薬丸岳著  『 悪党 』


 


              2015-08-25




(作品は、薬丸岳著 『 悪党 』    角川書店による。)

        
  

 初出 「野性時代」(2007年11月号〜・・〜2009年5月号にかけ)に掲載された作品を、大幅に加筆修正。
 本書 2009年(平成21年)7月刊行。

薬丸岳:(本書より)

 1969年兵庫県生まれ。2005年「天使のナイフ」で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。著書に「闇の底」「虚夢」がある。

主な登場人物

佐伯修一
(29歳)
姉 ゆかり
父親

姉が高校の時暴行を受け、殺された姿を目撃。その後刑事になるも、4年前警察を懲戒免職、木暮正人に拾われ探偵事務所勤め。
・父親は理髪店を営む。

木暮正人

「ホープ探偵事務所」を営む、元刑事。
・事務担当 染谷おばさん。

<第一章>悪党
坂上洋一(29歳) 依頼人は細谷博文夫妻。一人息子の細谷健太を殺されたが、犯人の坂上洋一(懲役)の現在を調べ、坂上を赦せる材料を見つけてと。
遠藤リサ 坂上と同棲している。介護ヘルパー。
<第二章>復讐
前畑美代子 依頼人は早見剛。16年前一歳児の弟を放置死させた母親(前畑美代子当時21歳)。その長男(早見剛)は生き延び、前畑美代子の追跡調査を依頼する。
早見剛(つよし) 養子になった自分が、恋人が妊娠し、親の愛情を受けないで育った子供は、自分の子供に対しても愛情を注げないのではないかと悩んでいる。
<第三章>形見
松原文彦 依頼人は松原弥生(34歳)。文彦は15年前沼津で強盗殺人事件を起こし、少年刑務所に。家族の身元引き受け拒否で仮釈放認められず、今は埼玉県飯能市に住む。末期ガンの母親の元に連れてきてと。
<第四章>盲目

沢村祐二
(本名 山本次郎)

依頼人は町村幸雄(大手銀行の係長)。町村の妹(優子)は恋人であった沢村に騙され信用金庫の金を横領、3年の懲役。今でも沢村を愛しているらしい。沢村の現状調査の依頼。
<第五章>慟哭
久保田篤史 依頼人は鈴本茂樹(埼玉の弁護士)。かって弁護をした元被告人の久保田がちゃんと更生しているかの個人的調査依頼。

はるか
(本名 伊藤冬美)

吉祥寺のキャバクラ“レディージョーカー”で働く。田所健二が通う店。客の寺田正志のことを佐伯が調べることに協力。冬美には深い傷を負った過去を持つ。

榎木和也 高校生の、佐伯修一の姉(ゆかり)に暴行、殺した主犯。
寺田正志 共犯の一人。
田所健二(32歳) 共犯の一人。今は武蔵境でラーメン屋を経営。もうすぐ会社社長の娘と結婚する予定。寺田正志に弱みを握られていて、金やそのほかの面倒をみさされている。

物語の概要 図書館の紹介文より。
 

 探偵事務所の佐伯に、ある老夫婦から、息子を殺し社会復帰しているはずの男を捜し出してほしいという依頼がきて…。犯罪者と犯罪被害者遺族の心の葛藤を正面から切り込んで描いた、衝撃と感動の傑作社会派ミステリ。

読後感 

 探偵の佐伯修一は刑事の時懲戒免職となり、木暮探偵事務所にひろわれる。そこで主に加害者のその後を調べることが多いが、その傍ら姉のゆかりをレイプして殺害した榎木と共犯の田所、寺田に復讐?の念を抱いて追跡調査をしている。
 各章ではそれぞれの依頼事項が展開するとともに、榎木、田所、寺田の様子も織り交ぜて展開する。

 案件も被害者の側の憎しみ、悲しみとともに、加害者側の様子も織り交ぜて描写されているので、読者にとっては複雑な気持ちで読むことになる。
 ラストの榎木の様子では表面上は反省の様子が表されていないが、果たして流した涙は何だったのだろうか。

  

余談:

 榎木、寺田の行為は許しがたいところであるが、それとは別に各章の案件の事件後の有様はいろいろ。特に印象的なのは<第三章>の「形見」。加害者の親の立場での責任(血を分けた息子だから、最後の最後まで自分の子供がやることに責任を感じていた)を文彦に形見分けとして母親が残していった果物ナイフを見せて姉の弥生が放った言葉。
「もしあなたが今でも罪を犯し、人を傷つけるような人間であったなら、そう確信したなら、あなたを生んでしまった親の責任としてあなたを殺そうと思ったんでしょう」に加害者の側の苦しみが垣間見えた。

背景画は、「探偵物語」の探偵事務所もどきを利用。

                    

                          

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