上橋菜穂子著  『 鹿の王 』





               2015-01-25


  (作品は、上橋菜穂子著 『 鹿の王 』   角川書店による。)

        

 本書 2014年(平成26年)8月/9月刊行。書き下ろし作品。

 上橋菜穂子:(本書より)

 作家・川村学園女子大学特任教授。1989年「精霊の木」で作家デビュー。著書に野間児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞した「精霊の守り人」をはじめとする「守り人」シリーズ、野間児童文芸賞を受賞した「狐笛のかなた」「獣の奏者」シリーズなどがある。海外での評価も高く、2009年に英語版「精霊の守り人」で米国バチェルダー賞を受賞。14年には「小さなノーベル賞」とも言われる国際アンデルセン賞作家賞を受賞している。

物語の概要:

(上)
 命をつなげ。愛しい人を守れ…。厳しい世界の中で未曾有の危機に立ち向かう、父と子の物語が、今始まる。作家デビュー25周年&2014年国際アンデルセン賞作家賞受賞第1作。 (下)
 不思議な犬たちと出会ってから、その身に異変が起きていたヴァン。何者かに攫われたユナを追うヴァンは、謎の病の背後にいた思いがけない存在と向き合うことに…。傷つきながらも生きていく人々の輝く生命の物語。


 主な登場人物:


ヴァン(40歳) 物語の主人公。ガンサ氏族。<独角>の頭として東乎瑠(ツオル)を相手に戦ったが破れ、アカファ岩塩鉱で奴隷となっている。父母も祖父母も、妻と子もこの世にいない。
ユナ 岩塩鉱でヴァンが拾った元気のいい幼子(女の子)。
トマ オキに住むオキ氏族の青年。怪我をして動けなかったところをヴァンに助けられる。
季耶(キヤ) トマの母。東乎瑠(ツオル)から移住させられてオキに来た。
ホッサル
(26歳)
祖父 リムエッル
物語のもう一人の主人公。オタワル人の医術師。
・リムエッルは東乎瑠
(ツオル)の皇妃を死病から救ったことのある高名な医術師。
マコウカン ホッサルの従者。ユカタ山地の氏族から追放されている外れ者。
ミラル ホッサルの助手。ホッサルの3つ年上、姉のように。
トマソル ホッサルの義兄。オタワル深学院<生類院>の院長。
シカン トマソルの助手。ユカタ平原の<火馬の民(アファル・オマ)>の出身。
アカファ王 東乎瑠(ツオル)に征服されたアカファの王。東乎瑠(ツオル)に服従を誓っている。
スルミナ アカファ王の姪で、東乎瑠(ツオル)の有力者・与多瑠の妻。
トゥーリム <アカファの生き字引>と呼ばれるアカファ王の懐刀。
マルジ 跡追い狩人の頭。(モルファ=隠密)
サエ
(32〜3歳)
マルジの娘。跡追いの狩人の中でも素晴らしい腕を持つ女性。
スオッル <谺主(こだまぬし)>ワタリガラスに魂を乗せて飛ぶ<ヨミダの森>に住む老人。
那多瑠(ナタル) 東乎瑠(ツオル)帝国の皇帝。皇妃の命を救ったリムエッルに信頼を寄せている。
王幡侯
(おうはん)
東乎瑠(ツオル)帝国アカファ領主。ホッサルの治療で命を救われたことがある。
迂多瑠(ウタル) 王幡侯(おうはん)の長男。
与多瑠(ヨタル) 王幡侯(おうはん)の次男。アカファ王の姪・スルミナを妻にしている。
呂那(ロナ) 王幡領の祭司医長。清心教医術。
ケノイ <火馬の民(アファル・オマ)>のかっての族長。
<火馬の民>はユカタ平原を追われた後、各地に分散して移住。トガ山地に身を寄せたオーファンたちを引き受けたのがガンサ氏族。
オーファン ケノイの息子。<火馬の民)>のいまの族長。
ザッカ ヴァンの義兄。<火馬の民>の戦士。
ナッカ <沼地の民>の小男。ユナをさらっていく。
<沼地の民>は<火馬の民>の下層民と見なされている。

