吉田修一 『太陽は動かない』



              2020-09-25


(作品は、吉田修一著 『太陽は動かない』      幻冬舎による。)
                  
          

 初出 「ポンツール」(平成23(2011)年5月号〜平成24(2012)年1月号)に連載されていたものに加筆・修正。
 本書 2012年(平成24年)4月刊行。

 吉田修一
(本書より)  

 1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。97年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞、作家デビュー。2002年「パレード」で第15回山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で第127回芥川賞、07年「悪人」で第61回毎日出版文化賞、第34回大佛次郎賞、10年「横道世之介」で第23回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に「さよなら渓谷」「女たちは二度遊ぶ」「平成猿蟹合戦図」など多数。

主な登場人物:

鷹野一彦

AN通信の記者。子供の頃の救われない時代を経験している。
AN通信はアジア各国に小さな支局と派遣員を置き、主にアジア各国のエンターティンメント情報をネット配信している中小企業。  裏で産業スパイのようなことをしている。

田岡亮一(りょういち) AN通信の記者、鷹野の部下。
青木優 AN通信上海支局の文化記者。
風間武(かざま) AN通信情報部部長。車椅子生活者。
AYAKO 謎の女。CNOXと仕事をしてみたり、AN通信の鷹野を悪徳仲介者と呼んで、相手と直接取引を誘ってみたりと。
ディビッド・キム

韓国人、韓国系通信機器メーカーの社員。AN通信・鷹野の商売敵。小田部憲三の娘菜々に近づき、婚約まで。

アンディ・黄(オウ) 香港トラスト銀行頭取。CNOXの推進親玉。
アラン・ホワイト ポーランドの大学で政治学の教授。
スタンレー情報コンサルティング顧問。
ジミー・オハラ 中国の国営総合エネルギー巨大企業CNOX社員。
張豪(ジャンハオ)

中国で雑伎団を主宰。闇社会の事情通。鷹野と組んでいる。
雑伎団:地方回りの小さな集団。

張雨(ジャンユウ) 雑伎団団員。張豪の指示で鷹野と共に働く。
シャマル ウイグルの反政府過激派組織の首領。武闘派。
一陣風(イッジェンアォン) 女性の人気歌手。
郭健(グォジェン) 中国共産党の若手政治家。陽気で五十嵐拓と同年代。
中尊寺信孝 元自民党の代議士で、政界の重鎮。
五十嵐拓 民主党の代議士、34才。静岡県選出の一回生議員。去年議員団の一員として訪中したとき、日本の議員団の世話役であった郭健と知り合う。
丹田康祐(こうすけ) 五十嵐拓の第一秘書。元は大学の1年後輩。二人三脚で政治家を目指す。表に出るのが苦手。
松野香織 五十嵐の高校の同級生。五十嵐拓の不倫相手。

広津一義
息子 陸

静岡県御殿場市で医療器具の製造工場を経営。
・息子 陸 新型太陽光パネルを開発。五十嵐の剣道部の後輩。
五十嵐に新型太陽光パネルの将来を一任する。

小田部憲三
妻 和子
娘 菜々

京都大学教授。マイクロ波研究の第一人者。
・菜々 アンディ・キムと婚約。アンディの本心を感じている。

河上満太郎
妻 麻子

日本の大手電機メーカーMETの取締役。息子を誘拐され行方不明の状態。生きていれば鷹野と同じ年代で、鷹野に今は幸せかと。

補足:CNOXという企業は、母体となる「中国石油」が80年代前半に中国大陸沖合の石油採掘を目的に設立された国営企業で、完全に中央政府の管理下に置かれていた。しかし、現在は中国中央政府の管理下にあるという建前ながらも、世界に名だたる多国籍企業へと変貌。中国という大国の中にCNOXという小国が誕生したと考えられ、身動きのとれない大国の代わりに軽やかに動き回れる。しかもそのうち大国の幹部たちが自由に金儲けが出来る小国の幹部も兼ねるようになると、そこで矛盾が起こる。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 新油田開発利権争いの渦中で起きた射殺事件。AN通信の鷹野一彦は、部下の田岡と共に、その背後関係を探っていたが…。それぞれの思惑が水面下で絡み合う、目に見えない攻防戦。ノンストップ・アクション超大作。

読後感:

 なかなか難解な物語であった。まずAN通信の素性がよく分からない。風間武、鷹野一彦や部下の田岡亮一、そして上海支局の青木優という支局員の動き。
 ましてや鷹野は胸に事件爆弾を埋められていて、風間に連絡を入れないと爆死する羽目に。
 そして風間はルール至上主義で、守らないと容赦なく田岡を次の鷹野に仕立てるという。
 仕事は産業スパイのようで、情報入手とそれを高く売るためには徹底して相手のことを調べ、相手に主導権を持たせないようにと。

 物語の最初の方で展開する新油田開発を巡るウィグルの新源石油と「興和+南星」提携阻止を目論む爆破事件がこの小説の難解さを醸し出している。
 ことの本質は、中国のCNOXという国営総合エネルギー巨大企業が宇宙太陽光発電のシステムを目論見、3つのフェーズ、ひとつは宇宙で太陽光を集める人工衛星(中国側が持っている)、ここに五十嵐拓が広津陸から任された、新型太陽光パネルを人工衛星の羽に取り付けること。二つ目はそこから地上に太陽光を送るマイクロ波の技術(小田部憲三が持っている)。そして最後がそのマイクロ波を地上で受けるレクテナ基地(中国側が持っている)を手にすること。

 CNOXの狙っているのは、マイクロ波の技術を持つ小田部憲三を取り込むこと、新型の太陽光パネルを開発した広津陸の技術を入手すること、さらにはMETの持つ蓄電池の技術を取り込む野望を持っていて、活動をしている。
 これに対向するのはAN通信の鷹野と田岡が、日本側の技術を持つセクションにCNOXの情報を入手して、どういう提携なり、どこと組むのがベストかを提案すること。

 そんな大まかなストーリーを理解して初めて物語の全貌がハッキリしてきた。
 でも登場人物が色々あってこれもまた混乱の元である。
 AYAKO、青木優の行動が謎多いし、風間や鷹野の素性が、ほんのラストに描写されると共に、五十嵐拓の一回生議員の位置づけが大きさを増したようだ。


余談:

 吉田修一の本作品「太陽は動かない」は鷹野一彦シリーズとして「森は知っている」「ウォーターゲーム」と続いていて読み続くことに。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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