印象に残る場面:
◇ちょっと変わった表現:僕と彼女の日比谷公園ベンチでの会話
「店で食べてきてもいいんだけど、あそこたばこ吸えないでしょ。それにスターバックスってあまり好きじゃないの。あなた好き?」
少し意外な気がした。彼女はシナモンロールにこびりついた砂糖を指で弾いてとっていた。
「たばこが吸えないから嫌いなんですか?」
「そうじゃなくて、なんていうんだろう、あの店にいると、私がどんどん集まってくるような気がするのよ」
「え?」
「ちょっと言い方がヘンか? だから、あの店に座ってコーヒーなんか飲んでると、次から次に女性客が入ってくるでしょ? それがぜんぶ私に見えるの。一種の自己嫌悪ね」
「ぜんぶ自分に?」
「だから、どういうんだろうなぁ、たぶんみんなスターバックスの味が判るようになった女たちなのよね」
「スターバックスの味?」
「ほら、よく言うじゃない、これは子供を産んでみないと判らない、これは親を亡くしてみないと判らない、これは海外で暮らしてみないと判らないなんて、それと同じよ。別に何したわけでもないんだけど、いつの間にか、あそこのコーヒーの味が判る女になってたんだよね」
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