吉田修一 『ウォーターゲーム』



              2020-09-25


(作品は、吉田修一著 『ウォーターゲーム』      幻冬舎による。)
                  
          

 初出 北海道新聞、東京新聞、中日新聞、西日本新聞の連載(2015年12月〜2016年11月)に加筆・修正。
 本書 2018年(平成30年)5月刊行。

 吉田修一
(本書より)  

 1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。97年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞しデビュー。2002年「パレード」で山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で芥川賞、07年「悪人」で毎日出版文化賞と大佛次郎賞、10年「横道世之介」で柴田錬三郎賞を受賞。「太陽は動かない」「森は知っている」「怒り」「犯罪小説集」ほか著書多数。

主な登場人物:

鷹野一彦

AN(アジアネットワーク)通信の記者。子供の頃の救われない時代を経験している。
AN通信はアジア各国に小さな支局と派遣員を置き、主にアジア各国のエンターティンメント情報をネット配信している中小企業。  裏で産業スパイのようなことをしている。

田岡亮一(りょういち) AN通信の記者、鷹野の部下。
風間武(かざま)

AN通信情報部部長。車椅子生活者。軽井沢在住。
・家政婦 

柳勇次

かって鷹野と仲良く南欄島高校で訓練を受けた。AN通信を裏切り姿を消す。弟思い。
・弟 寛太 知的障害者。

AYAKO 謎の女。時に鷹野と夫婦を演じたり、リー・ヨンソンと接触したり。
ディビッド・キム

韓国人、韓国系通信機器メーカーの社員。AN通信・鷹野の商売敵。

デュボア フランスの多国籍企業で、世界各国で水道事業を一手に引き受ける水メジャー企業の一つ「V.O.エキュ」社の重役。
リー・ヨンソン

シンガポール国籍の国際便利屋(武器商人でもある)。「V.O.キュア」社の筆頭株主。顔には痛ましい傷跡が。
日本のダム爆破決行者。アヤコと一緒にいるところを鷹野が目撃。

ミス・マッグロー 父親はイギリスの投資会社「ロイヤル・ロンドン・グロース(RLG)」のオーナーの一人娘。リー・ヨンソンと組んで中央アジアの水権利を獲得し、利益の独り占めを目論む。
ロバート イギリスのエスタブリッシュメント一族の御曹司。アヤコとの付き合いが15年近く、一時期アヤコとスイスで同棲。リー・ヨンソンが何者か分かったと。
アジス キリギス人。鷹野に「俺たちの水を誰にも奪われたくない。中央アジアの水資源開発についての情報を欲しい」と。リー・ヨンソンの動きを求める。
重松

東洋エナジー(日本最大手のエネルギー会社)より規模の小さなJOXパワー(主にドメスティクな展開をしている企業)の人間。大国首相の導きで中尊寺に提案話を持ち込む。

若宮真司

土木作業員。相楽(さがら)ダムの補修で来ている。
安達の受け取った金を横取り逃走、南欄島に向かう。逃走の際、すみれという両親に虐待されている女の子を連れて行く。
真司も幼少の頃同じような境遇。

安達 安達建設(ダム補修会社)の二代目若社長。相楽ダム爆破の手引きをし、残りの金を受け取ろうとするも・・・。
九条麻衣子

九州新聞社会部記者。相楽ダム爆破に関わるスクープから、若宮真司の過去、さらにはAN通信の素性を調べようと南欄島に向かう。
・上司 小川

中尊寺信孝 衆議院議員、戦後日本のエネルギー政策を左右してきた政界の重鎮。
山崎 東洋エナジーの幹部。後に中尊寺に引き抜かれ、私設秘書に。
大国 日本の首相。中尊寺は自分が面倒を見て育てた自負を持つ。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 考えるんだ。たとえ1%でも可能性があるなら。敵か味方か、嘘か真実か、善か悪か…。金の匂いに敏感な男女が、裏切りあい、騙しあいながら“今”を駆け抜ける。

読後感:

 本作品、刊行順に「太陽は動かない」「森は知っている」「ウォーターゲーム」のシリーズ作品であるが、主人公である鷹野一彦の年代が順序が順列でなく、「森は知っている」が南欄島での高校3年生の18才になろうとして、AN通信の組織員となるかの最終試験を試されている時代の出来事で、仲間としての柳勇次との友情、上司となる風間の冷徹さと暖かさを感じ、車椅子生活をしている原因を知る。
 その後が「太陽は動かない」の時代が来て、「ウォーターゲーム」の鷹野と部下の田岡亮一の活躍、そしてその時代が35才を迎えようとしていることが後半明かされ、やっと時代の流れを知る。

 一方、水資源を巡る主導権争いでは、誰が敵で、誰が味方かが入り乱れていてなかなか掴みづらい。さらに裏切りが入り込むため、なおさらである。
 前二作では日本国内のものであったが、「ウォーターゲーム」では国内は中尊寺信孝が利権を得ようと画策する一方、中央アジアでの水資源計画を巡る利権争いが主役に複雑に展開。

 リー・ヨンソンという人物が主役級で登場、また「太陽は動かない」での人物が再び登場することに。さらにミス・マッグローの出現とアヤコとの対決もみもの。
 本作の最初に出てきた若宮真司のその後の活躍も興味深い。
 それにしても、この複雑な人物達の動きを著者が展開できている不思議を感じる作品であった。


余談:

 このシリーズ作品を読む前には、吉田修一の「続 横道世之介」を読んでいた。あまりの違いにこの作家、どういう人物なのかと戸惑ってしまう。作家って色んな才能があるんだなあと。 
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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