椰月美智子 『明日の食卓』


              2021-09-25


(作品は、椰月美智子著 『明日の食卓』    角川文庫による。)
                  
          

 
初出 2016年8月に単行本として刊行、加筆修正し文庫化。
 本書 2018年(平成30年)3月刊行。

 椰月美智子
(やずき・みちこ)(本書より)

 1970年神奈川県生まれ。2002年、第4回講談社児童文学新人賞をした「十二歳」でデビュ−。07年「しずかな日々」で第45回野間児童文芸賞、08年第23回坪田譲治文学賞、17年「明日の食卓」で第3回神奈川本大賞を受賞。他の著書に「るり姉」「恋愛小説」「ダリアの笑顔」「未来の手紙」「かっこうの親 もずの子供」「メイクアップデイズ」「その青の、その先の」「フリン」「伶也と」「14歳の水平線」「消えてなくなっても」「つながりの蔵」「さしすせその女たち」「緑のなかで」などがある。

主な登場人物:

石橋
母親 あすみ
父親 太一
太一の母親

小学3年生、スイミングと絵画教室に通う。優しいし、賢い。
・あすみ お菓子教室と書道教室に通う、36歳。
・太一 38歳。静岡の実家を立て直し、太一の母と敷地内で一緒に住む。
・義母 認知症らしい。

竹内獅子<レオン>
母親

優と同じクラス。担任は佐伯みどり先生、32歳独身。
学年主任は宇津木先生。
・レオンの母
 口の利き方が乱暴家にいることがほとんど無い
長男は騎士<ナイト>、妹は宝石<ジュエル>と名づける。

宇野光一 優と同じクラス。自分の欲求を抑えられない。「死にたい!」と叫んでみたり、前の席の優の背中を突っつく。
菜々

あすみが書道教室の前後にランチやお茶をする仲。
息子の笙安はバレエに夢中。

石橋悠宇
母親 留美子
(るみこ)
父親 豊
次男 巧巳
(たくみ)

小学3年生。巧巳との喧嘩が絶えない。
・留美子 フリーのライター、43歳。子育ての喜びとか苛立ちをブログに。
・豊 フリーのカメラマン。バツイチ、ライター時代に知り合う。仕事は順調だったが・・・。
・巧巳 小学1年生。

石橋
母親 加奈

学童保育3年3組。母子家庭。担任は柴田先生。
・加奈 朝はコンビニ、昼は化粧品会社でのパート、夜もコンビニでのパートと必死で子育て、30歳。
父親の暴力で家を出、運送会社勤務、そこで英明と出会い結婚するも離婚。勇との新しい生活をスタートさせた。

加奈の母親
姉 加奈
弟 正樹

実家の母親は酒を飲むと暴力をふるう夫に堪え、その後女手ひとつで加奈と正樹を育ててくれた。
・正樹 加奈より3つ年下。鹿児島で建設会社勤め。お調子者で陽気な弟。姉弟仲は良かった。

西山力也
母親 明奈

勇と同じクラス。絵が上手そう。
・母親 加奈は授業参観日に言葉交わす。以前コンビニで男の人と連れだってた所見かけている。

大和田さん 化粧品会社で加奈と同じ、年上のパートさん。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 同じ8歳の息子を育てる3人の母親たち。辛いことも多いけど幸せなはずだった。しかし些細なことがきっかけでその生活が崩れていく。無意識に子どもに向いてしまう苛立ち。果たして3つの家庭の行き着く先は…。

読後感:

 プロローグ(?)が最初にあり、ユウという9歳の子供に対し、頬を思い切りぶち、平手打ち、突き飛ばし、挙げるその声に神経を逆なでされ、思わず蹴り上げ、また突き飛ばす。
 そしてようやく頭の中がクリアになっていく様が描かれている。

 物語が始まると、本の絵で始まる家庭。靴下?の絵で始まる家庭、サッカーボールの絵で始まる合計3家族(いずれも小学3年生の子供は、石橋優であり、石橋悠宇であり、石橋勇である)の家庭の様子が描かれている。果たしてプロローグにあったのはどの家庭のことなのかと読者に思わせる。
 それぞれの家庭の出来事は、日常的によくある内容ではあり、特に母子家庭の石橋加奈と勇の様子に同情的感情があったが、どうもとんでもないような展開が待っていた。

 石橋優の家庭は、学校でのクラスメイトの母親からの、息子レオンに対し、優が怪我をさせたことを端に発し、抗議の電話から始まり、優の意外な面があぶり出される。
 
 石橋悠宇の家庭は、2つ違いの兄弟はしょっちゅう喧嘩で、わめきあい、夫の仕事の挫折から母親の留美子が家計を支えなくてはならないことから、家庭内の不和が絶え間なく発生、悠宇の爆弾発言にと・・・。
 
 石橋勇の家庭では、賢く振る舞っていた勇は、その隠れていた素顔が現れた時の母親の加奈の驚き。
 いずれの家庭も穏やかそうな外観には認められなかった、密かに隠れていた内面が現れたとき、家庭はどうにもならない所へと落ちていくことを知らされる。

 さて、ラストになると、最初のユウがどの家庭だったかが、意外な展開に・・・。
 各家庭のその後の様子で幕は閉じていく。


余談:

 解説(社会学者 上野鶴子)によると、まず物語の結末に触れているため、本編読了後にお読みください。との注釈がある。
 その後物語の概要が綴られ、結末まで表されていて、丁度昨今話題の“ファスト映画”なるものの様相。そして世の中の虐待問題に及び、母であることの恐ろしさ、その背後にある夫の無責任さを指摘。読者の経験の中に思い当たるなら、本書は警世の書となるだろうと結ぶ。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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