吉永南央 『オリーブ』


              2022-02-25


(作品は、吉永南央著 『オリーブ』    文藝春秋による。)
                  
          

 
初出 オリーブ      「オール讀物」2005年11月号
     カナカナの庭で   書き下ろし
    指         書き下ろし
    不在        書き下ろし
    欠けた月の夜に   「オール読み物」2008年5月号

 
本書 2010年(平成22年)2月刊行。

 吉永南央
(よしなが・なお)(本書に記述なし)

 1964年、埼玉県生まれ。群馬県立女子大学文学部美学美術史学科卒業。2004年、「紅雲町のお草」で第43回オール讀物推理小説新人賞を受賞。著書に「紅雲町ものがたり」「誘う雲」「F」の記憶」がある。

主な登場人物:

[オリーブ]

早坂慎一
妻 響子
<旧姓 斉藤>

住宅の販売会社勤め。父親の遺した「西野総合病院」のおかげで2億近い遺産を継ぐ浮気癖の人間。
・響子 結婚して5年、無表情で笑顔の少ない女、34歳。
・小林多恵 3年も前に別れた慎一の女。銀行勤務。

筒井和明 慎一の高校時代からの友人。
上田 「響子」とは病院での見舞い仲間。
笹谷満(みつる)(没) 印刷会社社長、享年42歳。
斉藤澄江(すみえ) 斉藤響子の母親。
[カナカナの庭]

井塚正成(まさなり)
妻 純代
(すみよ)

余命いくばくもなく、ホスピスから三泊の予定で自宅に外泊が許され、前触れなく一日前に自宅に。
・純代 草木染めに精を出す。溌剌としている。

寺島

高校時代からの慎一の親友。父親を亡くし設計事務所を辞めて家業の葬祭業を継ぐ。純代の元恋人。純代より3つ年上。

強矢(すねや)

学生時代ラグビーに明け暮れた体育会系の男。不動産業を営む。井塚の独身時代(地元テレビ局に勤務)、仕事上で知り合った。

小須賀直一(なおいち) 人材派遣会社からの老人。
[指]

上不崎玲紅
(じょうふざき・れいこ)

本業は銅版画の制作と亡くなった伯父から引き継いだ絵画教室を行っている、37歳。10代前半一時的に視力を失い、土をこねて作る塑像(そぞう)を作っていた。
荒木一俊(かずとし) 新進のアーティスト。玲紅より2つ年下の玲紅の恋人。わがままで、感情的で野心がある。妻子持ちで、妻は麻酔医。
神林徹 有名なギャラリスト。プロデューサーでもある。
平岡 県立美術館に勤める学芸員。
[不在]

高橋理都(りつ)
妹 ユカリ

ユカリの性で27才迄勤めた銀行を辞め、「ARIA」(地方の富裕層を固定客)の店長を務めている。
・ユカリ 統合失調症を病む。二つの世界に片足ずつ置いて生きている。東京(本郷)のアパートに一人暮らし。
・店員に永島雅信(理都と同い年)、前田明生(6つ年上)がいて、店長に嫌がらせ?

有坂英冶

「ARIA」の経営母体のアリナカ・インターナショナルの副社長。
理都の婚約者。

富樫荘介(とがし) ユカリのアパートの隣に住む。ガラス屋。富樫も統合失調症の友達を持つ。
桝岡信子(ますおか)

本郷に、和風住宅に住む華道家、70歳。
・セイ 家政婦、老女。

[欠けた月の夜に]

安野久美子(あんの)
夫 俊之
(としゆき)
息子 真歩

ゴルフ仲間の三人はそれぞれ悩みを抱えているが、久美子だけ平穏な日々を送っていたが、突然の出来事に一変。
・俊之 広告代理店の営業部長。急性心不全で亡くなる、46歳。
・真歩 中学1年。サッカー部辞め、新聞部。

ゴルフ仲間の女友達

・本間羽香子(わかこ) 夫は東京に単身赴任、浮気が絶えない。
・緒方修子
(しゅうこ) 丸顔のセミロングの髪。
・堀内鈴 小柄でパートに明け暮れ、38歳。

安野祐太朗 安野家の弟。久美子は家族の中で一番信頼している。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 持ち去られた通帳と保険証、処分された私信。そして、婚姻届すら提出されていなかったという事実。突然姿を消した妻は、何者だったのか…。 オール讀物推理小説新人賞出身の著者が贈る、サスペンスの秀作。

読後感:

[オリーブ]が本の題になるほどメインの内容であろう。
 主人公の早坂慎一は父親の遺産も受け、女にも年上の男にも好意を持たれるが外見で、浮気癖がある。そんな慎一が結婚したのが無表情で笑顔の少ない女。そんな響子が喪服姿で斎場に向かう所を目撃し、後を付けたら見知らぬ男と親密な様子で、こぼれるような笑顔を見せていた。

 それから響子が趣味にしている「実がならないオリーブは、違う品種のオリーブを一緒においてやれば大丈夫です」との花屋の言葉にオリーブを買って持ち帰った翌日、突然京子の姿が消えた。そこから物語は「響子」を求めて慎一は探し回る展開に。

 このストーリーが堪らなく面白い。妻の残した手紙には「さようなら。知っていました」と。「知っていました」とは何のこと?
「斉藤響子」は最近亡くなっていた。 それも父親の「西野総合病院」の医療ミスが関係していた。それも一人でなく・・・。

[カナカナの庭] [オリーブ]の次に位置するこの作品も劣らず胸にぐっとくる内容だった。余命短い主人公の井塚が、知らせておいた一日前に突然ホスピスからタクシーで自宅に外泊しに戻って出会う驚きの事態。
 昔の妻の恋人であった寺島の存在、妻の優しさ、いかにも体育会系の強矢(すねや)の言葉、そして井塚と純代(すみよ)の過去のヒミツと。

[指]はちょっと引いて読んでしまった。
[不在]は妹のユカリは統合失調症で、二つの世界に片足ずつ置いている。経営母体の副社長の婚約者の英冶には、そのことはまだ知らせていない。店長の理都は店の中での嫌がらせにあっていることも知らせられない。そんな中一人住まいのユカリの姿がアパートからいなくなった。

[欠けた月の夜に]は平穏な日々を過ごしていた久美子が、夫の突然の死に、過労死を疑い会社を相手取り謝罪を求め動こうとするが、周囲の協力は得られず、逆に説得やら、脅迫もどきの出来事も・・・。
 知られざる夫の真実とは?

  全体を通してミステリー性もあり、展開もテンポもスマート、どんでん返し的なシーンもあり、読み手を退屈させない。


余談:

 この作品を読んで新しく吉永南央という作家の作品に興味を抱いた。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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