吉永南央 『萩を揺らす雨』



              2022-03-25


(作品は、吉永南央著 『萩を揺らす雨』    文春文庫による。)
                  
          

 
初出  紅雲町のお草    「オール讀物」 2004年11月号」
    クワバラ、クワバラ 「オール讀物」 2007年7月号」
    0と1の間      単行本書き下ろし
    悪い男        単行本書き下ろし
    萩を揺らす雨    「オール讀物」 2006年10月号
    単行本 「紅雲町ものがたり」    2008年1月 文藝春秋刊。

 
本書 2011年(平成23年)5月刊行。

 吉永南央
(よしなが・なお)(「その日まで」による)

 1964年、埼玉県生まれ。群馬県立女子大学卒業。2004年、「紅雲町のお草」で、第43回オール讀物推理小説新人賞を受賞。他の著書に「誘う森」「Fの記憶」「オリーブ」「アンジャーネ」「その日まで」。

主な登場人物:

杉浦草(そう)
息子 良一(没)

数えで76歳。29歳で離縁され、実家に戻り家業(田舎の雑貨屋)を手伝っていたが、両親を亡くし、65歳の時現在の「小蔵屋(こくらや 和食器とコーヒー豆の店)」に建て替え商売を一新。
・良一 夫に取り上げられた息子は、用水路で溺れ死ぬ、3歳。

森野久美 「小蔵屋」の正規従業員、27歳。学生の頃スキーの選手、がっしりと逞しく持ち前の体力と明るさで草を助ける。

由紀乃
長男 杜夫
(もりお)

草の幼馴染み。 脳梗塞の後遺症で左半身が不自由で、外出しにくい。
・杜夫 宮崎に住む。由紀乃に来るよう勧めている。

長瀬幸子 小蔵屋の第二駐車場を貸してくれている。
寺田

運送屋。築30年近いアパートに妻と二人の娘の4人暮らし。
・父親は隣町で小さなレストランを経営。
 草の昔からのコーヒーの師匠。

[紅雲町のお草]
<クオリティライフ紅雲>マンションの住人
101号室 冬柴 3年前立て替え建設、元は「銀扇(ぎんせん)」と呼ばれていた。
夫は単身赴任中。
102号室 小宮山

・旦那は国立病院の内科医。
・奥さん 再婚。
・中学1年の優秀らしい一人息子。奥さんの連れ子。
・老婦人の4人暮らし。

103号室 月岡 シングルマザー。結婚せず男の子を産み、居酒屋勤め。
202号室 田中 たっぷりとした体格の専業主婦。4人の息子あり。
<小蔵屋の常連>

・大野 主婦、痴呆の出始めた母親を三人の姉妹で看ている。
息子 耕治くん 中学3年生、受験を控えているが、インコみたいな頭をしている。

[クワバラ、クワバラ]

桑原庄一郎(故人)
姉 岡安松子
妹 富永秀子

草が新しく「小蔵屋」を改装するとき、 古材を調達した古民家の主。
・松子 草より年上。松子が草の交渉相手。
・秀子 夫は家電量販店「トミナカ電器」の会長。
尋常小学校の時代、草と同級生。 当時草に嫌がらせの限りを尽くした。
・宮内 秀子の夫が亡くなったあと、句会で知り合った、妻を亡くし、一人暮らしの男性。

[0と1の間]
白石慶太

国立大学理工学部の学生。草のパソコンの家庭教師。
援助交際の女子高生(藤原美月)に夢中に。
・水野 白石の友人。白石に忠告するも聞き入れられず。

宇島善三
娘 布施圭子
(けいこ)

千葉の漁港近くで診療所開業の医師。台風で家を失い、娘夫婦の所にやって来た。
・圭子 父親のプライドが高い、がっくりきている、ストレスが溜まっている様子を草に打ち明ける。

[悪い男]

大竹
母親 大竹永江

運送屋の寺田の友人。高校時代の同級生で野球部員。
高校時代、大竹は金を借りまくって町から姿を消した。そして25年経ち、寺田に8万借りていたと返却。
その後母親を殴って、現金を奪った犯人として逮捕される。