 (補足)
 物語の背景:数千年に亘り栄えたオタワル王国が強大な東乎瑠(ツオル)によって衰え最後の聖王タカルハルはアカファ地方の交易都市カザンに王都を移しアカファ人の若き都主に王国の統治権を譲り渡した。アカファ王国の始まりである。生き残ったオタワル人は険しい山々に囲まれた盆地に<オタワル聖領>を築き医術を始め様々な技術を磨き国を持たずに生きる道を選んだ。
・トガ山地はアカファの西の国境地帯にあり、常に西(ムコニア王国)からの侵略に悩まされていた。
・アカファ王国は巧みに東乎瑠
(ツオル)に恭順し帝国の中で一定の地位を与えられていてアカファ人は帝国属州の平民として暮らしを保証されていた。
・だがトガ山地に点在の各氏族はアカファ人ではない。皆アカファ王に恭順の示す変わりに緩い自治権を許されてきた独立民であり、東乎瑠
(ツオル)帝国属州の平民とは見なされていない。
・<独角>は、普通の暮らしからはぐれてしまった男達で構成された戦士団で、このトガ山地に精通し、ムコニア王国に対する国境の防衛戦力として使える氏族だと認められればこのまま故郷で暮らせるのではないかと。
読後感

 読んでいる内になるほどと思った。児童書に属していたことに。物語の雰囲気がそれらしくもあるが、児童書にしては難しい漢字が多く、ルビが一応ふってあるが、最初に出てきたときぐらいでとてもそんな物じゃない、大人の読み物として書かれた物であろうと。とはいえ物語は一方の主人公であるヴァンが岩塩鉱に鎖で繋がれている最中山犬(?)か黒狼かに襲われるシーンからはじまり虐げられている氏族の境遇、支配する側東乎瑠(ツオル)とそれに迎合して支配されているアカファ王国の歴史、そしてアカファとはゆるやかな拘束でつながっている各氏族のしがらみを織り込みながら展開する。

 一方もう一人の主人公とも言うべき医術師ホッサルとその従者マコウカン、ホッサルの助手ミラルたちは黒狼熱に対する処方薬の開発に注力、やがて二人が交わりを持つようになって物語が展開する。
 
 ミステリーや刑事物語、文学作品と言った雰囲気と全く印象を異なり、お伽噺を読んでいるようである。
 帯文や広告で言う父と子の物語を強調しているが、ちょっとどうかなと思ってしまう。

 上巻での印象深かいのは、ホッサルの従者のマコウカンで感情移入してしまう。山犬に噛まれながら他の者は全員死んだのに、生き残ったヴァンを追い求める役を仰せつかったサエとマコウカンの描写、ホッサルに命じられたヴァンのその後の追跡を行うときに自分の故郷を訪れることになったマコウカンとホッサルのやりとりなどに惹きつけられるものを感じる。

 下巻に入ってくるとアカファ王が東乎瑠
(ツオル)への服従のため<火馬の民>たちが昔の生活に戻れるよう東乎瑠(ツオル)に疫病を振り向けることで共に反旗を翻そうとするのを裏切るところから、ホッサルたちの心配(病素が変化を遂げてアカファ人やサガ山地の人々も病にかかること)、体に変調をきたしたヴァンは<火馬の民>が黒狼たちを使って東乎瑠(ツオル)たちを狙っている(?)のを阻止し救うために奔走する姿が展開する。

 下巻ではヴァンとサエの交流が味方ではないけれど気持ちが通じ合える姿がいい。一方でマコウカンのキャラも好感が持てる。
 本作品、1000ページを超える大作で、最後までちょっと複雑な展開が難であるが力作であることは間違いない。

余談:

 登場人物のリストがあるのは読み進むのに大変助かったし、これに地図があるともっと早く理解が出来て良かったかと。
 後書きを読んでこの作品が出来上がるまでの大変さが作品を読んでいても伝わってきて読み終えてなるほどと感じさせられた。

背景画は山犬になぞらえて。 

                    

                          

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