薬丸 岳著 『神の子』






            2014-11-25



 (作品は、薬丸 岳著 『 神の子 』    光文社による。)

              

 本書 2014年(平成26年)8月刊行。

 薬丸岳(やくまる・がく):(本書より)

 1969年生まれ。2005年、「天使のナイフ」で第51回江戸川乱歩賞を受賞。近著に「友罪」「その鍵は嘘をつく」「刑事の約束」などがある。

主な登場人物:

<第一章>

内藤信一
妻 典子
息子 和也
(15歳で没)

2年前に神奈川の少年院から栃木の少年院に転任してきた法務教官。3年前に息子をなくして後は、使命感や情熱をなくしている。町田や雨宮の個別担任。
・妻の典子は神奈川に残ったまま。

栃木の少年院の面々

・熊田 首席専門官。(院長、次席に次ぐナンバー3)教育部門の現場責任者。
・塩谷(しおや) 考査寮の担当。
・鈴本 若手教官。

町田博史(21歳)
母親

知能指数161の戸籍を持たない人物。3年前殺人を犯し逮捕され、町田博史の戸籍を得て栃木の少年院に。
14歳で親戚の家を飛び出し一人で生きる。その頃の唯一の世間との繋がりは小澤稔という知的障害のある少年。
その後詐欺グループの室井に拾われて気に入られ、シナリオを考える役を担う。

雨宮一馬
姉 美香

室井の言葉に引かれ少年院にいる町田と友達になって欲しいと送り込まれる。
磯貝隼人 町田、雨宮と同室(二号室)の男。
その他の院生

・朝倉 第一学寮の寮長。教官の前ではいい子振り、裏ではえげつないことをしている。
・新田 磯貝と同し二号室。
・蛭海(ひるみ) 磯貝と反目するグループに所属していた。

室井仁

振り込め詐欺グループの雇い主。
・伊逹(23歳)おれ(町田)が拾われる1年前からの手下。

<二章>
町田博史(20歳) 身元引受人の前原製作所の社長の好意で工場を手伝いながら居候。東協大学理工学部の高垣教授の研究室に通う1年生。磯貝のために義手を作ろうと・・。少しずつ変わってきているのか・・・。
磯貝隼人 3人(町田、磯貝、雨宮)で脱走時、車のタイヤに巻き込まれて両手をなくし、親からも見放されて施設での生活。

雨宮一馬
姉 美香

町田を室井に連れ戻すことに失敗、制裁を怖れていたが、次の役目は行方不明の小沢稔と友達になること。次第に室井を信用できなくなってきて・・・。
・姉の美香は室井に心酔しきっている。

前原悦子
娘 楓
(15歳)

前原製作所の社長。夫の正彦が5年前脳溢血で亡くなり、その後引き継ぐ。社員は徳山源次郎ひとり。町田が大学に通いながら手伝う。
・楓は町田の冷たい眼差しと冷めた表情が苦手でいなくなることを願っている。

為井純(21歳)
父親 光彦
弟 明

東協大学理工学部1年。父親は“タメイドラッグ”の社長。
父親から会社は弟の明に継がせると。違う道を進むため私立大学経済学部より転学。

夏川晶子 東協大学理工学部3年、為井と同じサークル仲間。
繁村和彦 東協大学工学システム学科の研究生。変人の発明家。
小杉 謎の人物。全身に入れ墨。雨宮が小沢稔探しに協力する。
赤城 裏の世界のフィクサー。
<三章>

雨宮一馬
姉 美香

赤城達と室井達の争いに巻き込まれ太平洋を漂流、保護された後、新潟の工場でいるその姿を内藤が追っていた。雨宮は神のような存在に使える神の子だと吹聴。
・姉の美香は室井に心酔していて、雨宮の言うことを聞かない。

内藤信一 法務教官を辞め、今は警備会社勤め。テレビに映った雨宮を見て過去の疑念を確かめに。
町田博史 次第に前原製作所とSTNから距離を置くようになる。行方不明もしばしば。