清瀬小枝子(さえこ)
<旧姓 茂木>

長い髪のすらっとした女性。アフガン犬を連れてパターゴルフの駐車場の真ん中にいた男に手を振っているところを寺田が目撃している。
[萩を揺らす雨]

大谷清治

与党の要職を歴任した草の幼馴染み。引退後衆院解散の総選挙に無所属で立候補表明。草に、愛人の鈴子の葬儀出席と、鈴子との間に生まれた清史に言付けを頼む。
草がひそかに好きになっていた相手。清史の秘密を共有している仲。

鈴子
夫 染矢
息子 清史
(きよふみ)

大谷を守るため身をひき、染谷と結婚し、京都に住むも、心筋梗塞で亡くなる。
・清史 大谷と鈴子の間に生まれた子。染矢の子として育てられる。
 秘密は大谷と鈴子、草しかし知らない。
 ひと癖もふた癖もある人間に。

常木孝広(たかひろ)

清史にとって中学時代陸上部の先輩。借金持ち。
・小田 常木と組んでドラッグ売買の仲間。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 離婚や息子との死別を乗り越え、老いても自分の夢にかけたお草。知的で小粋な彼女が、街の噂や事件の先に見た人生の“真実”とは。日常の謎をおばあちゃん探偵が解く、オール讀物推理小説新人賞受賞作。

読後感:

 北関東の紅南町(こうなんちょう)で「小蔵屋(こくらや 和食器とコーヒー豆の店)」を営む76歳の杉浦草が織りなす、ミステリーというシリーズ物の第一弾に当たる本作品。 この前に第2弾に当たる「その日まで」を読み、草の辛い思い出の原点を知りたくなって取り上げた。

 5篇の作品が掲載されている。 特に[紅雲町のお草]と[萩を揺らす雨]で草の生い立ちや幼くして亡くなった息子良一の顛末が分かり、この後のシリーズを読むに当たり、身近に感じるよすがとなった。

 さて、中でも印象深いのが[0と1の間]の白石慶太と宇島善三のこと。
 白石は草にパソコンの家庭教師をする大学生。援助交際の藤原美月に夢中になり、次々と金を工面しているわけは・・・。 そして、千葉の漁師町で診療所を開いていた宇島が、台風で家も仕事も奪われ、妹夫婦の所に居候することになったが、プライドの高さ、ストレス等で上手くいかない人物。 草は果たしてどんな処方箋を繰り出すのか。

 白石に「助けてくれ、と言えないかい」「言ったら、いけないの?」「極端ねえ。いいところを見せ合うか、べったりか、ふたつにひとつしかないの? 自分で抱えきれない荷物があるなら、ちょっと友だちに持ってもらえばいいじゃない」「あのね、お金の貸し借りじゃないのよ。 いつか、自分にゆとりがある時に、別の誰かの荷物に手を貸したっていい。それだけのことじゃないの」と。

[萩の揺れる雨]では、草の幼馴染みの大谷清治が愛人の鈴子が亡くなったことで、彼女に対する思いを草に告げ、頼み事をされて、京都に住む鈴子との間に密かに生まれた息子の清史に会いに行く。 しかし、草自身にとっては、大谷の女になっていた気持ちに、ひどく惨めでいたたまれない思いをした。

 各篇、草が76歳という老女の域にありながら、前向きで自身の経験や見識から、物事を感じ取り、解きほぐしていく内容は、しっとりと胸にしみいってくる。


余談:

「紅雲町ものがたり」のシリーズとして以下がある。
 ・第1弾 萩を揺らす雨
 ・第2弾 その日まで
 ・第3弾 名もなき花
 ・第4弾 糸切り
 ・第5弾 まひるまの星
 ・第6弾 花ひいらぎの街角
 ・第7弾 黄色い実
 ・第8弾 初夏の訪問者
 ・第9弾 月夜の羊 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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