薬丸岳著  『天使のナイフ』

              
2014-01-25


(作品は、薬丸岳著 『天使のナイフ』   講談社による。)

                  

本書 2005年(平成17年)8月刊行。 第51回江戸川乱歩賞受賞作。

薬丸岳:
 1969年東京都生まれ。駒澤大学高等学校卒業。卒業後、俳優を目指し、劇団に入団するが、半年で退団。その後、数々のアルバイトを経て、旅行会社に勤務していたが、本年度江戸川乱歩賞の締め切り1ヶ月前、執筆に専念するため退社した。それまで、漫画雑誌の原作賞に3度佳作入選。初めての応募で第51回江戸川乱歩賞を受賞した本作「天使のナイフ」は、2年の歳月をかけて初めて執筆した小説である。

 

主な登場人物:

桧山貴志
娘 愛美
(まなみ)
4歳
妻 祥子
(旧姓 前田)
義母 前田澄子

「ブロードカフェ」のオーナー店長。セルフサービスのコーヒーショップでフランチャイズ契約を結んでいる。
娘の愛美が生後5ヶ月の時、母親の祥子は三人の少年達によって殺され、桧山は愛美を早川みゆきのいるみどり保育園に預け、アルバイトを雇って店を運営している。
事件の2ヶ月前、祥子の通帳から5百万円が引き出されていた。

「ブロードカフエ」の店員たち

・仁科歩美 最近は入った新人。祥子に似た真面目で素直な子。
・福井建 ベテラン。
・鈴木祐子

早川みゆき みどり保育園の保育士。中学時代川越の学習塾で前田祥子と知り合う、祥子の親友。
三人組

・八木将彦(まさひこ)(少年A)所沢の航空公園前に住む。ボス的位置。
・沢村和也(少年B)家庭環境も問題なく、聞き分けがよく、素直で優しい子と。一度万引き。
・丸山純(少年C) 優しい子供だったと。

埼玉県警の刑事たち

・三枝警部 
・長岡刑事 大宮署の刑事。

貫井哲郎 週刊誌の契約記者、ノンフィクションライター。

小柴夫妻
娘 悦子

群馬県吾妻郡に住む夫妻。前田祥子も近くに住んでいた。
ここでも事件があった。

滝沢俊夫 田無市内の高校教諭、37歳。テレクラに電話したことで前田祥子とみゆきに出会うことに。

物語の概要:

4年前、13歳の少年たちに妻を惨殺された桧山貴志のもとに、犯人のうちのひとり・沢村が殺されたとの知らせが入る…。少年犯罪と少年法を身近に感じ、贖罪の意味を問う傑作。第51回江戸川乱歩賞受賞作。

読後感:

 14歳の少年による妻の祥子の殺人事件を発端に、4年後殺人事件を起こした犯人の一人沢村和也(少年B)が店の近くの公園で殺害された。あの事件があった時に桧山貴志が「国家が罰を与えないなら、自分の手で犯人を殺してやる」と発言したことから刑事が桧山をその容疑者として真っ先に疑われる。

 少年法に守られる加害者側の保護派と厳罰を科すべきとの厳罰派の問題を孕みながら、桧山は祥子の犯人捜しと共に、何故殺されねばならなかったのか、犯人たちはどのように更正しているのか、はたまた贖罪に苦しんでいるのだろうかと真相探しに動き出す。

 祥子殺しが意外な事情があることが明らかになるに連れ、少年たちのその後、祥子の隠された姿、さらにつながっている真相があぶり出されていく。
 ミステリーとしても引き込まれる内容で読み応えのある作品である。

  

余談:
 
 巻末に江戸川乱歩賞の選者による講評が掲載されていた。概して力作、犯罪被害者と少年法という、昨今論じられることの多いテーマを正面から取り組みつつ、被害者側だけでなく加害者側の視点もきちんと押さえながら「罪と贖罪」の意味を問うている。「現実」に密着した社会派小説でありながら、本格ミステリ的な観点からとらえても充分に評価できる作品とある。まさにその通りと思う。
  背景画は、本作品にも似たスターバックスのコーヒーショップ店内の様子。