和田 竜著 『村上海賊の娘』


 

              2016-09-25



(作品は、和田 竜著 『村上海賊の娘』   新潮社による。)

       
  

 初出 週刊新潮2011年5月5日、12日号併合〜2013年3月7日号。単行本化にあたり、加筆修正。
 本書 2013年(平成25年)10月刊行。

 和田竜(わだ・りょう):(本書より)

 1969年大阪生まれ、広島育ち。早稲田大学政治経済学部卒。2007年「のぼうの城」で小説家デビュー、同書は累計200万部(単行本と文庫)を超えるベストセラーとなり、2012年映画公開された(脚本も担当)。
 著書に「忍びの国」「小太郎の左腕」「戦国時代の余談のよだん。」があり、本書「村上海賊の娘」は小説第四作となる。 

主な登場人物:


【村上家】
能島村上

・父 :村上武吉 当主、村上海賊を最盛期に導く。
・嫡男:村上元吉 勤勉謹直で家臣に厳しい。
・姉:村上景
(きょう) 悍婦(かんぷ 手に負えない女)醜女(しこめ)。嫁のもらい手がない、当年20歳。
・弟:村上景親
(かげちか)逃げ足の速い臆病者。

来島村上 ・村上吉継 重臣筆頭、直情型の毛むくじゃら。
因島村上 ・村上吉充(よしみつ) 当主、世渡り上手の優男。
【毛利家】
小早川隆景 なき毛利元就の三男。甥に当たる現当主の毛利輝元の補佐。天下人も認める頭脳の持ち主。
乃美宗勝 小早川隆景の重臣。警固衆(けごしゅう 水軍)の古強者で、主人に遠慮のないはげ頭。
児玉就英(なりひで) 毛利家直属の警固衆の長。色白の若き美丈夫。気位が高い。
【織田方】
真鍋家

・父 :真鍋道夢齋(どうむさい) 泉州における真鍋家躍進の立役者。坊主頭の大入道。
・息子:真鍋七五三
(しめの)兵衛:若き当主、剛強無双の巨漢、怪物。

沼間家

・父 :沼間任世(ただよ)泉州を束ねる触頭(ふれがしら)
・息子:沼間義晴 真鍋家の台頭に危機感を抱く。

松浦家

泉州半国のもうひとりの触頭。
・弟:松浦安太夫 元々寺田安太夫、かって触頭の主人松浦肥前守を遠矢で殺し、松浦家を半国の触頭の地位と岸和田城ごと乗っ取った。
・兄:寺田又右衛門 強弓の名。

原田直政 織田家の重臣、大坂本願寺攻めの総大将。
【大坂本願寺】
顕如 一向宗本願寺派第十一世門主。信長と対立。
下間ョ龍 顕如の側近。門主の権威を笠に着る。
源爺 安芸高崎の百姓。一向宗門徒。
留吉 源爺の孫で、一向宗門徒。口の達者な少年。
鈴木孫市 鉄砲傭兵集団、雑賀党(さいかとう)の首領。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

上巻
 和睦が崩れ、信長に攻められる大坂本願寺。毛利は兵糧入れを乞われるが、成否は「海賊王」と呼ばれる村上武吉と娘の景にかかっていた…。

下巻
 織田方の猛攻を雑賀衆の火縄が止め、門徒の勢いを京より急襲した信長が粉砕する。毛利・村上の水軍もついに難波海へ…。「のぼうの城」から6年、型破りな人物と感動。著者最高傑作の誕生。


読後感
  

 痛快戦国時代小説というか、随所に読みどころが用意されていてついほろりとしたり、拍手喝采したりと。
 また出典なりの説明が途中挿入されていて(よく司馬遼太郎作品に見られるが)理解の一助にもなる。
 
 上巻での圧巻はやはり織田方の天王寺砦の大坂本願寺木津砦を襲撃する4千ほどの軍と鈴木孫市率いる雑賀党の鉄砲隊および一向宗の1万数千の門徒たちとの戦。
 織田方の沼間家の次代の触頭と目される義清と海賊衆の真鍋家の七五三兵衛の人物対比が面白い。この時海賊衆に嫁ぎたいとする村上武吉の娘景
(きょう)姫は故あって織田方の天王寺砦にいたが、景自身は門徒の留吉や源爺を大坂本願寺に送り届ける約束で道中すっかり懇意になってしまっていてこの戦は第三者的立場で眺めていたのだが。

 遡って村上一族の家系も独立的立場の能島
(のしま)村上(当主 村上武吉)、毛利家に取り込まれている因島(いんのしま)村上(当主 村上吉充(よしみつ))、来島(くるしま)村上(当主 村上吉継)の三家からなる(三島村上)も、村上海賊の名をとどろかせているのは能島村上。

 大坂本願寺から兵糧10万石を木津砦に運び込むよう頼まれている毛利家が三島
(さんとう)村上に頼みに来るシーンも見逃せない。
 そこでも景姫の見る目は婿選びの観察ぶり。

 さて下巻になると先の天王寺砦での源爺の死に様を見て「もう戦なんぞ見とうない。戦なんて嫌じゃ」と父武吉に涙を流した景姫であったが、父から毛利家の腹の内を聞いたとたん天を仰ぎ絶叫する景。
 留吉や源爺、門徒たちの他人のために戦う彼らのために「オレはそういう立派な奴らを助けてやりたい」と。武吉は”鬼手が出るか”とつぶやく。

 小早川隆景の待つ上杉謙信が出陣するか否かを見極める7月13日が過ぎ、景の活躍で十津川河口での船戦が切って落とされ、壮絶な戦いが展開する。その様子がそれぞれの対戦で描写され、それぞれの人物像が描かれる。しかもそれは7月13日の日没から翌14日の未明に至るまでのことであった。
 戦の模様は読んでいる内にちょっとくどくて焦点の盛り上がりに欠ける点もなくはないが・・。終章の戦の後のそれぞれの行く末の史実は結構面白かった。 

  

余談:

 村上海賊の舞台となる地図といい、登場人物のリストといい周到に準備されていて読者の理解に非常に役立っている。そして話も簡潔明瞭にしてすっと頭に入り、物語の中に溶け込めるのが素晴らしい。さらには悪人、善人の区別なく平等に扱っているところがこれもいい。
 さわやかな読書が出来た。
 史実をベースにした物語なだけに歴史の一断面を見る思いでおもしろかった。 

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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