椰月美智子著
              『市立第二中学校2年C組』、
     『しずかな日々』



                2015-09-25




(作品は、椰月美智子著 『市立第二中学校2年C組』(講談社)、『しずかな日々』(講談社 青い鳥文庫)による。

                 

 『市立第二中学校2年C組』

初出 「YA! ENTERTAINMENT」ウェブサイトの連載小説(2009年1月〜12月 講談社)をまとめたもの。
本書 2010年(平成22年)8月刊行。

 
『しずかな日々』

初出  2006年10月単行本として講談社より単行本として、2010年6月に講談社文庫として刊行された「しずかな日々」を元にふりがなをふり、新たに挿絵をつけたもの。
本書  2014年(平成26年)6月刊行。

  椰月美智子:(『しずかな日々』より)
 
 1970年生まれ。神奈川県小田原市在住。2001年、「十二歳」で第42回講談社児童文学新人文学賞受賞し‘02年にデビュー。「しずかな日々」で’27年に第45回野間児童文学賞、’08年に第23回坪田譲治文学賞をダブル受賞。他の著書に「恋愛小説」「シロシロクビハダ」(ともに講談社)、「未来の手紙」(光文社)、「消えてなくなっても」(KADOKAWA)、「その青の、その先に」(幻冬舎)、「坂道の向こう」「みきわめ検定」「枝付き干し葡萄とワイングラス」「ガミガミ女とスーダラ男」「市立第二中学校2年C組10月19日月曜日」(以上講談社文庫)、「るり姉」(双葉文庫)、「かっこうの親、もずの子ども」(実業之日本社)、「どんまいっ!」(幻冬舎文庫)、「フリン」(角川文庫)、「ダリアの笑顔」(光文社文庫)など多数。

物語の概要: 図書館の紹介より
『市立第二中学校2年C組』
 8時09分、瑞希は決まらない髪型に悩み、10時24分、貴大は里中さんを好きになる…。中2思春期、クラス38名それぞれの顔と心の内がくっきりと見える、等身大の学級日誌のような物語。

『しずかな日々』
 ぼくはいつだって戻ることができる。あの、はじまりの夏に…。「人生のはじまり」の季節をむかえた主人公の夏休みの日々を描いた感動作。〈受賞情報〉野間児童文芸賞(第45回)
(夜の神様が、どうかどうかぼくが今話したことを、すっかり飲みこんでくれますように…。そうか、少年って、こんなふうに大人になるのか。講談社児童文学新人賞受賞作家の、やさしく、すこやかな感動作。)


主な登場人物:
『市立第二中学』
2年C組の生徒たち
先生たち
・北村正人 担任、26歳。
・矢吹 保健室の先生、52歳。
・山本虹彦 学年主任、54歳。

『しずかな日々』

枝田光輝
(主人公のぼく)
ニックネーム‘えだいち’

小学5年二組。母親との二人暮らし。運動神経ゼロ並み、影の薄い目立たない子供だったが、押野のおかげで母さんとぼくとの二人だけの世界から景色はみるみる広がって・・。

母親 伸子(のぶこ)
水上みどりさん

‘村田製麺’の会社に勤めているが、ある日、仕事を辞めて引っ越すと言いだし・・・。
・みどりさん 会社の同僚。母さんのことを’先生’と呼ぶ。

おじいさん 母親の父親。古くて広い家に一人で住んでいる。学校に、友達にも慣れたえだいちは、母親が引っ越したあと、おじいさんのところで暮らすように・・。

押野広也
姉貴

小学5年二組、席が後ろ。お調子者の人気者。新学期、空き地の草野球にえだいちを誘う。守備がうまく、足が速い。
・姉貴 押野から家に遊びにおいでよと誘われ、姉貴の抹茶プリンを平らげ、喜ばれる。

椎野清子 小学5年2組の担任、枝田の様子を温かく見守っている。
じゃらし 空き地での草野球仲間。小学6年生。すごいバッター。
ヤマ 同じく空き地での草野球仲間。小学6年生。水泳大会に出るほどの技の持ち主。

