辻村深月著
               『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』、
                『オーダーメイド殺人クラブ』


              
2013-07-25




(作品は、辻村深月著 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』(講談社)、
    『オーダーメイド殺人クラブ』(集英社)   による。)


                
『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』

 初出 この小説は2010年10月新潮社より刊行。
 本書 2012年(平成24年)9月刊行。

『オーダーメイド殺人クラブ』 

 初出 「小説すばる」2009年11月号〜2010年11月号。
 本書 2011年(平成23年)5月刊行。

 辻村深月(みずき):(本書より)

 1980年生まれ、千葉大学教育学部卒。2004年に「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞してデビュー。「ツナグ」で吉川英治文學新人賞を、「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞。著書に「ぼくのメジャースプーン」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」「オーダーメイド殺人クラブ」「水底フェスタ」など。

主な登場人物:

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』

神宮司みずほ
(結婚後の名前は梁川
(やながわ)
母親 
父親

甲府に小中高と在住、東京に出てファッション雑誌のライター。チエミとは近所に住まいし幼なじみ。
母親には厳しく育てられる。啓太を好ましく思いみずほに勧める。今年の3月、30歳を目前に結婚式を挙げる。
チエミの母親は優しく、みずほを可愛がっている。
チエミの行動が気になり、記事にする
(?)ためか追跡調査をする。

望月チエミ
母親 千草
父親 

みずほと同い年の幼なじみ。おとなし目の真面目な子。
柿島大地と付き合うもどうも一方的に好きのよう。
今年の4月、母親が腹を刺されて死亡、チエミはその時から姿を消す。家庭は仲良し家族で仲が良すぎるとも・・・。

北原果歩 みずほとは合コンで知り合う仲。メンバーで一番の人気者で、素直な無垢な存在。妻子持ちの5歳年上の先輩との間に・・・、中絶。
古橋由紀子 望月チエミの小〜高の元同級生。山梨在住、2年前結婚して1児の母親。スーパーで働く。

飯島政美
(旧姓 永井)

みずほたち遊び仲間のまとめ役。合コンの幹事。
梁川啓太 神宮司みずほの兄の会社の後輩。みずほと結婚。
柿島大地 チエミの元恋人。チエミとはタイプを異にする女達との付き合いが広い。チエミに大地を紹介したのがみずほ。
添田紀美子 チエミの小学6年生の時の担任。事件の後、チエミは恩師を訪ねたが真相までは話が出来ないで去る。
及川亜理沙 アガサ建設の建築士、チエミの3つ年下。望月チエミは6年先輩で事務職の派遣社員であった。陰ひなたがあり、チエミを莫迦にしている。

瀬尾医新一
院長 設楽かなえ

富山県高岡市内の高岡育愛病院の産婦人科の医師。
日本で初めて「赤ちゃんポスト」を設置して話題に。

山田翠(みどり) 富山の大学教育学部の3年生。親に行けと言われて大学に。大学に行かず、バイトには出ている一人住まいの女性。人とうまくやれない純情な性格、親はムカつくナリと嫌っている。

『オーダーメイド殺人クラブ』

小林アン

千曲川の近く、雪島南中学(長野県)2年3組の生徒、バスケ部。同じ斑に芹香、倖がいる。先週から芹香たちから声をかけられなくなる。人の死に関することに関心を持っている。
斎藤芹香(せりか) バスケ部。セブンス・クライシスのファンで、アンが深く考えずに言った言葉が芹香の怯えのど真ん中を突いたらしい。怒り、アンを無視する態度に。わがままで自分勝手、自分が主役でないと嫌のタイプ。
成沢倖(さち) バスケ部。芹香がアンを無視するようになっても、そっとアンにコンタクトをしてくるも・・。
徳川勝利 昆虫系の男子生徒。美術部で、全国規模の中央コンクールで金賞を取るほど。小林アン、徳川に「私を殺して!」と頼む。
津島 野球部の芹香の彼氏。先週から付き合い出す。

河瀬良哉(りょうや)
妹 はるな?

