辻村深月著 『ツナグ』
                          
 



              
2013-04-25



(作品は、辻村深月著 『ツナグ』 新潮文庫による。)

              

 初出 この小説は2010年10月新潮社より刊行。
 本書 2012年(平成24年)9月刊行。
    

 辻村深月(みずき):(本書より)

 1980年生まれ、千葉大学教育学部卒。2004年に「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞してデビュー。「ツナグ」で吉川英治文學新人賞を、「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞。著書に「ぼくのメジャースプーン」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」「オーダーメイド殺人クラブ」「水底フェスタ」など。

主な登場人物:

◇アイドルの心得 依頼人:平瀬愛美 面会人:水城サヲリ

平瀬愛美(まなみ)
(私)

何を考えているか分からない」と言われるおとなしい、本好きの私、27歳。飲み会の帰り路上で過呼吸で苦しんでいる時に助けられたのが水城サヲリだった。
水城サヲリ 3ヶ月前急性心不全でなくなった38歳の、みんなに愛されていたマルチタレント。
◇長男の心得 依頼人:畠田靖彦 面会人:母親ツル

畠田靖彦(俺)
妻 翔子
長男 太一
母親 ツル
母親の妹 トキ

小さな町に1軒しかない工務店を、長男ということで親から引き継ぐ。
太一は大学3年生、おとなしい性格のばあちゃん子。

畠田久仁彦
長男 裕紀
長女 美奈

次男の久仁彦は家を出て行き、東京の大学卒業後、田舎の町に戻ってきて役所勤め。
子供たちも従兄同士仲がよい。

◇親友の心得 依頼人:嵐美砂 面会人:御園奈津
嵐美砂 創永高校2年生、演劇部。御園奈津と親友関係。演劇の主役を巡り御園奈津にとられて恨み・・・。
御園奈津 同じく2年生。嵐と日頃から自転車で一緒に通学。凍る(?)坂道の道路で自転車が転倒、車に轢かれて亡くなる。
渋谷歩美 同じ学校の高校生。使者。
◇待ち人の心得 依頼人:土谷功一  面会人:日向キラリ
土谷功一(私)

大阪に本社のある映像関連機器会社勤務。大橋の誘いで合コンに。帰り道で、事故にあった日向キラリに遭遇、つきあい始める。
日向キラリが姿を消して7年、使者に依頼・・・。

大橋 同じ大学院を出て同じ会社に入った同期の友人。何かと土谷の面倒を見ている。キラリに騙されていると。
日向キラリ(ひむかい) 土谷とつきあい始めて2年、プロポーズされた後急に姿を消す。
◇使者の心得
渋谷歩美 嵐や御園と同級生の17歳。祖母のアイ子から使者を引き継ぐことに。

補足:ツナグとは生きた人間を、死んだ人間に会わせる仲介人のこと。
   ルールとして、相手がOKなら面談は死んだ者と生きた者、どちらにとっても一度きりの機会。一晩のみ。


物語の概要: 図書館の紹介より

たった一人と、一度だけ、死者との再会を叶えてくれる人がいるらしい。死者との再会を仲介する使者・歩美を訪れた4人が秘める悲しいヒミツ。喪われた想いの行方を描く、渾身の連作長篇ミステリ。

読後感:

 実はこの小説を読む前は、宮部みゆきの「ソロモンの偽証」を読んで間がなかったもので、この小説の“アイドルの心得”を読んでなんと空虚な内容かと思い、正直止めようかとも。

 次の“長男の心得”を読んで、自身が次男であったことから、長男てこういう感情でいたのかなあと。そして子供たちの仲の良さ、長男と母親のやりとりを読んでいる内に、父が亡くなった当時のことを思い出し、その時の兄の心の内をおもんばかって胸がじんとしてきた。最初の章で使者の仕事を理解していたので、その後は中味に入り込めてきて、改めて最初から読み出したところ、前の作品のことは頭からリセットされ、本来の読書に没頭できるようになった。

 4つの短編の後は、使者として関係したその内幕が使者の立場から描写されていて全体像が分かる構成になっている。

 それぞれの短編の中では身近なことという点で“長男の心得”が一番感銘を受けたかなと思えるが、他の編も親友の友達のこと、恋人との思いのことなど、なかなか心情的には感動するところがあり、一度っきりのチャンスで会いたいと思う人、死後会いたいと思われることがあるのかという点でも考えさせられてしまう。

 中でも“親友の心得”で自分が犯してしまった親友への裏切りを口に出して誤ることが出来なかったことと、相手の御園が過失を知っていたことを言い残されて深い後悔を負ってしまう嵐の感情の痛みは何とも痛ましい。それを仲立ちしてしまった歩美の心情もなかなか切ない。

 辻村深月という作家も今後注目する心に残る作家となった。

  

余談:
 最初の“アイドルの心得”で水城サヲリが、心が風邪を引いている平瀬愛美が、このあと死のうとしていることをおもんばかり、「来ちゃダメ。こっちは暗いよ。それだけ伝えたかった」と言うせりふ。なんとなく死へのイメージが湧くせりふである。
  背景画は、作中の”長男の心得”に出てくる小さな町の工務店をイメージして。