米澤穂信著  『 満願 』





               2016-02-25


 (作品は、米澤穂信著 『 満願 』      新潮社による。)

              

初出
 夜警   「小説新潮」 2012年5月号(「一続きの音」改題)
 死人宿  「小説すばる」2011年1月号
 柘榴   「小説新潮」 2010年9月号
 万灯   「小説新潮」 2011年5月号
 関守   「小説新潮」 2013年5月号
 満願   「Story Seller Vol.3」2010 Spring (「小説新潮」2010年5月号別冊)
本書   2014年(平成26年)3月刊行。

 米澤穂信:(本書による)

 1978年岐阜県生まれ。2001年「氷菓」で第5回角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。独自の視点で「青春」を描き、かつミステリーとしての構築度も高い作品をコンスタントに発表している。「氷菓」「患者のエンドロール」「クドリャフカの順番」「遠まわりする雛」「ふたりの距離の概算」と続く<古都シリーズ>と、「春期限定いちごタルト事件」「夏期限定トロピカルパフェ事件」「秋期限定栗きんとん事件」と続く<小市民>シリーズなどで、高い人気を誇る。2011年、「折れた竜骨」で第64回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。他著に「さよなら妖精」「犬はどこだ」「ボトルネック」「インシテミル」「儚い羊たちの祝宴」「追想五断章」「リカーシブル」などがある。

 物語の概要:(図書館の紹介記事より)

 人を殺め、刑期を終えた妻の本当の動機とは。交番勤務の警官や在外ビジネスマン、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件。人生の岐路に起きる切ない謎を描いた「非日常」ミステリ短編集。


主な登場人物:

<夜警>
柳岡巡査部長
(俺)
交番長。三人一組で三交代制。2年後輩の梶井と川藤浩志の新米巡査で組む。俺は昔刑事課にいた頃部下の三木に厳しくあたり自殺に追いやったことで左遷され交番勤務に。
田原美代子
夫 勝
夫の勝は妻の浮気に暴力。
<死人宿>
佐和子と付き合っていたが、佐和子の上司と反りが合わないとの愚痴に甘いと説教。
佐和子 結局私の前から姿を消し、栃木の八溝(やみぞ)の山深く分け入った温泉宿の仲居として働く。
<柘榴>
皆川さおり
娘 夕子と月子
佐原と結婚するとき父親は「あれはだめだ。考え直しなさい」と言うも、結婚。結果成海は家族として良い人間とは言えなかった。
夕子は賢く美しく、月子は優しく可愛らしい。
佐原成海 大学のゼミで出会い、耳に心地よい声の響きや気をそらさぬ話しぶりが妙に異性を魅了。やがて家に帰るのはたまに。
<万灯>
伊丹(私) 井桁商事勤務、入社3年目にインドネシア支社に、さらにバングラディッシュのダガ支社に天然ガスの開発室長として赴く。
森下 フランスOGO社の人間。ボイシャク村で伊丹と共にマタボールと交渉に臨む。
<関守>
ライターを職にして7年。交通系の都市伝説の企画をもらい、先輩からのネタを裏に、伊豆半島桂谷峠のドライブインに。
ばあさん ドライブインの店主。亭主の死後引き続き店を営んでいる。
<満願>
鵜川妙子
夫 重治
貸金業の矢場英司殺しで一審は懲役8年の実刑判決。実家の家宝の掛け軸を大切にしている。
夫の重治は仙台から畳屋を継ぐも、派手な遊興で矢場から借金。
藤井(私) 学生時代鵜川家に下宿、卒業後藤井弁護士事務所を立ち上げる。妙子の弁護人に。
読後感

 六話の短編であるが、なんともぞっとする怖い話にすごい小説を書く者と関心。
<夜警>を読んで現実の警察官に対してある種恐ろしさを感じてしまう。どこか危うさを感じる警官がいる。しかもそんな人間が拳銃を持っている。そんなことを感じさせる新鮮な物語。

<死人宿>は2年前に姿を消した佐和子が秘湯で仲居、会いに行って私が以前と変わったかどうか試される。死を予告させる遺書の犯人捜しでそれが試される。宿が自殺の名所で繁盛するというのも恐ろしいこと。

<柘榴>では離婚したときの夕子と月子の子供たちの両親に対する見方がこういうものだったのかとこれまたこわ〜い話だった。良い家庭人でなかった夫に対し、子供たちの反応はまさに意外や意外。男親とは・・・。

<万灯>はバングラディッシュという外国生活での商社の人間の生き様がすさまじい。新鮮で、ちょっと前3話と乖離していてなじめなかったが、後半になって緊迫感が一気に高まっていく。挫折していく人間の姿、日本に戻ることで癒やされるのが感触として理解できるし、帰えるところを持っていることが幸せと感じてしまう。それとは別にこの話も恐ろしい話。

<関守>は4年の内に4件の転落事故があり、それを都市伝説と絡めて原稿作成しようと取材をする過程で物書きのこつのようなものを感じ参考になった。
 転落事故のバックに潜んでいたものは・・・。

<満願>は先にザ・ベストミステリー2011で取り上げたが、再び読んでみた。鵜川妙子という女性が殺人を起こした動機を再度考えることになったが、家宝の掛け軸に対する愛着、誇りが他人には理解できないものだったのかも。「酒に強いのも不幸だが、女房が立派なのはなお悪い」と夫重治の、あなたという妻を持ったことを身の不幸と嘆いていたのを知っていたのか?


余談:

 掲載されている6編の物語、それぞれの話が実に読者の心情に強く働きかけてきて著者の力量に感服。6編もあるとどれかはちょっと息抜きのようなものもあるのだけれど、それが全くなく、すぐに引き込まれてしまった。そしてどれもぞっとしてしまう内容であった。

背景画は作品中<死人宿>に出てくる梁(やな)の風景をイメージして。 

                    

                          

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