小林アンの元彼。子猫のルナは妹のはるなが可愛がり、アンも好いていたが・・。
花崎江都子
(えっちゃん)
美術部。小学校がアンと同じで仲良し。
先生たち

・中村 2年3組の担任のおばさん先生。
・佐方 2年3組の副担任。去年初めてクラスを持つ。体育教師。小林アンを贔屓にしているらしい。
・櫻田美代(サクちゃん) 去年赴任の音楽の教師、33歳。先輩に徳川勝利の父親(3年の学年主任、英語教師)がいる。


物語の概要: 図書館の紹介より

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』

30歳。女子にはいつも、見えない壁がある。結婚、仕事、家族、恋人、学歴、出産…。そして、娘たちは、事件に巻き込まれていく。辻村深月が29歳の「今」だからこそ描く、感動の長編書き下ろし作品。

『オーダーメイド殺人クラブ』

 親の無理解、友人との関係に閉塞感を抱く「リア充」少女の小林アン。同級生の「昆虫系」男子、徳川に自分が被害者となる殺人事件を衝動的に依頼する。ふたりが作る事件の結末とは…。辻村深月の青春小説最高到達点。

読後感:

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』
 
 この作品、女性の友情といっていいのか、そして母親と娘の間の感情を女性の著者が状勢の立場で描いた作品。今までの読書ではあまり経験したことのない内容であった。でも所々で角田光代の「八日目の蝉」が頭の中で甦ってくる。

 神宮司みずほが何故望月チエミの失踪後を探し回ったのか、チエミが母親殺しと疑われるその真相はなんだったのか? 果たして生存しているのか? 

 第一章ではチエミの失踪後、神宮司みずほがチエミを探してチエミと関係のあった人物を尋ね、どんな様子であったのか、行き先の可能性を探す描写が中心で作品の3分の2を費やしている。その中でチエミに何を求めているかが分かる。

 第二章ではチエミの行動が明らかになる。読者を引きつけて離さないのも、後半から一気に盛り上がってくる。
 印象深かったのはどういうわけか翠(みどり)と言う大学生との交わりがぐっと胸に迫ってしまった。そこにはチエミの成長も感じられたし、翠の素朴さ、純真さが何とも涙を誘う姿である。

 読み終えて母親の娘を思う愛情は深く永遠であること、神宮司みずほとチエミの友情は最後の最後に通じ合っていることに感動。

『オーダーメイド殺人クラブ』

 この作品中学2年生の小林アンという多感な少女、クラスのリアル系?の3人の仲良しがちょっとしたことで無視することになったり、又仲直りしたり、また時に逆にもう一人を仲間から追い出したりと現代の少女真っ盛りの世界が展開されている。

 そんな中、そんな下らないことに気を遣うことにいたたまれなくなり、死の写真に関心を持ち、死を扱ったニュースに興味を持ち、何か自分の死をいつまでも人の関心事であり続けるような特別な出来事にしたいと昆虫系の男子生徒(徳川勝利)に「私を殺して!」と相談を持ちかける。

 クラスでは仲良しの仲間から弾かれ孤立してしまっている自分。安らぎの筈の家では自分が秘密にしている机の抽斗を勝手に開けてそれを知られた時の怒り、それが母親であるだけに許せないこと。こんな少女の心の内のはけどころは一体どこに向かうのか。

 元彼の河瀬の妹が可愛がり、自分も好きだった猫ネルが居なくなった話から、驚愕の事実を知る所などは全く普通の感情の持ち主であることも持ち合わせている。
 果たしてこのオーダー殺人計画はどうなってしまうのか?

 この中二の少年少女達の心情描写、自殺や死に対する気色悪いような感情の描写は一体どういう作家なのかと感心してしまう。
 ラストになっていよいよ決行する場面が盛り上がり、その結果は・・・。
 こういう時間を通り過ぎて振り返ってみることが出来れば懐かしくもあるのだろうけれど。
 この作品、なかなかおもしろいと感じられた。


  

余談1:
 
 表題の“ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ”が何を意味するのかも読書の一つの関心事だった。ラストでそれが分かった。なるほどと思った。最後に残った印象はガツンと衝撃を受けた感想の一言。

 この作品、珍しいことに購入して半年、カバーも付けて貰っていて、読み終えてさてとカバーを取ったら直木賞ノミネート作品と知った。(帯では直木賞受賞!!と大きな活字で、なんて紛らわしい表現にどうなってんだろう)

 自分が思った点が批評にもあった。最初の内は誰が発言しているのか何度も読み返さないと分からない、話が飛んで時点が紛らわしくてイライラするなど。でも人物が分かり、内容に入り込めるようになると、気にならなくなったよう。

余談2:

“リアル充”女子とか、昆虫系男子とか今時の言葉は理解できないが、でも感じとしては判る。バスケ部の三人組の関係、クラスでの同情や敵視と、そこから弾かれた孤立した人間の疎外感、誰かとつながっていないと耐えられない気持ち、今の学校内部はこの気持ちを忖度できないものになっているのかなあ。

背景画は作中(『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』で)望月チエミが恩師の添田紀美子を訪れた、山梨県立社会教育センターフォトを利用。