吉田修一 『続 横道世之介』



              2020-08-25


(作品は、吉田修一著 『続 横道世之介』      中央公論新社による。)
                  
          

 初出 「小説BOC」1(2016年春号)〜10(2018年夏号)
 本書 2019年(平成31年)2月刊行。

 吉田修一
(本書による)  

 1968年長崎県生まれ。97年「最後の息子」で文學界新人賞を受賞、作家デビュー。2002年「パレード」で山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で芥川賞、07年「悪人」で毎日出版文化賞と大佛次郎賞、10年「横道世之介」で柴田錬三郎賞、19年「国宝」で芸術選奨文部大臣賞を受賞。その他の著書に「怒り」「橋を渡る」「犯罪小説集」「ウォーターゲーム」など多数。

主な登場人物:

横道世之介 大学卒業後就職できず、バイトとパチプロまがいの毎日を過ごしている、24才。我が家は1年前から「ライジング池袋」10階の狭い部屋。

小諸大輔
<通称 コモロン>

世之介と同じ大学留年組。大学の後半はほぼ二人でいたような仲。就職は山二証券営業七課に。営業には向かないようでまもなく辞める。世之介の存在は「なんかほっとするんだよ」

浜本さん
<浜ちゃん>

オープン直後パチンコの新台争いで世之介と争い横取りする。
鮨職人を目指す。

日吉桜子
息子 亮太
(りょうた)

コモロンが住む高台からマンションを覗いて見に行った時、亮太が喉を詰まらせて助けた縁で知り合う。バツイチ。
・亮太 世之介になつき、“世之介”と呼ぶ。

宮原雅史(まさし) 日吉桜子の別れた、亮太の父親。千葉大卒業後、登山ガイドを生業に海外を渡り歩く。桜子が亮太を身ごもったことを告げると雅史の顔が曇った。

隼人(はやと)
父親 重夫

日吉桜子の兄。小岩の実家に住む。光司のことで毎週見舞い、両親への謝罪の日々を過ごす。紫色のMKUに乗る。
・父親は実家で自動車整備工場を営んでいる。

光司(こうじ) 中学時代隼人と喧嘩して大怪我、以来植物状態が続く。
ゆかり スナック「夢ごこち」の美人スタントマン。
隼人と中学の時からの同級生。
床屋の理容師 世之介が通う強面の理容師。刑務所で修行をした強者。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 バブル最後の売り手市場に乗り遅れ、バイトとパチンコで食いつなぐ横道世之介。いわゆる人生のダメな時期にあるのだが、なぜか彼の周りには笑顔が絶えない。27年後、オリンピックに沸く東京で、小さな奇跡が生まれる。

読後感:

 大学を卒業したものの、一年留学したせいでバブル最後の売り手市場にも乗り遅れ、バイトとパチンコでどうにか悔いさなぎながらの世之介が、出会った人とすぐに仲良くなり、善良な市民として過ごす1年間の物語。

 人生などというものは決して良い時期ばかりではない。良い時期もあれば、悪い時期もあり、最高の一年もあれば、勿論最低の一年もある。と物語の最後の方で著者が語っている。
 この物語を読んでいると、何故かこんな人生を送れたら、幸せだろうなあと思いながらも、例えば日吉桜子に二度のプロポーズをしながらも、桜子からは「ごめん」、「わたしはもうしばらくこのままのほうがいい」と。

「・・優しいっていうかなんていうか、そういう所があんたの良いところなんだろうけれど、現実問題としてぜんぜんダメだからね。・・本気で私たちのこと大切に思ってんだったら、先に就職だろって話よ」と厳しいお返し。
 そんな世之介が影響を与えているのが
桜子の息子亮太であったり桜子の兄隼人であったり

 さらにはもう親友というか大の仲間、日頃は押し出しの弱い、劣っていると思っているコモロンが、一念発起アメリカに留学することになるとは。
「いつ見ても0ゼロだからさ、世之介のこと見ていると、なんか『まだ、ここからいくらでもスタートできるな』って見えんの」と。

 また、鮨職人になりたいと五分刈りにしようと床屋の強面の理容師に告げる浜ちゃんには、理容師に乞われ世之介も立ち会い、その後浜ちゃんとは打ち解け合う仲に。その浜ちゃんとはパチンコ店で寝台を取り合って知り合った仲だった。

 世之介がぎっくり腰で入院した年の瀬、父親が心配して福岡から訪ねてきて告げたのが「ここがお前の人生の一番底だ。あとはここから浮かび上がるだけ」と。
 挙げだしたらもっと胸に迫る話題満載で、読んでいると至福の時を感じる作品となっている。


余談:

「横道世之介」を読んだのが2012年9月に掲載していた。(本の刊行は2009年9月)従って刊行して10年ということになる。
 それだけの年月が経っているせいか、「続 横道世之介」の方が世之介は成長しているようで、作品中強面の理容師が世之介に「あんた、なんか雰囲気、変わったな」「なんか、ちょっと顔に責任感出てきたよ」「前はさ、なんか軽そうな男だなって思ってたんだよ」と。
 その辺のニュアンスは読んでいて感じられた。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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