米澤穂信 『本と鍵の季節』



              2020-06-25


(作品は、米澤穂信著 『本と鍵の季節』      集英社による。)
                  
          

 初出 913         「小説すばる」2012年1月号
    ロックオンロッカー   「小説すばる」2013年8月号
    金曜に彼は何をしたのか 「小説すばる」2014年11月号
    ない本         「小説すばる」2018年8月号
    昔話を聞かせておくれよ 「小説すばる」2018年9,10月号
    友よ知るなかれ      書き下ろし
      単行本化にあたり、加筆・修正。

 本書 2018年(平成30年)12月刊行。

 米澤穂信:
(本書による)  

 1978年岐阜県生まれ。2001年「氷菓」で第5回角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞を受賞してデビュー。「氷菓」をはじめとする古典部シリーズはアニメ化、漫画化、実写映画化され、ベストセラーに。11年「折れた竜骨」で第64回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。14年「満願」で第27回山本周五郎賞を受賞。「満願」と15年刊行の「王とサーカス」は、それぞれ三つの年間ミステリランキングで一位に輝き、史上初の二年連続三冠を達成した。

主な登場人物:

堀川次郎
<僕>

図書委員の高校2年生。
松倉詩門(しもん) 同じく図書委員の高校2年生。背高く顔もいい快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋。意外に間が抜けた所がある。
[913] おじいちゃんが金庫に鍵かけたまま死んだ。開けてくれとの依頼。
浦上麻里

図書委員を引退会の高校3年生。後輩の僕たちにアルバイトを持ち込む。
・浦上家には姉と母親が顔を出す。

[ロックオンロッカー]

繁華街の美容院から友人と一緒に来店したら4割引の招待あり・・。
その美容院では最近盗難事件があった・・・。

美容院の人々

・船下店長
・店員 近藤:僕の予約を受けた店員。

[金曜に彼は何をしたのか] 7月の期末テスト控え職員室の窓が割られ、犯人はテスト問題を盗むためと植田昇を疑うが・・。
植田登 高校一年生の図書委員。
・兄 昇
(しょう) 高校2年生。問題行動が多い。
横瀬先生 生活指導の先生。
[ない本] 三年生の自殺が校内の最大の話題。先輩が僕たちに、自殺した香田の借りていた本を探して欲しいと。そのわけは・・・。
長谷川 三年生の先輩。
香田 三年生、校内で自殺。長谷川先輩は、香田先輩が自殺する前、教室で便箋に何かを書いていて、本に挟み込んだと。
[昔話を聞かせておくれよ] 僕と松倉が図書室で、お互い昔話を聞かせてと。
松倉の話は自身の話だったが・・・。
堀川の父親 忙しい父親が親戚の子達を引率、プールで百円玉3枚を沈めて探すゲームを提案。結果は・・・。
松倉の父親

若い頃セールスマン。父親が亡くなったのは松倉が小学生の時。
・弟 礼門 車に酔う。

[友よ知るなかれ] [昔話を聞かせておくれよ]での松倉の父親の話に疑念。堀川の調べの結果は松倉にとって知られたくない内容だった。
堀川次郎 松倉の話に疑念を持ち、図書館で6年前の事件を調べる。
松倉詩門 松倉の父親のことは知られたくなかったが、堀川に知られてホットすることも。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 堀川次郎は高校2年の図書委員。同じく図書委員の松倉詩門と当番を務めている。そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが…。

読後感:

 6篇の短編であるが、主人公は高校2年生の図書委員である堀川次郎と松倉詩門のふたり。
<913>の謎解きは見事であり、こんな結末とは予想だに出来なかった。
 手がかりのおじいちゃんの言葉「麻里が大人になってから、もう一度この部屋においで。そうしたら、きっとおじいちゃんの贈り物がわかる筈だよ」

<金曜に彼は何をしたのか>の結末には引っかかった。彼(植田登の兄、昇)のアリバイ崩しも見事だったが、松倉詩門のあり方には驚きを隠せない。

<ない本>の結末はどういうわけか胸に“どん”と突き刺すものがあった。それまでの長谷川先輩の話に対し、反発を感じていた松倉に対し、堀川の解釈の深みに松倉が尊敬の念を抱いたのも頷ける。

<昔話を聞かせておくれよ>では、堀川の話では、堀川の弱点を父親が放つ言葉「人には心というものがあるんだ。必要もないのに人前で恥をかかせるような言い方をしては、可哀相だろう」に。
 一方、松倉の話は自分の家族のことを話しながら、堀川との違いを語っているのがいい。
「おまえは人の話を真に受けたまま、疑うことができる。俺にとって、疑うってのは、性悪説だ。自分に笑顔で近づいてくる人間はどいつもこいつも嘘つきで、本音を見抜くにはこっちにも策がいると考える。ところがお前は、そうじゃない。性善説と言えば言いすぎだが、相手の言葉の枝葉に嘘はあっても、その嘘の根底にはなにか真っ当なものがと信じている節がある」と。

 松倉の言うことは、今までの話を通して感じていることで、堀川は堀川で松倉のことを自分にない点をうらやんだり、感心したりとお互いのいい所を認めあっていていい。

<友よ知るなかれ>は<昔話を聞かせておくれよ>での松倉の話に疑念を感じ、堀川が図書館で調べることに。そこに現れた松倉の話がことの重大さを表す。
 そこで堀川の放つ言葉が松倉の心を射ている筈。
 松倉がその後どう行動するかは判らない。きっと松倉には効いているはずと読者は想像するしかない。

追記:HPに上げる作業中、本原稿に空白部分があり、再び図書館で本を借り出し読む羽目に。
    改めて読んでみて、堀川と松倉の関係に胸が熱くなる。感動の読書になった。

余談1:
 読んでいる内にあちこちに伏線が張ってあり、おしまいに来て「えっ」と思わず読み返してしまうほど。そしてすごく高尚な(?)知識のあかしで、時にごく自然なやり取りの中に事件の真相があったりする。それはいつか読んだ北村薫作品の数々にあるミステリーを感じて懐かしかった。

余談2:
 本の装丁が素敵。内表紙の金色系の素地に白の文字、目次から各表題のページがブラックに白文字とコントラストの良さと格調の高さを感じさせる作りが魅力的。
 本を読むのが楽しくなってくる。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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