吉田修一著
             『横道世之介』

 


               
2012-09-25



(作品は、吉田修一著 『横道世之介』  毎日新聞社による。)

      

 初出 毎日新聞連載2008年4月から2009年3月。
 本書 2009年(平成21年)9月刊行。


 吉田修一:
 1968年長崎県生まれ。
  法政大学経営学部卒。96年「Water」が文学界新人賞最終候補となる。
 97年「最後の息子」で文学界新人賞受賞。同作は第117回芥川賞候補となる。

 2002年「パレード」で第15回山本周五郎賞受賞。同年、「パーク・ライフ」で第127回芥川賞受賞。

主な登場人物

横道世之介 長崎出身で東京の大学の1年生18歳。サンバサークルにはいる。何ごとにも前向きで積極的、ノーテンキなところあり。人見知りもなく誰とでも仲良くできる性格。
倉持一平 東京の大学の同期生。一浪の19歳。サンバサークルにはいる。
阿久津唯 東京の大学の同期生。クラスに二人しか女の子いない内の一人。サンバサークルにはいる。倉持と唯の付き合いが・・・。
加藤ゆうすけ

東京の大学の同期生。
世之介は部屋にエアコンないため、加藤の部屋によく入り浸り。父親は大きなスーパーをやっていて、毎週食料品を送ってくるので、朝も夜も。

石田健次 大学の3年先輩。サンバサークルの代表。世之介、ホテルのルームサービスのバイトを紹介して貰う。
小沢 高校の時の同級生。上京の時同じ飛行機で。マスコミ研究会に入っている。(大学生?)
片瀬千春 世之介が熱を上げているパーティーガール(パーティーを企画運営する会社の手伝い)。
大崎さくら 地元高2の2学期、世之介一世一代の告白をし、付き合っていた女の子。しかし3年に進級直後、さくらの方から終止符を打つ。
与謝野祥子
(しょうこ)

加藤と自動車教習所に行って、戸井睦美と加藤のWデートで知り合う。その後祥子の方から世之介にアタック。
両親は世田谷の屋敷に住むお嬢様。


物語の概要:

なんにもなかっただけどなんだか楽しかった懐かしい時間。愛しい人々…『パレード』『悪人』の吉田修一が描く、風薫る80年代の青春群像。平成の三四郎ともいえる、傑作青春小説誕生。

読後感:

 何とも楽しくて、懐かしくて、嬉しくなるような作品である。横道世之介、時代劇かと本の題名を見て思った。どっこい、井原西鶴の「好色一代男」の主人公の名前と同じらしい。


 キザでもなく、人見知りすることもなく、九州は長崎の出身、東京の大学に出てきたばかりの18歳の青年。あまり物事にこだわることなく、でも人間としての優しさとかは持ち合わせているさわやかな青年。


 東京での初めての一人暮らし、アパートでの初っぱなから同じ階の女性から声を掛けられたり、大学での初めてあった人間ともすぐに仲良くなり、暑いからとクーラーのある加藤の部屋に入り浸ったりと、自由奔放というかうらやましい性格の青年。青春を謳歌しているようでいて、1年間の出来事が月を追って描写されていく。
 
 ところが、途中に急に誰のことを描写しているのか判らなくなるような場面が出現する。実は18歳から19歳の大学1年生の時代が、その後15年とか20年先のことが描写されているのである。


 時の流れがどのようなことになったのか、かなりのショックというか、現実の世界が展開されていて、単なる青春小説でないことが故に、読んでいて一層の青春時代の輝きが胸に迫ってきた。
 以前に「悪人」を読んでいたが、同じ作者がこういう作品も書いているのだと感激。

印象に残る場面:

◇ 幼稚園から高校までずっと一緒だった仲良しの戸井睦美と与謝野祥子とのやりとり

 睦美が一人娘の愛ちゃん(一人で留守番も出来ない子)が、祥子の海外での活躍の雑誌を見て、高校から全寮制の学校に行きたいと困らせているのに対して、祥子の言葉:

“大切に育てるということは「大切なもの」を与えてやるのではなく、その「大切なもの」を失った時にどうやってそれを乗り越えるか、その強さを教えてやること”なのではないかと思う。

◇ 国連職員としてアフリカの難民キャンプで働く祥子が、20年前の初めて好きになった人ってどんな人?と聞かれて仲間に語る言葉:

「立派?ぜ〜んぜん。笑っちゃうくらいその反対の人」
「ただね、ほんとになんて言えばいいのかなぁ・・・。いろんなことに、『YES』っていってるような人だった」
「・・・もちろん、そのせいでいっぱい失敗するんだけど、それでも『NO』じやなくて、『YES』って言ってるような人・・・」・・・
「・・・うん、すごく好きだった。あんまり好きすぎて腹が立つくらい。でも別れちゃったんだよね。もう理由も思い出せないくらい。お互いにまだ十代だったし、何かを決める年齢じゃなかったんだと思う」

  

余談:

 図書館の紹介記事の“平成の三四郎”と表現されているが、なるほど夏目漱石の作風がほとばしるようで、結構嬉しい小説であった。

背景画は横道たちが入っていたサンバサークルの活動をイメージして。

                    

                          

戻る