吉川永青著 『治部の礎』


 

              2016-12-25



(作品は、吉川永青著 『治部の礎』  講談社による。)

           
 

  本書 2016年(平成28年)7月刊行。書き下ろし作品。

 吉川永青(よしかわ・ながはる)(本書より)

1968年東京生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。2010年「我が糸は誰を操る」で第5回小説現代長編新人奨励賞を受賞。同作は「戯史三国志、我が糸は誰を操る」と改題し、翌年に刊行。12年、第2弾「戯史三国志、我が槍は覇道の翼」で第36回吉川英治文学新人賞候補となる。7人の作家による”競作長編”「決戦!関ヶ原」「決戦!三国志」「決戦!川中島」にも参加している。他に「戯史三国志、我が土は何を育む」「時限の幻」「義仲これにあり」「義経いづこにありや」「天下、なんぼや」「関羽を斬った男」「悪名を残すとも」がある。

主な登場人物:

石田三成

秀吉の本拠長浜近くの地侍の子。計数に長けている。
治部小尉(しょうゆう) 従五位下に任ぜられる。

大谷吉継

三成の朋友。三成の進言で秀吉に召し抱えられた恩がある。
刑部小尉 従五位下に任ぜられる。

黒田官兵衛孝高
(よしたか)(如水)

秀吉の軍師。三成とは相反目することが多かったが、互いに影響を及ぼしあった。

島左近尉清興
(さこんのじょうきよおき)

明智光秀の寄騎筒井順慶の家臣。後々佐和山城に迎えられ吉継と共に三成の真の友に。

加藤清正
福島正則

秀吉の子飼いの武将。共に三成より年下。
・清正は主計頭(かずえのかみ)従五位下に任ぜられる。
・左衛門尉(さえもんのじょう)従五位下に任ぜられる。

小西行長 泉州堺の薬種商小西隆佐の次男。三成の一つ年下。腰が低い。秀吉に従ってまだ日が浅い。
千利休 商人、茶人。秀長と共に秀吉の歯止め役。

豊臣秀吉
(羽柴秀吉)

信長の後を勝ち取り天下人に。

豊臣秀長
(羽柴秀長、小一郎)

秀吉の弟。千利休と共に殿下の歯止め役。
徳川家康 尾張三河藩主。小牧・長久手の戦いで戦は家康側の勝ち、勝負は秀吉側の勝ち。関ヶ原の合戦で勝ち、三成に対し・・・。
島津義久 薩摩藩当主。九州征伐で破れるも、許され自らは上方にそして娘の亀寿姫を人質に大阪城に差し出す。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 覇王信長の死後、天下人を目指す秀吉のもと、綺羅星の如く登場し活躍する武将たちを差し置いて、最も栄達した男、石田三成。その「義」は、誰のためにあったのか。日本の礎を築いた男を描く歴史長編小説。

読後感

 石田三成に関しては主に武将として秀吉に可愛がられ、常に側に居て秀吉の意向を伝えたり、関ヶ原の合戦での豊臣方の憎まれ役的印象が強い。本作品はその石田治部の武武将としての面よりも戦と政の政の面での活躍ぶりに焦点を与え毛利方高松城の水攻めから光秀の謀反に対処する様、賤が岳の戦いでの武将としての初めての合戦での辱め、小牧・長久手の戦い、紀州攻めから四国征伐での三成の役割、堺商人との交渉、九州征伐での裏方ぶり、小田原攻めから、千利休とのやりとり、朝鮮半島への遠征、秀吉の死そして秀吉亡き後の秀頼を世継ぎとした後の石田と家康の雌雄を掛けた決戦へと矢継ぎ早に歴史を駆け足で紡いでいく様子が面々と描写されている。紙面が限られているのでいかにも石田三成から見た歴史の縮図を見せられているような者である。

 その中での出会い、相反しあう人間模様が印象深い。
 特に印象深い間柄を上げると
・大谷吉継とはお互い恩を感じる深い絆と吉継の三成を評しての言葉が印象的。
「物怖じせんのは強みだが、相変わらず横柄よな」
 そして家康征伐を吉継ぐに打ち明けた時の吉継の反応がじんとくる。
「病に蝕まれた身を呪い、生きるのが辛いと何度も思った。だが三成は、いささかも付き合い方を変えずにいてくれた。正しすぎる心根で敵を多く作ったが、その心根が、己にはいつ如何なる時でも味方として向いていた。それが嬉しかった」と。
・黒田官兵衛との戦と政に対する思いの違いと理解度の差。
 黒田の言「お主は全く正しいだが正しすぎる!」(伴天連追放令に関して三成が秀吉に進言したことに)
・千利休の、切腹を前にしての三成へのねぎらい言葉と、(利休の進言を受け)豊臣秀長の臣であった島左近清興を石田家中に迎えることに。
・関ヶ原の戦いに敗れた三成、家康に目通り時の三成の放つ言葉。 

  

余談:

 久しぶりに時代物を読んだ。特に歴史物は戦国時代物がやはり面白い。今回は割と流れに従って今までに読んだりドラマを見たりで知ったことのあるものでおさらいのようになったが、相変わらず武将達の名前が色々変わったりと。
背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

戻る