、週刊誌、グラビア誌など多数をレギュラーとして持っている。
黒川慎吾 CMディレクター。孝之と同棲、里彩が現れたことで悩む。
孝之 ゲイ、慎吾のことを思いやり、里彩と三人で暮らそうと提案するも・・・。やがて破局に・・・。
金森涼子 女性誌の編集者。

物語の概要:

 化粧の嫌いな20歳の里彩が大抜擢されてCMキャラクターに…。恋に仕事に苦悩する、自然体の女性の生き方を描いた、現代のシンデレラストーリー。ベストセラー「命」の著者待望の長編小説。



読後感:

 感受性が豊かなだけに素のままに世の中を生きることの難しさを味わい、恋にも自然体で生きることで人を傷つけ自分も傷つく。 普通に暮らすことを願うために、会社の期待も受け入れず、周囲に波乱を巻き起こさせ、右往左往させてしまう。
 やがて弱い者が次第に道を逸れたり、死を選ばせてしまう。
 結果自分自身の変化をもたらされ、会社の希望する方向に向かうことに。

 人間の幸福とはどんなところにあるのか、こんなシンデレラ的な人間に生まれた人間の運命は果たして幸せと言えるのか?
 作品中に有名タレントの名前も挙げられて芸能界の女性のことも語られているが、まあそんな芸能界に魅力を感じない身としてはそれも人生と気楽に言えることに幸せを感じることも。



印象に残る場面:

◇ 黒川と後宮の会話:

(黒川)
「・・・・ あなたは彼女の存在によって、もうなんの夢も持てなくなってしまったということを気づかされたのに、気づかないふりをしたがっている」
・・・
(後宮)
「さっき夢なんて持ったことは一度もないっていったけど、いつか、いつかは持ちたいと思っているの。自分の仕事をとことんやった時に、はじめてつかめるものだと信じているのよ。もし夢が持てなければ、ぽかんと空を眺めて死ぬしかないじゃない!」
 後宮は立ちあがって挑むように黒川を見つめかえした。「夢って最後につかむ幻よ。自分が死ぬってわかったとき、抱きしめたくなる、幻よ」

  

余談:

 柳美里作品を多少なりとも読んでいるため、作品中の人物に好かない人物が出てきても、それほど拒否反応を持たずに読めたのも良かったかも。 そういう意味で作家の人物を理解することの大切さも。 ちなみにインターネットを見ていたら、この原作で2001年にNHK総合テレビでドラマ化されている。

背景画は、内表紙の柳美里のフォトを利用。