山崎陽子著 『しあわせはいつもいま』
 




                     
2007-03-25


(作品は、山崎陽子著 『しあわせはいつもいま』 ユーリーグ株式会社による。)

       

2004年(平成16年)2月刊行。
 著者の童話は是非、孫に読ませてやりたいと思ってしまう。

読後感:

 なんとも面白く、一人でくすくす笑いをしながら読んでいるのを女房が見たら、気持ちが悪いと言われそうな、そんなエッセイである。
 周りに人がいるところで読むのは避けた方がよい。
 遠藤周作に劣らず、ドジで滑稽で、なんともユーモラスで愛される人柄。

 山崎陽子なる人物は、童話作家、ミュージカル脚本家。NHKのラジオ深夜便で、彼女の明るい、早口の話しぶりを聞き、また、遠藤周作が主宰する素人劇団“樹座”で、素人の個々の人が初めて舞台にでて、スポットライトを当てられ、嬉しくてしょうがないと興奮する出演者の話に、そんなこと(個々のひとりひとりにスポットを当てる)を要求する遠藤周作氏の脚本を担当してきたという彼女。

 この“しあわせはいつもいま”は、至光社の月刊絵本「こどものせかい」にそえられた小冊子「にじのひろば」に連載されていたものの抜粋したものを一册の本にしたもの。


印象に残る表現:
 
 
サンプルは沢山あってピックアップに悩むが、一つ、二つを以下に掲げる。
 楽しい読み物であること請け合い。

第2章 ふりむけば、そよ風
◇タクシーおつり哀歌(エレジー)

 おつりにまつわる不足の話、小銭にまつわる話に続きさらに次のような・・・
タクシーに乗るときは注意しているつもりなのに、その日はタクシーに乗ってから、小銭がないことに気づいた。二千円に満たない支払いに、一万円札というのは、あまりに申し訳ない。平謝りにあやまったが、見るからに人のよさそうな運転手さんは、

「いいっす、いいっす。今日は細かいのが一杯あるんですから、大丈夫」とニッコリして、私の手の上におつりをのせてくれた。
「はい、千円が一、二、三・・・八枚、それに六百と二十円」

 恐縮しつつ受け取り、何度もお礼を言いながら車を降りたのだが、なぜか運転手さんが、車の窓から、半身を乗り出して叫んでいる。
「お客さーん!それ、それを・・・」
 運転手さんは、泣かんばかりだった。
「お客さーん!その左手の・・・」

 ハッとして見ると、右手のおつりを握ったまま、左手で渡すべき一万円札をしっかり持っているではないか。運転手さんにしてみれば、おつりを八千円以上もとられたあげく、一万円も持っていかれたのでは元も子もない。悪気じゃなかったとはいえ、本当に悪いことをしてしまった。ベソかいた運転手さんの顔を思い出すたび、慚愧(ざんき)に堪えない。


では短くもうひとつ

第7章 機械は奇怪、器具は危惧
◇続・携帯電話 

 少し携帯電話に慣れて、人前でも使える勇気が出て、「電話しなくちゃ」なんて颯爽と携帯電話を開いたつもりが、自分の顔と鉢合わせしてギョッとした。コンパクトと間違えたのだ。それを目ざとく見つけて、ギャハハと大笑いした友人が、電卓で電話しようとしているのを見てしまった。お互いさまである。

  

余談:

 こんな楽しいエッセイに運良くめぐり合えると本当に嬉しくて、幸せを感じる。
 読書ってほんまに楽しい。


背景画は、表紙の絵を利用。