横山秀夫著 『 64 』 



                     
2013-01-25

 作品は、横山秀夫著 『 64 』   文藝春秋による。

                 

初出 「別冊文藝春秋」251号、253〜260号、262号、263号。単行本化にあたり、全面改稿。
本書  2012年(平成24年)10月刊行。

横山秀夫:(本書より)

 1957年東京生まれ。国際商科大学(現・東京国際大学)卒業後、上毛新聞社に入社。12年間の記者生活を経てフリーライターになる。91年「ルパンの消息」が第九回サントリーミステリー対象佳作に選ばれる。98年「陰の季節」で第5回松本清張賞を受賞。2000年「動機」で第53回日本推理作家協会賞・短編部門を受賞する。
 著書に「半落」「クライマーズ・ハイ」「影踏み」「看守眼」「臨場」「出口のない海」「震度0」がある。

主な登場人物:

三上義信
妻 美那子
娘 あゆみ

D県警察本部警務部秘書課調査官<広報官>、警視。
46歳にして20年ぶりの出戻り異動で。この春までは捜査二課の次席。
美那子は元婦警。
あゆみは自分の醜い顔が嫌だと

広報室のメンバー

警務部秘書課の直轄部署。三上の他のメンバー
・諏訪係長 機転の利く広報マン。警務部育ちの警部補。
・蔵前主任
・美雲婦警、23歳

警務部

辻内本部長直轄の秘書課、不祥事を洗う観察課、人事をあずかる人警務課がある。
・赤間部長 三上の広報室運営に不快感。強面の広報官を欲す。三上より4つ年上。
・石井秘書課長 三上の直属上司。
・二渡慎治 警務課の調査官。三上と同期。

刑事部

・荒木田部長
・松岡参事官 陰の刑事部部長。

記者クラブ

加盟13社。
・秋川 東洋新聞キャップ、29歳。
・山科 全県タイムス暫定キャップ、28歳。

雨宮芳男
妻 敏子

翔子ちゃんの父親。事件後警察に対して不信感を抱いている。
妻は事件から8年、脳梗塞で倒れ去年亡くなる。

ロクヨンの自宅専従斑

・漆原班長 当時は捜査一課特殊犯捜査係の係長。今はQ署の所長。
・柿沼サブキャップ 当時は捜査一課特殊班捜査係。
・幸田一樹 強行捜査係。
・日吉浩一郎 NTTより移ってきて電話の録音、傍受機器担当。


物語の展開: 図書館の紹介より

D県警史上最悪の重要未決事件「64」。この長官視察を巡り刑事部と警務部が敵対する。その理由とは。さらに衝撃の展開が…。怒濤の展開、驚愕の傑作ミステリー。警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある。 

読後感

 テレビドラマで横山秀夫原作の作品を見て思うっていたが、初めて小説を読んでみてなるほどと唸ってしまう。短いフレーズで、どんどん積み重ねるように紡いでいく手法は迫力もあり、ずっしりとした重量感が伝わってくる。しかも人間の心の内をさらけ出していくような粘っこい、どろどろとしたものが言葉としてあぶり出されている。
 
 事件は・警察の匿名発表に対する記者クラブの反発
・娘のあゆみが家出をして行方不明・刑事部の部長ポストにまつわる本庁の覇権争い。・14年間の未解決誘拐事件“64”と警察庁長官の慰問と視察。・刑事部と警務部との確執を主題にして、刑事畑を長らく歩んできた三上が、広報官という警務部に属する部門で内と外の狭間で立ち位置に苦慮しながらも、自分の考え方を確立し得た時、自信を持って広報官としての仕事を全うしていく様子が骨太に、時に感動的に展開していく様子はまさしく小説の醍醐味と言える。
 盛り上がりの場面に来ると、読み手がわも熱くなってしまって、喝采を叫びたくなるようだ。

 ラストのクライマックスとも言うべきクロヨンをトレースしているような誘拐事件における、記者会見場での記者達と広報室の対応、誘拐事件の進行の緊迫感、人としての感情の機微といった盛り上がりでこの長編は最後まで読者を釘付けにして離さない。

余談:
 
 1月5日のNHKラジオ深夜便、“明日へのことば”の時間に横山秀夫の、7年間に亘り作品が描けなくてようやく抜け出して出せた作品がこの「64」で、世の中で評判になっているその裏話を聞いた。声は顔に似ず(失礼かも)大人の柔らかでちょっと甘い声に先ず惹かれた。そして小説を書くに際しての発する言葉の意味あい、その言葉がその人物の描きたかった核を表現できたときに初めて満足できる、そんな言葉が紡ぎ出せる気持ちが再び沸き上がってきた喜びを感じることが出来た。それまでの数時間の睡眠時間で、気持ちはなんともなかったのに、身体に無理な負荷をかけ続けてきたことが、7年間書くことが出来なくなっていた理由のようでとにかく興味のある話であった。
 
・こっちから見て、あっちから見てと言う風に球体でその人物の像を描き出しているという表現。
・誇りの欠片が矜持となってと言う表現。
 背景画は映画「ポチの告白」より、警察の記者発表の一場面より。

                    

                          

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