山本文緒著 『なぎさ』








              2018-09-25


(作品は、山本文緒著 『なぎさ』    角川書店による。)

          
  

   初出 小説野性時代
     2011年1〜7月、9〜11月号
     2012年1〜6月、9〜12月号
     2013年1〜4月号掲載

 
  本書 2013年(平成25年)10月刊行。

 山本文緒:
(本書より)
 
 1962年神奈川県生まれ。会社員を経て、作家となる。著書に「群青の夜の羽毛布」「ブルーもしくはブルー」「きっと君は泣く」「アカペラ」など多数。「恋愛中毒」で第20回吉川英治文学新人賞を、「ブラナリア」で第124回直木賞を受賞。日記エッセイに「そして私は一人になった」がある。   

主な登場人物:

佐々井冬乃(36歳)
<私>
夫 一弘(37歳)

長野県須坂市出身。海に憧れ、今は東京の縁、久里浜の集合住宅に同窓会で再会した佐々井君と暮らす。
・夫と菫の三人は同じ中学、高校を出ていて、菫とは顔見知り。夫は美容院にシャンプーやパーマ洗剤を卸す会社の営業マン。今年に入り急に暇に、毎日磯で魚釣り。私がカフェを手伝うことに良く思っていない?

日野菫(すみれ)
(34歳)
冬乃の妹。漫画家を夢としていてそこそこ売れていたが、突然辞めて姉の住む久里浜に同居するように。久里浜で昭和レトロのカフェを始める計画で、私に誘いをかけてくる。

川崎哲生(てつお)
(25歳)<おれ>
兄 裕一郎
母親
父親

佐々井君の部下。冬乃の作る弁当を食べている。
お笑い芸人を目指していたが辞め、佐々井の会社に拾われる。会社はブラック企業と認識、辞めることに。
・兄は無免許で接触事故起こし鑑別経験者。
・母親は後妻。

小田百花(おだ・ももか) 川崎君と付き合い、お互い結婚を考えている。
杏子(32〜33歳) フリーでイベント企画やタレントの育成の仕事。父親の家族カードを使って若い男遊びに余念が無い。<おれ>もその中の一人。
秋月 サロンチェーンのオーナー。佐々井君の会社の有力取引先の社長。色々難題をふっかけてくる。
ナオミ 秋月の女? 秋月から<おれ>に食事の付き合いの代わりを頼まれたが、それ以降もしばしばナオミの私用で使われるはめに。

所さん
(本名 韮崎和夫)

私が久里浜の花の国の足湯で出会った人物。カフェについても興味を示す。

モリさん
<俺>

イベント関係のプロモーター?杏子と付き合ってるよう。また菫の彼氏?分からないと評される佐々井君に対し、自然に話しかけられる能力を持つ。カフェの開店にも力を発揮する。
所さんの評価は人の弱みにつけ込んで、人の好意を食い物にするタイプと。

山崎 おれが入社直前、秋月を怒らせ会社を辞めさせられた男。
なぎさカフェのバイト

・朋絵(ともえ)ちゃん デザイン専門学校卒のフリーライター。やる気あり。
・有美(ゆみ)ちゃん 結婚、子供なしの主婦、30歳。

紅シャケ君 <おれ>の同じ芸能事務所の同期の芸人。北海道出身。
ジョージ君 <おれ>の芸人時の同い年の相方。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 
故郷を飛び出し、静かに暮らす同窓生夫婦。夫は毎日妻の弁当を食べ、出社せず釣り三昧。行動を共にする後輩は、勤め先がブラック企業だと気づいていた。家事だけが取り柄の妻は、妹に誘われカフェを始めるが…。      

読後感:

 姉の<私>と夫は、夫のことを佐々井君と呼ぶ関係、そして夫との会話も当たり障りのないことを話題にするルールのこと。故郷では好ましくうらやましがっていた妹が転がり込んで一時の喜びとは別に、いつまで居座るのかと心に気に掛ける様子。
 夫の後輩川崎君<おれ>は、先輩の奥さんに昼の弁当を作って貰っていることに違和感を覚えたり。
 そんな不穏な描写からやがて色々問題がわき上がってくる。

 まず冬乃と佐々井君の間だが、佐々井君のことは何を考えているのかよく分からないし、それを口に出して問いただすことをしない仲。むしろ川崎君が佐々井さんに忠告することもあり、先輩後輩の間での心配したり、助け合う様子が微笑ましい。
 一方で川崎君の悩みも、生き方であったり、女の子に対する扱い方に好ましくないトラブルも。

 さらに問題なのは、姉の冬乃と妹の菫の間がどうもしっくりといかない。
 久里浜で昭和レトロのカフェをやろうと持ちかけられ、そのことを夫に相談することが出来ず、夫も不満を見て見ぬ振りでスルーしてしまっている。

 謎のモリさんの指導で店は開店にこぎつけるも、売り上げが伸び始めたところで菫から店を売ることになったと告げられ、雇われ店長の冬乃が菫に対して「この子はもしかしたら私のことを心底憎んでいるのだろうか。そこまで憎んでいるのか」と考え悩む。
 冬乃は所さんにその悩みを相談することで、また佐々井君は川崎に悩みを打ち明けてそれが冬乃に伝えられることでようやくお互いが理解し合えるように。

 もう一つ、冬乃と菫の両親との間の問題がラストで明らかになる。
 三人(<私>と<おれ>と<俺>の語り手が、それぞれの立場で描写されるが、家族、夫婦、生き方の様子が展開されて、意味深な内容に引き込まれてしまった。 
余談:

 まず、たまたま手にした本作品に久里浜駅の描写が有り、舞台が地元も地元なので速読むことに。調べてみると図書館の郷土史コーナーにも備えられていて、定年退職直後棚で見て手にした曾野綾子の作品と同じ思いに到った。著者のことを調べたら直木賞作家であることも後押し。 
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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