 読後感

『市立第二中学校2年C組』

 2年C組の生徒全員?と担任の先生および幾人かの先生を含め、10月19日月曜日の一日を時間を追って描写。そのとき起こる事態、心の様子、時にバックグラウンド、時に家庭内の様子と通してみれば、つながりのない場合がほとんど。でも所々でつながっている話もあり、数ページであったり、少し多めのページであったりと。
 どんなところに著者はウェイトを置いているのかなあと考えてしまう。多分著者が描きたかった箇所もあったり。

 テーマは”いじめ”の話がやはり気になるかも。内海窓華に関するものが気になるところ。持ち物がなくなったり、特に遠足の際のグループ分けの辺りのいやさ加減は自分のことのように思えて本当にいやな時だったろう。そこに登場の救世主?悪魔?のような学級委員の金子の存在。とても救世主でなく、イヤ味みえみえ。でもその金子自体の存在も端から見ると嫌われていることを本人は知ってか知らずか。一生本当の友達が出来ないタイプと評される。
 
 とにかく今時の中学生たちのイラダチ、ムシャクシャする気持ち、自分で自分がコントロールできない衝動と反省する気持ち。そしてちょっとした思いやり、優しさに感動してしまう純な気持ち。そんな色んな感情を内に込めて生きている中学生たちの存在がまぶしい。
 対して大人はというと、保健室の矢吹先生(若い先生と思っていたら52歳だった)の人生を読み切った言動、担任の北村先生は26歳の若さと、男女ともの生徒に好かれているようだが、「明るく人気者のふりをしているけど、案外冷静に色んなことを見てるタイプではある」と評されているが、内海窓華にとってはちっとも救いにならない言動に嘆くばかり。

『しずかな日々』

 読んでいると夏休みの小学5年生の男の子の人生のターニングポイントともいえる懐かしくもあり、これ以上もない幸せ感あふれる瞬間を味わっている様子が伝わってきて、一気に読み上げてしまった。
 そこに含まれている情景は母との二人暮らし、学校でも影の薄い、友達もいないひっそりとした毎日であったのが、5年生の新学期、席の後ろに座った押野という、何の屈託もないこの存在が、自分のこれまでの有り様をすっかり外向きに変えてくれ、次々に自分を解放してくれる姿に感動。

 それにおじいさんの古いが広くて大きな家と庭のあるまさに田舎の良さをあふれさせている舞台が大きな役割を果たしているようで懐かしさに浸ってしまった。
 また空き地での草野球をする学年に関係のない友達の存在、押野の家族、特に姉との交流、母親と別れて母親の父親であるおじいさんとの二人だけの生活の経験から次第に外向きに変わってゆく姿を見るのもすがすがしくていい。
 もうひとつ担任の椎野先生の優しい目に心を開かれ、大人たちのやさしさも捨てがたいところ
 

  
余談:
『市立第二中学校2年C組』

 色んな可能性を秘めている中学生たち。デッサンがうまい杉山貴大(タカヒロ)、イラストレーターの腕を有する鴨川祐司と荻野健一郎、動機はいまいちだけれどギターに熱を入れる山本卓也とか。
 いつの日か高校生の文化祭で見た、人の顔や手のデッサンの素晴らしさを見たのを思い出したが、そんな・・・。
 また、山本虹彦先生の”いじめ”論は、今の世の中に対して本音で言いたいことを表しているよう。でもこれを教頭がいないときにしゃべっているのはさすがに人柄がわかる気がする。


『しずかな日々』

本作品、野間児童文芸賞と坪田健治文学賞を受賞しているが、その解説(北上次郎氏)でその素晴らしさが表現されている。解説されている事柄は感じたとおりなのだが、そういう風に表現されていることに、こんな風に表現できたらと感じ入ってしまうことしきり。
「人物造形が群を抜いていて、描写が秀逸で、なおかつ構成が素晴らしいので、とても新鮮なのだ。小学5年生の夏休みを描いた長編などはこれまでに何度も読んできたはずなのに、初めて読む小説であるかのような衝撃がある。では、何が新鮮なのか。その第一は、全編を貫く静けさだ。たとえば、・・・・」

背景画は「私立第二中学2年C組」中、杉山貴大の手のデッサンにまつわる話に昔息子の高校の文化祭で見たデッサンのうまさに感動したことを思い出して。

                    

                          

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