前原楓
母親 悦子

町田博史に思いを寄せるようになり、稔を捜し出そうと奔走する。内藤とも情報の交換をするように。
STN起業メンバー

繁村の発明した合成樹脂をもとに新会社を設立。
・為井純 社長 業績は鰻登りだったが・・・。
・夏川晶子 専務?
・繁村 研究部門 ・リサ サポート役
順調に業績も上向いてきたが、思いがけない出来事に見舞われだす。

タメイドラッグ

・為井明 社長 久保麗子が来てから人が変わったようと。
・社長秘書 久保麗子
・安浦 専務、父親の代からの重鎮。

磯貝隼人 脱走時両手を失ったが、町田の作った義手で自分が幸せにならないと相手のことを理解できないと今は贖罪の思い。
本田邦義 京北医科大学大学院医学研究所教授。
木崎一郎 施設で生活している子供たちを救済する為の事業を行っている。“神共生会”という団体を設立。


◇ 物語の概要: 図書館の紹介より

 (上)
 殺人事件の容疑者として逮捕された少年には、戸籍がなかった。「町田博史」と名付けられた少年は、少年院入所時の知能検査でIQ161以上を記録する。やがて、何人かの少年を巻きこんだ脱走事件が発生し…。

 (下)
 身元引受人となった前原悦子の製作所を手伝いながら、大学に通いはじめた町田は、同じ大学の学生たちの会社設立を手伝うことになる。周囲は賑やかになり、町田の感情も穏やかになりはじめているように見えたが…。


読後感:  

 プロローグの舞台は雑司ヶ谷に事務所を持つ振り込め詐欺グループでの出来事。“おれ”という語りで戸籍のない人間が一応“ひろし”と名乗る。名義上は小澤稔と。しかしおれには小澤稔という知能障害のある実在の人物が側にいる。伊逹から小澤稔はふたりもいらない。稔を殺せと。伊逹に反抗したおれは伊逹を殺し、小澤稔と別れ、警察へ。
 その後の舞台は少年院での出来事へ。

 最初読み進んでいくと何故か天童荒太の「永遠の仔」を彷彿とさせる印象が湧いてきた。
 あの感動がまた甦ってくるのかとわくわくする。

 第一章は主に少年院のことが主題であったが、脱走してからの第二章は町田の身元引受人となっている前原母娘と町田の様子。片や新たに登場の為井、夏川晶子と町田がどのように関係が出てくるのかと思いきや、大学の発明家との接触で関係が出てくるとは。

 一見町田博史は前原悦子、楓母娘や徳山源次郎の話にほだされたり、仲間の磯貝の義手を作る様子などから態度や口の利き方では素っ気ないことを言いながらも、人間的な感情を持ち始めたのかと思わせながら下巻へと進んでいく。

 第三章に入り、5年経過しての状況が展開される。それぞれの変化が起きている。
 雨宮から聞き出した“ムロイ”という人物が何者かを調べ出す内藤、町田に思いを寄せ稔を探そうと楓も動き出す。一方でSTNを立ち上げた為井たちが新たに火種を見出すタメイの社長秘書久保麗子の存在だ。

 次第に核心に迫ってくるようなラストの章が始まる。木崎一郎という人物の名前が上がってきて魔の手が町田絡みの周辺に及んでくる。果たしてどういう結末へと展開していくのか筋が読めない。
 読み終わって最初の方で感じた天童荒太の「永遠の仔」の印象とは違った結果であるが、でも結構おもしろかった。

  

余談:

 この作品、上下巻合わせて900ページ以上にも及ぶのに本の厚さは1冊が25ミリほど。紙の質は薄く上質の質感があり、柔らかで触り心地が好い。さらに章毎に白黒の重厚さと生活感あふれる印象の写真、内側にも明白でくっきりとした写真風景が取り込まれていて本作りにも相当な力が入れられている感じである。本作りにも好感が持て作品の印象に効果を上げているようだ。 

 背景画は、本書の内表紙を利用して。