横山秀夫
    『陰の季節』 
 




              2013-12-25

(作品は、横山秀夫著 『陰の季節』   文春文庫による。)

                

 初出誌  陰の季節 文藝春秋1998年7月号(第5回松本清張賞受賞作)
      地の声  オール読物1998年9月号
      黒い線  書下ろし
      鞄    書下ろし
 単行本  1998年10月 文芸春秋刊
 本書 2001年(平成13年)10月刊行。

 横山秀夫:
 昭和32(1957)年東京生まれ。国際商科大学(現・東京国際大学)卒業後、上毛新聞社に入社。12年間の記者生活後、フリーライターとなる。平成3年「ルパンの消息」が第9回サントリーミステリー大賞佳作に。平成10年「陰の季節」で第5回松本清張賞を受賞。同12年「動機」で第53回日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞する。

物語の概要:

息詰まる攻防。かってこんな警察小説があっただろうか。警察一家の気配が描かれ、警察内の人事問題を真っ正面から扱った、第5回松本清張賞受賞作。

主な登場人物:

◇ 陰の季節 警察OBの天下りポストを巡るそこに隠されていた真実は・・・
二渡真治 D県警本部警務課調査官、警視 42歳。定期人事異動の作成作業中難題に。
尾坂部道夫 3年前刑事部長を最後に勇退、天下りポストに。任期の3年になるも“辞めない!”と拒否。
◇ 地の声 監察課に密告文書が届いて、曽根がパブ夢夢のママとできていると。
新堂隆義 県警本部警務部監察官、警視 50歳。
曽根和男 Q警察署生活安全課課長、警部 55歳。指揮能力ゼロと評せられるも最後の上を望む歳でもある。
◇ 黒い線 似顔絵でお手柄の平野瑞穂が失踪。今日は瑞穂にとって特別の日なのに・・・。
七尾友子 D県警警務課婦警担当係長、警部。婦警48名の姉であり、母の役。
平野瑞穂 機動鑑識斑巡査。巡査拝命して5年目22歳。性格は生真面目で貴重な人材。3代目の似顔絵婦警。
◇ 鞄 9月の定例会議で鵜飼県議委員が警察本部長に爆弾発言をする噂があり、柘植が内容を聞き出そうとするも・・・。
柘植正樹(つげ) 警務部秘書課課長補佐、警部36歳。議会対策を担当。
鵜飼一郎 5期連続当選の大物県議。4年前現金買収事件起こし運動員15名の逮捕者を出し、警察に対して屈辱と怒りを覚えている。

読後感

「陰の季節」 警務課調査官二渡真治による人事異動に関する生臭い裏の世界。OBの天下りポジションの順送り異動に拒絶を唱えた尾坂部道夫に二渡は絶体絶命の狭間に。

 こんな醜い世界をこれでもかと。でもそこには周到に仕組まれた物語があった。横山秀夫作品はなかなか陰湿で暗い展開の中にキラリと光る正義感、清涼感が潜んでいて、ずっしりとした重みがある。松本清張賞というのもうなづける。

「地の声」、たれ込みの真意を確かめるべく警察官には誰からも毛嫌いされる監察官新堂隆義の監察行為。ひとりではことの真意を掴むことは難しいため、助けが必要だが、果たしてその人物は信用できるものなのか。監察というのは警察の中の警察という立場上、ことの真意の裏付けを取るのが絶対必要。そんな中での展開はこれまた暗闇の世界でもある。明るい話ではないだけにその結末は衝撃的。

「黒い線」生真面目な婦警が出勤をしてこない。車が駅前の駐車場で見つかる。婦警担当の七尾友子が二渡と調べて廻って判ったことは。婦警の心を壊すようなことが警察内部であることの恐ろしさ。

「鞄」県議会と警察はお互い牽制し合っている。捜査権と議会という武器を持つことで爆弾発言をするという噂に翻弄される議会担当の柘植正樹。その裏に隠されていたのはまたも内部の闇。

 

余談:

警察小説でも、刑事でなく警務部を扱った物語は今まで見かけなかったので新鮮。横山秀夫作品に共通して暗くて重い闇の世界のように、人の心の内に潜む欲望、弱さがのぞく。でも最後はビシっと決着を付ける、そんなところに爽快感が漂うのでは。

背景画は、TBSチャネルで放送の横山秀夫サスペンス「陰の季節」シリーズ第1弾より。

                    

                          

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