横光利一著  『紋章』
 

               
2010-11-25



(作品は、横光利一著『紋章』 講談社による。)

       

単行本 昭和9年9月刊行。
本書 定本横光利一全集第五巻(1981年11月河出書房新社刊)を底本とし、新かなづかいに改めたもの。
本書 1992年7月刊行。

横光利一:
1898年(明治31年)−1947年(昭和22年)。日本の小説家、俳人。菊池寛に師事し、川端康成と共に新感覚派として活躍。

主な登場人物

雁金八郎 正直者の研究熱心で醸造に没頭、多々羅の支援を受け鰯を使った醤油の発明、乾物の発明などで地元にも喜ばれるが、多々羅の反感をかい窮乏生活を余儀なくされるが・・・。

山下久内
妻 敦子
(あつこ)
父親 山下清郎博士

久内の性格は気品のある謙虚な人品、雁金の発明に父親の汚名も構わず、雁金を褒める。だが自意識の過剰に悩む彼は敦子と別れ、一方で綾部初子に好意を持っているが、雁金との結婚を勧める。
敦子は久内との結婚前雁金と夫婦約束までの仲であったが、雁金の不運な運命をきらい久内を取る。
父親の山下博士は醸造学の大家。博士の教えを受けた雁金の発明により博士の名は失墜する。

杉生薫
弟 善作
父親 兵衛

綾部初子 山下家とは遠縁に当たる。当初雁金と初子の結婚話があったが雁金の祖母の反対(名家より下の家を嫌う)でならず。
多々羅譲吉 物産研究所の所長。当初は雁金の研究に協力し、発明申請で共同提案を固辞されたことで、反転雁金を陥れる行動に出る。


物語の概要図書館の紹介文より

 自意識の分裂に悩み戸惑う知識人の久内と、狂気のような熱情をこめて醸造技術の発明に没頭する一途な男雁金。 ふたりの対照的な成り行きに、近代の合理的な人間認識と“日本精神というもの”との相剋を見る。 漱石、芥川以来の「西欧的近代と向き合う人間」というテーマを内包しつつ、“第四人称”の「私」という独自のスタイルで物語る。晩年の『旅愁』へと向う前の著者中頃の代表的長篇小説。 

読後感:

 読み出しのきっかけがNHKのドラマ「火の魚」で小説家の村田に「好きな作家を三人挙げてみろ」と言われた女性編集者の折見とち子が答えた作家にただ一人の日本人横光利一の名があったため、一度読んでみようと思い立った。 たまたま著者の中頃の代表的長編小説と謳ってあった「紋章」を読んでみた。
 表現の仕方、内容は近代時代の作家の雰囲気があり、好ましく、晩年の「旅愁」なるものを読んでみたくなった。

 主人公の一人雁金八郎なる人物はお人好しで、人を疑うことを知らず、研究・発明に関する情熱が極めて高く、貧乏でも苦にしない典型的な醸造発明の研究者。 もう一人の主人公の山下久内は気品ある謙虚な人物で、雁金が父親の山下博士に醸造学のノウハウを教わり、魚から醤油を作り出す発明で、雁金が成功し、博士の失敗が世間に知られるという恥も、祝賀会で雁金を褒め称える言葉を述べるほど。

 一方で久内は妻敦子と雁金の関係に嫉妬を抱き、また綾部初子を好ましく思いながら、雁金と初子を一緒にしようともくろむなど、自意識過剰に悩む知識人である。
 
 なるほどこの昭和初期の作品は夏目漱石といい、雰囲気が似ていて文学作品であるなあとも。また作品の紹介では、第四人称の「私」というスタイルで語るのは独自のものであるらしい。

  

余談:

 山下博士が開く茶会に招かれた雁金、久内らの行為の記述に出てくる濃茶、薄茶、また作法などは、これもNHKTVの“趣味悠々”等で表千家、裏千家などの流派による茶会の作法を見ていたおかげである程度の理解も得られたのも幸いであった。

背景画は作品中の茶室風景をイメージして国宝の如庵外観より。

                    

                          

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