ウンベルト・エーコ著
                          『薔薇の名前』
                          (河島英昭訳)





                      2011-11-25



(作品はウンベルト・エーコ著『薔薇の名前』(河島英昭訳)東京創元社による。)

         

 本書 昭和48年10月刊行

ウンベルト・エーコ:

 1932年、北イタリア、アレッサンドリアに生まれる。トリーノ大学で、中世美学、トマス・アクィナスを研究。卒業後、イタリア放送協会の文化番組やボンピアーニ出版社の評論部門の仕事に参画協力。世界的な記号論学者として国際記号学会会長をつとめている。
 本書「薔薇の名前」は伊・ストレーガ賞、仏・メディシス賞受賞。


物語の背景、概要:
・(上)
 迷宮構造をもつ文書館を備えた、中世北イタリアの僧院で 「ヨハネの黙示録」 に従った連続殺人事件が。 バスカヴィルのウィリアム修道士が事件の陰には一冊の書物の存在があることを探り出したが…。 精緻な推理小説の中に碩学エーコがしかけた知のたくらみ。

 ・(下)
 中世、異端、「ヨハネの黙示録」、暗号、アリストテレース、博物誌、記号論、ミステリ…そして何より、読書のあらゆる楽しみが、ここにはある。 全世界を熱狂させた、文学史上の事件ともいうべき問題の書。 伊・ストレーガ賞、仏・メディシス賞受賞。


物語の背景、概要:

ウィリアム わが師、バスカヴィルのフランチェスコ会修道士。 皇帝派と教皇派の僧院での会談の調停役の役目を負いつつ、僧院長の依頼で奇妙な事件の調査を依頼される。
アドソ(私) ベネディクト会の見習い修道士。 ウィリアムの弟子、書記の役を受け持つも、わが師と共に調査に加わる。
アッボーネ ベネディクト会修道院の院長。皇帝の要請により教皇との使節団との宗教論争の(?)会談の仲介地としてこの山上の僧院を提供することに。 会談のその前にこの奇妙な事件の犯人を突き止めておく必要がある。
アデルモ 細密画家の修道僧。あの建物の塔から見下ろした断崖の底で死体となって発見される。 自殺?
ウベルティーノ フランチェスコ会厳格主義派の指導者、68歳。ウィリアムとは10年ぶりの再会。ヨハネス教皇は彼を地獄におとしめようと狙っている。
マラキーア 文書館長。
ベレンガーリオ 文書館長補佐。 行方不明に。
セヴェリーノ 薬草係の学僧。 肢体の検分を任としている。
サルバトーレ 厨房係の助手。
レミージョ 厨房係。 謎の書物を巡り、手に入れたことにより、マラキーアより文書館長の補佐の後任の話がある。
ミケーレ フランチェスコ会総長。 ヨハネス教皇からアヴィニョンに一人で来るように呼び出されている。
ベルナール・ギー 異端審問官、ドミニコ会修道士。 教皇側の使節団。


読後感:

 上下二巻、各々400ページを超えるなか、びっしりと書き込まれた文字の列、それだけで相当な分量の物語である。 後になってプロローグや小さな文字で記された “手記だ、当然のことながら” と表された部分を読むことに。 さもないとなかなか本文に入り込めないような気がしてしまう。

 当初感想を書き始めたのが以下のよう。
 物語の最初の方は何とも理解できなくて投げ出したくなる。 宗教の話、書物の話、記号の話などなど ・・ 。 しかし次ぎに読む本が手元になかったため、そのまま流して読んでいると内容が次第にミステリアスな展開になってきて引き込まれていく。
 
 難解なのは宗教上のいろいろな歴史上の意味があり、その一端が記述されている箇所を通ることで何故わが師であるウイリアム修道士がこの僧院に来たかの理由が判るとやっと見えてきた。 そしてこれはなかなか重厚で内容のある物語のような気がしてきて興味が湧いてきた。 こういう読書もいいものである。

 僧院長が誰も入ることを認めない謎の文書館に忍び込むウィリアムとアドソ、迷宮に悩まされ出口さえも見いだせない。 そして誰かがいる謎。 幻覚、幻影に悩まされながらそして師やウベルティーノに聞く宗派のこと、修道士ドルチーノと美しいマルゲリータの最後、ミケーレ修道士の死の状況はキリスト教の考え方の色々を感じさせる。
 
 僧院での両者の会談での模様、そして殺人犯の追及とミケーレ、ウィリアム側の負けに終わった会談後、ウィリアムが 「この事件(一連の殺人事件)の流れの内には、教皇ヨハネスと皇帝レートヴィヒとの争いよりも、もっと重大な事柄が潜んでいるのではないかと考えている」 の言葉に、さらなる興味が湧いてくる。 ここまでなかなか宗教上の難解さにうんざり気味であったが、再び謎に迫るおもしろさが復活してきそうであった。

 読み終えたら改めてプロローグや “手記だ ・・・” の部分を読みたくなる。 さらに解説を読みようやく 「薔薇の名前」 という作品の価値を知ることに。

 
余談:

 そういえばショーンコネリーが出ていた「薔薇の名前」という映画があった気がする。暗い背景でショーンコネリーの顔が大写しの場面が記憶にある。きっと全部は見ていなかったと思う。イタリアの中世の時代を色濃くにじませている様子が物語を読んでいても感じられるし、螺旋階段や迷宮の建物の様子は映像化に適しているようだ。
 解説で中世の石の文化のことに関連し、“世界ふれあい街歩き”に見るヨーロッパの風景の様子がなるほどと思い起こされる。日本の木の文化と通じるものであろうと思えた。

 背景画は、映画の「薔薇の名前」の一シーンを利用。