読後感:
実はこの小説を読む前は、宮部みゆきの「ソロモンの偽証」を読んで間がなかったもので、この小説の“アイドルの心得”を読んでなんと空虚な内容かと思い、正直止めようかとも。
次の“長男の心得”を読んで、自身が次男であったことから、長男てこういう感情でいたのかなあと。そして子供たちの仲の良さ、長男と母親のやりとりを読んでいる内に、父が亡くなった当時のことを思い出し、その時の兄の心の内をおもんばかって胸がじんとしてきた。最初の章で使者の仕事を理解していたので、その後は中味に入り込めてきて、改めて最初から読み出したところ、前の作品のことは頭からリセットされ、本来の読書に没頭できるようになった。
4つの短編の後は、使者として関係したその内幕が使者の立場から描写されていて全体像が分かる構成になっている。
それぞれの短編の中では身近なことという点で“長男の心得”が一番感銘を受けたかなと思えるが、他の編も親友の友達のこと、恋人との思いのことなど、なかなか心情的には感動するところがあり、一度っきりのチャンスで会いたいと思う人、死後会いたいと思われることがあるのかという点でも考えさせられてしまう。
中でも“親友の心得”で自分が犯してしまった親友への裏切りを口に出して誤ることが出来なかったことと、相手の御園が過失を知っていたことを言い残されて深い後悔を負ってしまう嵐の感情の痛みは何とも痛ましい。それを仲立ちしてしまった歩美の心情もなかなか切ない。
辻村深月という作家も今後注目する心に残る作家となった。
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