薬丸岳著 『その鏡は嘘をつく』








              2018-09-25


(作品は、薬丸岳著 『その鏡は嘘をつく』    講談社による。)
          

  本書 2013年(平成25年)12月刊行。書き下ろし作品。 

 薬丸岳:
(本書より)
 
 
1969年兵庫県明石市生まれ。2005年「天使のナイフ」で第51回江戸川乱歩賞を受賞。著書に「闇の底」「悪党」「刑事のまなざし」「ハードラック」「死命」「逃走」「友罪」がある。 
   

主な登場人物:

志藤清正
妻 知恵
娘 梓

須賀の痴漢事件を調べた東京地検の検事。嫌疑不十分で釈放。切れ者の検事評。
・笹本事務官 志藤の最高のパートナー。
・佐瀬次席検事 

東池袋署刑事課強行班

・夏目信人 洞察力と事件に対する嗅覚が優れている。志藤検事の印象では“変わった刑事”評。
・安達涼子 夏目のパートナー。
・菊池係長
・福森

浅川幹夫(20歳)
母親 博美
父親 明広

仙台の浅川病院の一人息子。幼い頃から医者になるべく教育されている。
高校入学と同時に世田谷経堂にある従妹の沙紀の家に居候。今は浪人して三栄学院の予備校通い、下北沢に一人暮らし。

水森沙紀 沙紀の母親は浅川幹夫の父親の妹。
沙紀の両親は世田谷区内で歯科医院を経営している。

須賀邦治(くにはる)
妻 美智代

四谷の京北医科大学病院の外科医、48歳。南池袋の雑居ビルの一室で首つり自殺(?) その前に電車内での痴漢事件で逮捕されていた。
・義父 松下康則 京北医科大学病院の院長。

峰岸彩子(あやこ)

三栄学院予備校講師、34歳独身。5年前まで京北医科大学病院の外科医。5年前医療ミスを犯している。
・母親は父親が亡くなった後、高知の峰岸病院の院長。

園部真理(20歳)

今年の3月まで三栄学院に通い、峰岸のクラスの生徒。医者を目指していたが、家庭の事情もあり、今は花屋で働く。須賀の痴漢事件の被害者。浅川幹夫と高校時代同じクラス。

岡本美香 三栄学院の峰岸のクラスの生徒。親は医者で豪邸住まい。
星野ゆかり 三栄学院の峰岸のクラスの生徒。手首を切り自殺未遂。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 エリート医師が鏡に囲まれた部屋で自殺。その後、医学部受験を控えたひとりの青年が失踪した。志藤検事は他殺の可能性を見破り、独自に捜査を進める。その頃、夏目刑事は池袋で小さな手がかりを見つめていた…。      

読後感:

 本作品の興味はひとつに、志藤検事の、自らも動くが刑事を手足のように指示したり、被疑者に対する冷酷とも言えるような発言。対する刑事側としては福森に対する評価と共に、夏目刑事に対し頼りになるのかという思いと、逆に”変わった刑事”の評価でその洞察力に感心するところ。

 一方、夏目啓治はというと、パートナーの安達凉子に対して尊敬するような言葉遣いや、事情聴取や取り調べの相手に対する柔らかな取り扱いなど、見かけでなく優しさがにじみ出ている様子。二人のどちらに成果が出るのか興味が湧く。そして夏目の素性はどうやら過去を背負っていることが分かってくる。

  さて、事件は須賀邦治の痴漢事件、嫌疑不十分で釈放されてからの自殺騒ぎから、本当に自殺?の疑い、浅井幹夫の行方不明や峰岸彩子の殺害説や、痴漢事件の偽証事件、須賀なる人物の悪徳医師の様子と、なかなか真相が見えてこないで、志藤と夏目の真相究明が待たれる展開となる。
 医者の家に生まれた浅井、岡本、星野の、医者になることを使命とされるなか、逃れられないで苦しむ人間、その力が無い人間をおとしめる須賀の行為、峰岸彩子も高知の病院を継がなくてはの思いと医療ミスの秘密を握られ苦しむ様子と、医者の世界もなかなかしんどい世界である。
余談:

 
夏目信人の名前がラスト近くで明かされるが、なるほど「刑事のまなざし」という作品に夏目信人の名前があった。次の作品候補としたい。 
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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