吉田修一著 『パークライフ』


 

              2009-03-25



(作品は、吉田修一著 『パークライフ』  文藝春秋による。)

                
  
 

 初出:「文学界」平成14年6月号掲載。
 2002年8月刊行

 

 吉田修一:

 1968年長崎県生まれ。
  法政大学経営学部卒。96年「Water」が文学界新人賞最終候補となる。
 97年「最後の息子」で文学界新人賞受賞。同作は第117回芥川賞候補となる。
 
2002年「パレード」で第15回山本周五郎賞受賞。同年、「パーク・ライフ」で第127回芥川賞受賞。


主な登場人物:


僕(主人公) 主にバスソープや香水を扱う会社で広報兼営業を担当している。
彼女 日比谷公園の心字池の付近で見かける女性。地下鉄日比谷線霞ヶ関の駅車内でふと言葉を交わし、それから日比谷公園で会話をするように。
近藤さん 先輩社員、35歳、2年前に離婚、一人娘春子さんに二週間に一度会わせてもらっている。

宇田川夫妻
瑞穂さん
和博さん

瑞穂さんは大学の先輩、アパレルで広報を担当。和博さんとは何故かそれぞれの理由で家を出ている。宇田川夫妻から、ラガーフェルドの面倒を見てくれるよう頼まれている。
ラガーフェルド 宇田川夫妻の愛猿、リスザル。


読後感
  

 これは何ともいい小説なのか悪い小説なのか。芥川賞作品と言うことで最後まで読んだが、実に奇妙と言うか、何を言いたいのか、それとも都会の流れるような単調で淡麗な世の中のことをつづっているのか?

 ただ、「悪人」を書いた同じ著者と言うことで、この作家のすごさを感じさせる作品である。
 関心があったので芥川賞の選評を調べてみた。

 中でも黒井千次氏の「作品の表題と内容とが美事に重なり合った吉田修一氏の「パーク・ライフ」には、他の候補作に擢んでる完成度が見られた。ファミリーライフでもスクールライフでもなく、ビジネスライフからも外れた短い時間を過す日比谷公園での主人公〈ぼく〉と一人の女性との触れ合いが、とりとめもなく、しかし執拗に描かれて、いわばライフのない場所での現代のライフの光景が鮮やかに浮かび上っている。」に代表される評価に対し、
 池沢夏樹氏の「『パーク・ライフ』をぼくはまったく評価できなかった。現代風俗のスケッチとしても、もう少し何か核になる話があってもよかったのではないか。現代の東京の人間はこれくらい希薄な生きかたをしていると言いたいのかもしれないが、そんなことはわざわざ小説に書かなくともわかっている。」

 両者とも自分の中で納得。さてそれで芥川賞に推されると言うことは推す人の方が多かったと言うことでしょう。芥川賞作品はやはり難しい。きらりと光るものがあるのは認めるとして。


印象に残る場面:

ちょっと変わった表現:僕と彼女の日比谷公園ベンチでの会話   

「店で食べてきてもいいんだけど、あそこたばこ吸えないでしょ。それにスターバックスってあまり好きじゃないの。あなた好き?」
 少し意外な気がした。彼女はシナモンロールにこびりついた砂糖を指で弾いてとっていた。

「たばこが吸えないから嫌いなんですか?」
「そうじゃなくて、なんていうんだろう、あの店にいると、私がどんどん集まってくるような気がするのよ」
「え?」
「ちょっと言い方がヘンか? だから、あの店に座ってコーヒーなんか飲んでると、次から次に女性客が入ってくるでしょ? それがぜんぶ私に見えるの。一種の自己嫌悪ね」
「ぜんぶ自分に?」
「だから、どういうんだろうなぁ、たぶんみんなスターバックスの味が判るようになった女たちなのよね」
「スターバックスの味?」
「ほら、よく言うじゃない、これは子供を産んでみないと判らない、これは親を亡くしてみないと判らない、これは海外で暮らしてみないと判らないなんて、それと同じよ。別に何したわけでもないんだけど、いつの間にか、あそこのコーヒーの味が判る女になってたんだよね」


  

余談:
 
一人の作家の作品群についての関心が湧いてくる。これからの読む作品の選択にも影響が出てこよう。
 
背景画は、日比谷公園の大噴水光景。

                    

                          

戻る