吉田修一 『森は知っている』



              2020-09-25


(作品は、吉田修一著 『森は知っている』      幻冬舎による。)
                  
          

 初出 「小説BOC」1(2016年春号)〜10(2018年夏号)
 本書 2015年(平成27年)4月刊行。

 吉田修一
(「太陽は動かない」より)  

 1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。97年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞、作家デビュー。2002年「パレード」で第15回山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で第127回芥川賞、07年「悪人」で第61回毎日出版文化賞、第34回大佛次郎賞、10年「横道世之介」で第23回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に「さよなら渓谷」「女たちは二度遊ぶ」「平成猿蟹合戦図」など多数。 

主な登場人物:

鷹野一彦

沖縄県石垣島の南西60キロに浮かぶ孤島<南欄島 ならんとう>の東側轟(とどろき)部落に暮らす訳ありの高校3年生。
鷹野の生い立ちは壮絶なもの。
・知子ばあさんが面倒を見ている。

柳勇次
弟 寛太

鷹野と同じ轟部落に暮らし、クラスは違うが鷹野とは仲良し。あと一月ちょっとで18才、18才になると初めての任務に就く決まり。鷹野は徳永から、逃げたとの知らせを受ける。
・寛太 知的障害者、柳が面倒を見ていて、「俺に何かあったら寛太を頼む」と鷹野に。

平良(たいら) 鷹野と同じクラス。
菊池詩織 東京から転校してきた、リゾートマンション「ラ・レジデンス南欄島」に祖父母と暮らす訳ありの高校3年生。鷹野と同じクラス。
徳永

40才近い妻や子供はおらず、掃除洗濯食事は鷹野と同じように知子ばあさんに頼っている。AN通信の人間で、鷹野や柳の子守役。任務失敗の命乞いをして、35才以降もAN通信に残る。

風間武(かざま)

N通信の人間。元フリーの記者。徳永や一条の上司。
鷹野を引き取り、対する冷酷さと暖かみのある態度。

北園富美子

訳ありの鷹野が風間に引き取られ、世話をすることになった家政婦。鷹野が中学にあがったばかり一番荒れていて、怖い目に遭うも、「絶対に私は鷹野くんを死なせない」と思う。

一条

AN通信の人間。ソウルでの鷹野の任務の指示役。
徳永と組んだ任務で失敗の経験あり、風間に対する説明は全く違っていた。徳永の方が5才年上。

ディビッド・キム 鷹野が「和倉地所」に忍び込んだとき、彼と鉢合わせ一緒に逃げた人物。同様の、別の組織の人間らしい韓国人。
サラ 鷹野の初の任務、パリで出会った女。鷹野は、香港でクリスマスパーティーに誘われるよう指示される。
遠山ミキ サラの兄(マット)の恋人。
中馬重雄 AN通信の人間。風間をAN通信に引き入れた人物。
明石

補足:AN通信のルール。18才で入るかどうか自分で決める。AN通信の組織に入ると、毎日正午に連絡が取れなければ胸にはめ込まれた爆破装置が作動する。
35才迄務めると晴れて開放され、好きなものを手にすることが出来る。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 南の島の集落で、知子ばあさんと暮らす高校生の鷹野一彦。一見のどかな田舎の高校生活だが、その裏では、ある組織の諜報活動訓練を受けている…。ささやかでも確かな“希望”を明日へと繋ぐ傑作エンターテイメント。

読後感:

 先に読んだ「太陽は動かない」に登場の、鷹野の若い時代の物語で、高校3年生の南欄島での仲間達との生活ぶり、そして生い立ち、AN通信という組織の任務内容が明らかにされていて、何故かグイグイと引き込まれていく。

 先に読んだ作品のバックボーンがよく理解できてこのシリーズの面白さが増した。
 多分この後、最近時々耳にする水資源に関する民営化の問題がテーマになってくるのではないかと推察できる。

 鷹野という少年?ないし青年?の行動、仲の良かった柳がAN通信を逃げた理由や、どうしているかを心配する姿。鷹野の小さかったときのすさまじい経験、そして幾度となく死を経験する様子は衝撃的。

 一方で風間の鷹野に対する冷たさと暖かみのある行動、そして北園富美子という家政婦の鷹野に対する愛情が物語に奥行きを感じさせる。
 徳永と一条の対立的とも思える存在感も興味の一つ。
 産業スパイの組織としてのAN通信の思惑が次第にはっきりしてくる。
「太陽は動かない」で風間武が車椅子生活であった理由も本作品で分かった。


余談:

吉田修一の鷹野一彦シリーズは「太陽は動かない」、「森は知っている」、「ウォーターゲーム」と続いていて、やはり次の「ウォーターゲーム」は逃せなくなった。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る