ヴィクトール・E・フランクル著
                (池田香代子訳)

 
           『夜と霧』



              2012-01-25



本作品はヴィクトール・E・フランクル著「夜と霧」(池田香代子訳)みすず書房による。

              
  

 本書 2002年(平成年)11月刊行。

 Viktor Emil Frankl: (1905-1997)

 1905,ウィーンに生まれる。 ウィーン大学卒業後、在学中よりアドラー、フロイトに師事し、精神医学を学ぶ。 第二次世界大戦中、ナチスにより強制収容所に送られた体験を、戦後まもなく「夜と霧」に記す。 1955年からウィーン大学教授、人間が存在することへの意味への意志を重視し、心理療法に活かすという実存分析やロゴテラピーと称せられる独自の理論を展開する。

物語の概要: 図書館の紹介より

 心理学者、強制収容所を体験する…。飾りのないこの原題から、永遠のロングセラーは生まれた。「人間とは何か」を描いたこの静かなテキストが、世代を超えて読み継がれるようにと新訳・新編集で贈る。


読後感
 

 この本のことを知ったのは 「神様のカルテ2」 (夏川草介著) の中で主人公の外科医栗原一止(いちと)の妻ハル ( 山岳の写真家でしょっちゅう海外に出かけている ) の一番の愛読書で登山の時はいつも携帯しているという。 そして、同じ “ 御岳荘 ” の住人屋久杉君 ( 信州大学の農学部に在籍) が折角大学に入ったのにやる気も夢もなく将来について真剣に悩んでいるときにハルさんからこの本を紹介され、夢中になって読んでいる。

 そして 「“人間”について真っ向から向かい合い、その本質と可能性をまことに自然な筆致で描き切った、掛け値なしの名著」 と記述されていたら手にしないわけにいかない。

 かくしての感想はと言うと・・・。
 この作品は一人の心理学者がアウシュビッツ強制収容所ではなく、その悪名高い支所に入れられその時に体験した状況を書きつづり、解放されて発表されたものである。
 新版とあるのは・・・
 本人が医師であることから収容所で医師不足のためそちらの仕事を見る立場に居られることでガス室に送られずにも済んだようである。
 中味は三段階に別れ、収容所生活への被収容者の心の反応が、施設に収容される段階、まさに収容所生活そのものの段階、そして収容所からの出所ないし解放の段階について記述されている。

 思うに人間は極限状態に置かれたときどのように対処するかが示唆されていて、ここでも今回の東北大震災のような未曾有の災難に遭遇したときの人間の生きかたにも通じるところが多々あり精神的にも大いに勇気づけられる所が多かった。
 
 一番に残ったのは先が判らない、希望も持てないという精神状態では身体も壊れてしまうということ。発疹チフスがはやっているとき希望を失った人間は忽ち病気に呑みこまれてしまった場面にはなるほどそうなんだと思ってしまった。 たとえ小さな希望を持つことが人間にとってどれほど力をつけてくれるものなのかを改めて思い知らされた。
 
 またこんなひどい状態でも、人は優しい気持ちを持った人もいるということ。 それを感じ取る感性を持っていること。 チョットしたことにも元気づけられるものがあること等を感じた。
 現実の生活で落ち込んだとき、なにか張り合いが無くなったときそんな時にこの作品を読み返してみれば何かが見えてくるかも。 「神様のカルテ」 にあった通りであろう。

印象に残る場面:

◇ このFという名の仲間は、私に夢の話をしたとき、まだ充分に希望を持ち、夢が正夢だと信じていた。 ところが、夢のお告げの日が近づくのに、収容所に入ってくる軍事情報によると、戦況が5月中に私たちを解放する見込みはどんどん薄れていった。 すると、5月29日、Fは突然高熱を発して倒れた。 そして5月30日、戦いと苦しみが 「彼にとって」 終わるであろうとお告げがあった日に、Fは重篤なせん妄状態におちいり、意識を失った。 ・・・5月31日、Fは死んだ。 死因は発疹チフスだった。

 勇気と希望、あるいはその喪失といった情調と、肉体の免疫性の状態のあいだに、どのような関係が潜んでいるのかを知る者は、希望と勇気を一瞬にして失うことがどれほど致命的かということも熟知している。 仲間Fは、待ちに待った解放の時が訪れなかったことにひどく落胆し、すでに潜伏していた発疹チフスにたいする抵抗力が急速に低下したあげくに命を落としたのだ。 未来を信じる気持ちや未来に向けられた意志は萎え、そのため、身体は病に屈した。

  

余談:

 驚いたことに図書館には3冊の在庫が有り、予約は少ないがそれがつねに貸し出されている状態にあるようで、静に読み継がれている作品であることに感心した。 名作というものはかくのごときもののようだ。 

背景画は、ポーランドのアウシュヴィッツ収容所フォト(ネットのHPより)。
「働けば自由になる」と記されているという。

                    

                          

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