読後感:
最初の福岡市と佐賀市を結ぶ263号線のこと、南北に背振山地の三瀬峠の話、霊的な話が絶えないとの文章を読んでいると、何か以前読んだことのある事件のことを思い出す。振り返ってみると、そう「復讐するは我にあり」の舞台もよく似た箇所であった。
そんな親近感?からか話にのめり込んでいけた。
物語の最初の方で、福岡市内に暮らす保険外交員石橋佳乃が絞殺され、土木作業員が逮捕されるという所から始まる。
しかも、その事件の展開が、次から次と過去に向かって展開するのと、過去のいきさつが描かれていくに従い次第に登場人物の輪郭がハッキリしていくこと、つぎつぎ登場する人物が犯人ないし、容疑者の人物と関わりがあるのと当時に、犯人や容疑者の人物像を次第に明確にしていく手法にはなかなか引き込まれてしまう。
出会い系サイトで知り合った女の素顔が次第に明らかになっていくと同時に、その周りの家族関係、人間関係、生い立ちも横糸に広がりをみせ、薄っぺらなものでなく、厚みのある読み物となっている。残酷な場面はなく、今日の若者気質や世相も納得できる。
最終章になると、加害者の育ての母親、被害者の両親が、ちょっとした理解者の後押しで気持ちが吹っ切れて、その後の生活を取り戻していく姿にほっとするところである。
それにしても、悪人という題名から想像し、もっと悪の模様があるのかと想像していたが、本当に悪人だったのか、善良なるが故に悪を装ったのか、余韻の残る結末であった。
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