吉田修一著 『橋を渡る』


 

              2016-09-25



(作品は、吉田修一著 『橋を渡る』   文藝春秋による。)

          
 

 初出 「週刊文春」2014年8月14日・21日号〜2015年7月30日号
     単行本化にあたり加筆。
 本書 2016年(平成28年)3月刊行。

 吉田修一(本書より)

 1968年生まれ、法政大学経営学部卒。
 97年「最後の息子」で第84回文学界新人賞を受賞しデビュー。
 2002年「パレード」で第15回山本周五郎賞、
「パーク・ライフ」で第127回芥川賞を受賞。
 07年「悪人」で第61回毎日出版文化賞、第34回大佛次郎賞、
 10年「道世之介」で第23回柴田錬三郎賞を受賞。
 近著に「路」「愛に乱暴」「怒り」「森は知っている」
 「作家と一日」などがある。

主な登場人物:


<春 明良>

新宮明良
妻 歩美

ビール会社の営業課長。真沙(マサ)と不倫をしている。
妻の歩美はギャラリーを営む。
姉の真琴夫婦から孝太郎を預かる。
・孝太郎 高校生。ガールフレンドの結花
(ユカ 17歳)と付き合っている。

真琴
夫 貴信
息子 孝太郎
娘  日向子

歩美の姉。
夫は大手商社勤務。半年前シンガポールに転勤、孝太郎を残し家族で赴任。
・孝太郎 高校生。
・日向子 小学生。

朝比奈達二

新進の画家、有名なキュレーター小巻エリ子に見い出される。
歩美は朝比奈達二の才能は認めなかったが・・・。

<夏 篤子>

赤岩篤子
夫 広貴
息子 大志(たいし)

結婚と同時に退社、ボランティア活動をしている。
夫の広貴は東京都の都議会議員。塩村文夏都議の本会議でのヤジ発言会派に属している。
・大志は小学生、スイミングスクールに通っている。

今泉典子
<亜弥ちゃんママ>
娘 亜弥

大志の通うスイミングスクールでのママ友の中で篤子は一番の仲良し。
・大友コーチ スイミングスクールのコーチといい仲。

江原

広貴の中学からの友人。現在レンズ工場を継いでいる。
奥さんは無愛想でイタズラ電話はこの奥さんではと篤子は疑っている。

<秋 謙一郎>
里見謙一郎 富山県出身のテレビ局勤務、報道ディレクター。水谷真司に誘われ社会人の和太鼓のサークル“桐の会”に入っている。
薫子

結城と同じ和太鼓のサークルにいる。そこで里見謙一郎と出会う。再来月謙一郎と結婚の予定だが、結城とのことが・・。

水谷真司

週刊誌の担当。謙一郎と大学同期。結城と相性合わず、別の和太鼓のサークルへ。(赤岩篤子からのクレームを受ける。)

結城 小さな広告代理店の社長。社会人の和太鼓のサークルのリーダー。妻帯者、子供も居るが、薫子と関係を持っている。
佐山京二 ライフサイエンス研究所の教授。
<そして、冬> 2085年(2015年の現代の70年後)の世界

外村響
【サイン】

陸軍の軍人。響も凜も佐山京二教授の研究所で初めて作られ育つ【サイン】。

立花心々菜(ここな)
父 朝比奈達二
母 咲來
(さくら)

響の妻。母と心々菜は妻子ある朝比奈達二に捨てられた。
咲來35歳、朝比奈60代半ばの時の子。
父は有名な画家朝比奈達二。2020年代に。
母の咲來は孝太郎と結花の娘。(「春 明良」で高校生の結花が妊娠し生まれた子)

名波凜(ななみ りん)
【サイン】
旦那 赤岩薫風
(くんぷう)

名古屋の研究所からすぐ薫風に嫁に。
薫風は祖父(広貴)と江原が共同で立ち上げたEHARAという兵器メーカーの創業一族の孫。父親は若死にした大志。
EHARAはその後悪党がかっさらって今はない。

補足:【サイン】 少し変わった方法で生まれる人間のこと。男女の生殖から生まれるわけじゃなくて、人の血液細胞から・・。佐山京二教授の研究成果。
 寿命は長くなく40代で死ぬ。平均身長は普通の人間より5〜6cm低い。生殖能力がない。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

大切な人の不倫、不正、裏切り。正義によって裁くか、見ないふりをするか。やさしさに流されてきた3人の男女が立ち止まる時…。一気読み必至。新次元の群像ドラマ、ここに誕生。

読後感
  

 <春><夏><秋>と物語が展開するが、<そして、冬>では現代の2015年の85年先の世界を描いている。そこに登場する人物達は現代の人物の未来の姿であるし、世の中も例えばリニアや掃除ロボットや警備ロボットとかの他、サインと呼ばれる人間とは差別される人間(?)が存在するし何とも奇妙な感じが否めない世界。
 <春><夏><秋>で疑問の残る出来事の顛末が<エピローグ>で明らかになる。

 <春 明良>での朝比奈達二という新進画家志望青年の才能を、小さなギャラリーを営む歩美は認められないのに、有名なキュレーターの小巻エリ子が推して歩美は閉め出される。
 また甥の孝太郎(高校生)が同じく高校生の結花わ妊娠させてしまいどうなる?

 <夏 篤子>では東京都議会議員の夫広貴のヤジ発言騒ぎと友人の江原との賄賂受け取り疑惑に悩む篤子。知らないのにスーパーの買い物籠に入れられていたカニ缶や白桃缶の謎。

 <秋 謙一郎>は再来月に結婚披露宴を執り行う予定の相手薫子が和太鼓のリーダーであった妻子ある結城とのことを忘れられない姿に衝動的行動に。
 この章のことが一番迫力があったが、<そして、冬>でも70年前の世界からのタイムトラベラーとして登場し、響と凜の逃亡に関わってくる。

 通して感じるのは、<そして、冬>が70年先の世界が入り込んでいる為、現実離れしてしまって非常に違和感を感じ、どうかなあと感じてしまった。
【サイン】と言う存在、先に出てきた登場人物との複雑な関係、現在の延長から来る未来予測の世界と何故か上手くかみ合わずしっくりとこなかった。
 <エピローグ>でやっと現実の世界に話が戻り息を吹き返したように落ち着いた。

  

余談:

 吉田修一作品を既に「悪人」「道世之介」「怒り」そして「パークライフ」と読んで来たが、どちらかというと「パークライフ」で感じたような部類なのかな。 

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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