山本文緒著 『きっと君は泣く』








              2018-10-25


(作品は、山本文緒著 『きっと君は泣く』    角川文庫による。)
          
  初出 本書は’93年7月刊行された光文社カッパ・ノベルズ版を文庫化したもの。
  本書 2013年(平成25年)7月刊行。

 山本文緒:
(本書より)
 
 1962年神奈川生まれ。OL生活を経て、作家活動に入る。著書に「あなたには帰る家がある」(集英社)、「ブラック・ティー」(角川書店)、「群青の夜の羽毛布」(幻冬舎)、「パイナップルの彼方」、「ブルーもしくはブルー」(角川文庫)他。     

主な登場人物:

桐島椿(23歳)
母親 菖蒲
父親

コンパニオン専門の派遣会社に所属。生まれて初めて出来た女友達が雛子。私の能力はきれいだということだけ。あとは営業用の愛想笑いぐらい。
・母 祖母とはいつも他人行儀。
・父親 一見紳士的に見えるも、椿が世の中で一番嫌いな人間は父。

祖母 牡丹(75歳) 椿の名付け親。親戚たちから変人扱い。嫌われる理由は隙がない点。美しい人、刃物の美しさ。一人暮らしでお花の教室をやっている。
雛子

椿と同じ派遣会社に所属。半年前にオフィス家具会社の展示会にコンパニオンとして派遣された時に椿と知り合う。
ボーイッシュなわりにのんびり屋。

群贅(グンゼイ) 中3の時、椿が初体験の1年先輩。以来10年付き合いのある女たらし。
祖母の入院の病院関係者

・中原先生 祖母の担当医、研修医。椿は純朴な人柄に「結婚してください」と。
<看護師>
・魚住 大魔神みたいな大型の看護師。椿とは犬猿の仲。群贅の中学時代のクラブの後輩。椿と同じ学年だった。
・儘田(ままだ) 渾名 チーママ。小柄な看護師。

ショールームの人たち

椿と雛子が派遣されている輸入して販売の貿易会社。
・園田課長 椿に優しく接してくる妻帯者。
・広瀬 以前園田と付き合っていた。
・その他の店員

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 椿、二十三歳。美貌に生まれた女に恐いものはない。何もかもが思い通りになるはずだった。しかし祖母がボケはじめ、父が破産、やがて家や職場で彼女の心の歯車はゆっくりと噛み合わなくなってゆく。美人だって泣きをみることに気づいた椿。弱者と強者、真実と嘘…誰もが悩み傷つくナイーヴな人間関係の中で、ほんとうに美しい心ってなんだろう?清々しく心洗われる、“あなた”の魂の物語。      

読後感:

 なかなか女の人の過激な思想、行動、しかし実に素直な想いが随所に現れていて、滑稽でもあり、切なさも感じられる女性たちである。
 しかも椿、祖母、母、雛子、魚住の女性たち、そして群贅と中原先生のキャラがそれぞれ個性的で彼女ら、彼と彼女らのやりとりが実にキラセキラしていて飽きさせない。
 中でも椿と魚住の丁々発止の罵倒発言は秀逸。

 椿の生き様は全く自己中心、恐れる物なし、貧乏なんてまっぴら、苦労することなく、自分を好いて楽をさせてくれる男の人と暮らすことを目指してアタックする気力は尊敬もの。
 自分の能力はきれいだということだけと理解し、営業用の愛想笑いにみがきをかける姿はちょっと悲しい。

 群贅が椿に苦言を呈する「鏡に映るのは他人が見たとおり。おまえは鏡を見ていない。おまえはきっと泣きをみる」が題目の「きっと君は泣く」の意味だったか。
 物語のラスト、急変が起き、これはミステリーではととまどう。どう決着がつくのか・・・。
 山本文緒という作家の描き出す世界に興味が湧く。
 

余談:

 山本文緒作品は、先に「なぎさ」という舞台が極地元の久里浜を中心としたもので手にしたが、本作品の解説(唯川恵)を読んで著者の人柄を多少知った。“両性具有の体質を持った作家”の表現になるほどと。描かれた女の恐ろしさ、怖さが伝わってくる。中でも魚住が椿に投げつける言葉は辛辣。
 祖母の美人論もまた真実:「美人なんていうのは、雰囲気なんだよ。ハッタリなんだよ。いくら形が整ってたって貧乏くさかったり卑しかったりしたら何にもならないんだ。あんたのその僻み根性はどう見ても卑しいよ。心の卑しさはちゃんと顔に現れるんだ」
 
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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