印象に残る場面:
◇ このFという名の仲間は、私に夢の話をしたとき、まだ充分に希望を持ち、夢が正夢だと信じていた。 ところが、夢のお告げの日が近づくのに、収容所に入ってくる軍事情報によると、戦況が5月中に私たちを解放する見込みはどんどん薄れていった。 すると、5月29日、Fは突然高熱を発して倒れた。 そして5月30日、戦いと苦しみが
「彼にとって」 終わるであろうとお告げがあった日に、Fは重篤なせん妄状態におちいり、意識を失った。 ・・・5月31日、Fは死んだ。 死因は発疹チフスだった。
勇気と希望、あるいはその喪失といった情調と、肉体の免疫性の状態のあいだに、どのような関係が潜んでいるのかを知る者は、希望と勇気を一瞬にして失うことがどれほど致命的かということも熟知している。 仲間Fは、待ちに待った解放の時が訪れなかったことにひどく落胆し、すでに潜伏していた発疹チフスにたいする抵抗力が急速に低下したあげくに命を落としたのだ。 未来を信じる気持ちや未来に向けられた意志は萎え、そのため、身体は病に屈した。
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