本書は第21回太宰治賞を受賞した「マンイーター」を改題したもの。 本書 2005年(平成17年)11月刊行。 津村記久子:
1978年大阪市生まれ。大谷大学文学部国際文化学科卒業。2005年「マンイーター」で第21回太宰治賞を受賞。2008年「ミュージック・ブレス・ユー!!」で第30回野間文芸新人賞受賞。その他の著書に「君は永遠にそいつらより若い」(「マンイーター」を改題)、「カソウスキの行方」、「婚礼、葬礼、その他」など。現在は報告書の製本という、職人と一般事務の中間のような仕事をしている。(本書より追記)
堀貝佐世 (呼称 ホリガイ)
河北修一郎
3年の夏休み、起業すると言って大学を辞める。アスミちゃんと付き合っている。他にも付き合っている女の子あり。 オカノは本気で河北を嫌っている。ホリガイは河北に食事をおごられることがあるが、ホリガイの執拗な問いかけに・・・。
猪乃木楠子 (呼称 イノギ)
身長175センチ、22歳処女。就職が決まった大学4年生のだるい日常の裏に潜む、うっすらとした、だが、すぐそこにある悪意…。現代的な筆致が光る、第21回太宰治賞受賞作。
主人公のホリガイの人物像がなかなかユニーク。長身の男にもてない(?)内気で変な性格の女。おとなしいと言うではなく、河北という男には思ってもない、言ってはいけないようなことをつい言ってしまい怒りをかう。大学生時代の自由な時間を過ごす貴重な時間、金がないためバイトにも励まねばならないが、新しい友達も持ちたいとも。 ホリガイの人生で一番負けたと思った時の話は、今の子供に聞かせてやりたいところだが、イノギの反応、「そこにおれんかったことが、悔しいわ」の言葉に猪之木楠子の人柄を感じる。その後後半でイノギの生い立ちが語られる場面でイノギの影の部分があぶり出され、ホリガイにとって忘れられない女性であることが印象に残る。 読んでいく内に登場人物の河北、アスミ、イノギ、そして自分のなかに、なかなか人に言えない暗い過去を背負って生きていることがあぶり出されている。 ラストの文章を読んでいる内になんだか涙が出てきて止まらなかった。そしてラストまで読んで、何か訳が分からなくなってきて、はっきりさせたいなあとまた初めから読んでしまった。最初のシーンはこういうことを呼び水にしていたことだったのか、“昨日あの子の18歳の誕生日であった”ということ、そして“君は永遠にそいつらより若い”というのは、あの子のことを言っていたのかと判った。それを判るためにやっぱりじっくりと読み返さなくてはならなかった。妙に心に残る小説であった。