矢口敦子著  『 償い 』





                  
2011-12-25




(作品は、矢口敦子著 『 償い 』 幻冬舎による。)

          


 本書 2001年(平成13年)8月刊行、書き下ろし作品。

 矢口敦子:
 1953年北海道生まれ。 病気のため、小学校5年で通学をやめ、通信教育で大学を卒業する。 97年「人形になる」で女流新人賞受賞。 その他の著書に「家族の行方」(鮎川哲也賞最終候補作)「そこにいる人」「もういちど」など。

物語の概要図書館の紹介より

     ベッド・タウンで社会的弱者ばかり狙った連続ナイフ殺人事件が発生。 絶望しながら生きるホームレスは、15歳の少年が犯人ではないかと疑う…。 2人の魂が救済される時は来るのか。 感動のミステリー長編。

主な登場人物舞台は埼玉県光市

日高英介
妻 広恵
息子 大輔(3歳で死ぬ)

脳外科医師だったが、色んな不具合が重なり辞めてホームレスに。 殺人事件は真人が犯人ではないかと疑いを持ち、自分が真人を助けたことで罪を犯したのではないかと悔やむ。
妻広恵は大輔をインフルエンザ脳症で死なせてしまったことで日高に責める言葉を浴びせられ、「あなたの荷物を降ろしてあげる」と言って13階のベランダから柵を越える。

山岸徹男
署長 敦賀

光警察署刑事一課の刑事。

草薙家
父親 重人
(しげと)
母親
息子 真人
(15歳)

幼児誘拐事件で2歳10ヶ月真人が首を絞められている所を目撃した日高英介が救出する。
真人は人の悲しみが聞こえる。 耳に直接聞こえるというより、心に感じると。 日高に関口事件と富士子・青木事件は別と告げる。

堀田周一
妻 夕子

野瀬家の向かいの住居。周一は野瀬富士子と不倫していることもありナイフ魔容疑で留置場に。 本人は殺人を否定。
夫の不倫を知らず、無実を信じているようでもある夕子の精神が壊れる。 ナース。

野瀬富士子(40歳) 母親との二人暮らし。 車椅子の生活だが、エッセイを出したり、あちこちに講演に出かけて有名人。 家の前で車椅子に乗っている状態で殺される。

関口三郎(老人)
娘 真奈美

婆さまと二人暮らし。 鋭利な刃物で胸を刺され亡くなる。
娘の真奈美は親に結婚反対され、駆け落ちして大阪に。
相手は桑原満男。

青木 ホームレス。 日高が真人からもらった革ジャンをかぶって講演の芝生でよって寝ていた所を喉を切り裂かれて殺される。

川路家
長男 竜郎

火災に遭い、両親と次男が焼死。
ストリート・ミュージシャンの長男のみ外出していて助かる。

福島倫也(ともや) 心臓が悪く1年に1−2回救急車で運び込まれる。 真人の小学校からの友達。 入院中胸を刺して亡くなる。


読後感:

 主人公は外科医師だったが医療ミス(?)の責任と家族を立て続けに失ったことからホームレスに落ちぶれた日高英介。立て続けて起こる殺人事件に自分が幼児誘拐事件で助けた少年(草薙真人)がナイフ魔の殺人鬼になったのではないかとその真相を探るという今までにないシチュエーションが意外である。しかも相手が弱者であることも。幾つかの殺人事件や不審な事件が併発して展開するがヒトは色んなことに悩み、生きる価値があるかなどの荷物を背負って生きたり死を選んだりする様が展開する。

 日高を何故かあるていど好ましく扱う山岸刑事の協力者のような形で、草薙真人が殺人鬼ではないないかと疑心暗鬼しながら事件を調べていった先にあるものははたして。

 調べていく中で自分がひとりを助けたことによって多くの人を殺したことになるのではないか、また子供と妻を死なせてしまったのではないかと悩む日高も生きている価値があるのかと・・・。
 世の中には病んでいる人が多いということかそして“心を傷つけたらどういうことになるか”も考えさせられる。


印象に残る表現: 

堀田夕子と日高のやりとり:

(夕子)

「人の肉体を殺したら罰せられるけれど、人の心を殺しても罰せられないんだとしたら、あまりに不公平です」

・・・

「心に受けた傷がいつか癒えるなんて、どうして断言できるんです。 心だって、致命傷を受ければ、死にます。 死んでしまったら、決して蘇りません。 肉体も心も同じ材料でできているんじゃありませんか。」

  

余談:

 夏川草介著の「神様のカルテ」を読んでいるが、同じ医者が主人公でありながら、内容はかなり異なる。 「神様のカルテ」の方は高度医療知識を得るために大学の医局に戻るか、ちまたの死を前にした患者や普通の医療現場で毎日の過激な業務に忙殺されながら終わるのかの選択を迷う立場とさまざまである。


背景画は本書の内表紙を利用。

                    

                          

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