辻村深月著 『冷たい校舎の時は止まる 』


 

              2016-10-25



(作品は、辻村深月著 『冷たい校舎の時は止まる』   講談社による。)

      
 

  本書 2004年(平成16年)6月刊行。(中)7月刊行。(下)8月刊行。

 辻村深月(本書より)

 1980年2月生まれ。千葉大学教育学部卒業。本作「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。新時代の潮流に突如現れた、エンターテインメント界の期待の大型新人。

主な登場人物:


<三年二組> 私立青南学院高校。
辻村深月 鷹野に誘われ陸上部のマネージャー。傷つきやすく、他人に嫌われることが極度に怖い。
鷹野博嗣(ひろし) クラスの委員長。B級特待生(入学金免除)。陸上部所属だったが、センター試験が近づき退部。
藤本昭彦(あきひこ) クラスの副委員長。自然体のフェミニスト。深月が春子とのことで悩んでいるとき最初に打ち明けたのは昭彦。親身になって心配したのには・・・。
片瀬充(みつる) 気が弱く性格が優しい。佐伯梨香に思いを寄せていることは周知の事実。
菅原 教育学部志望。教師の熱血ドラマとか漫画好き。単細胞の存在がクラスの救い。

佐伯梨香
妹 沙耶と弓子

クラスの書記。意外性の女。両親の仲悪く、高校に入る前に離婚、二人の妹の面倒を見る。榊先生をスバラシイ人と好いている。
清水あやめ 唯一のA級特待生(入学金、授業料免除)。美術部所属、学年トップの成績キープ。高校一年は孤独、二年の時辻村深月と友達になれたのは角田春子のおかげ。
桐野景子 生徒会の副会長。佐伯梨香と小学校同じの幼なじみ。現実主義者。大病院の子、近所に佐伯梨香の家があり、梨香の家の状況を知っている。
角田春子 辻村深月と気が合っていた。進学の志望校が同じだったが、次第に深月との違いに被害意識が芽生え、深月との間は抜き差しならぬ状態に。
(26歳)

担任、数学教師。鷹野博嗣の従兄弟。生徒達の間で人気。
新任教師の1年は副担任で担任の山崎教師とは仲良くない。山崎先生は榊を殴る暴力事件で青南を辞める。

諏訪裕二

隣のクラスの生徒会長。1年の時クラス委員長、副委員長が鷹野博嗣のコンビ。
代議士の息子。桐野景子と中学が同じで仲が良い。

山内祥子 隣のクラスの女の子。片瀬充に「私と付き合って欲しい」に、充「ごめんね」と返し山内の頬白く引きつる。
沢口豊 笹倉中学時代の藤本昭彦のクラスメート。小学生時分よく遊んだ中。いじめにあっているらしい。
『ひまわりの家』関連

・ヒロちゃん 悪餓鬼ヒロ、自分が中心で物事が運ばないと面白くない。ハーフ。
・ヒロくん おとなしく、優等生ヒロ。菅原と同じ地区に住み、英才教育に近いことされている。育ちの良いお坊ちゃん。
・サトちゃん 青南の生徒。『ひまわりの家』を手伝う。母親と二人暮らしの境遇。
菅原が中学時代、サトちゃんが居ることもあり『ひまわりの家』に良く顔を出している。

物語の概要:(本書の裏表紙に記載の文章より抜粋)
 上巻
 雪の日、登校してきた8人の生徒。他に誰も登校して来ない校舎に閉じ込められたと彼らは気づく。学園祭に起こった投身自殺事件。でも級友の名が思い出せない。誰もが過ぎる青春時代をリアルに切なく描いた長編傑作。
 中巻
 不可解な現象によって突然校舎に閉じ込められてしまった8人を、ジワジワと侵食し始める恐怖と不安。張り詰めた緊張感の中、グループのひとりが忽然と消えた…。メフィスト賞受賞作。 下巻
 学校祭最終日、学校の屋上から飛び降りて死んだ級友は誰だったのか。チャイムとともに仲間が次々と消える中、抵抗も空しく時計は進んでいく。彼らを校舎に閉じこめ、漆黒の恐怖に陥れているホストが明らかになる…。


読後感
  

 雪の降る朝学校に登校してきたのは8人だけ。学校は休校なのか、それとも担任の榊先生の企みか。
 でも奇妙なことに玄関の扉が開かない、明かりが付き、ヒーターも暖かいまま、さらに時計が5時53分を指して止まっている等不可思議な状態に閉じ込められている。
 さてはホラー作品かと思ってしまう。

 物語はこの状況を打開するためそれぞれが動き出し、解明しようと展開する。そんな中で何組かの人物達の会話で過去の生い立ちや、トラブルなどが語られていく。
 内容は今の状態の考え方であったり、2ヶ月前の学園祭での自殺騒ぎのことや、恋の話であったりとそれぞれの人物像があぶり出されていき、それぞれの悩みが露わになりつつ、自殺をした人物が誰だったのか、なくなった学園祭で撮った写真がなくなったり、’DARK’のロゴの入ったライターがなくなったりと上巻は謎がいっぱい。

 中巻では八人の内の三人が居なくなる。それもその実体ではなくマネキン人形の姿で、血まみれになったり、キャンバスの絵として描かれていたりと。
 その間に彼らや彼女らの心の闇がそれぞれ関わりのある人間とのやりとりを通して展開する。 進行する現象であったり、過去のことが織り込まれたりと行ったり来たりしながら。

 次第に5時53分に行為が行われることが分かってきて、この世界からどんな風にして現実の世界に帰る方法があるのか、死を避ける方法があるのか?どういう順番で死?が待っているのかを議論する。
 四人目となる(?)佐伯梨香の箇所の描写が榊や桐原景子、菅原の性格を際立だせていて特に引き込まれた。

 さて下巻では全ての謎が明らかに。謎はさておき、第14章’HERO’での菅原の中学時代の話が何となく気にかかっていた。また内容も心に残る話で『ひまわりの家』のふたりのヒロの存在と4つ年上の通称サトちゃんと菅原の兄ちゃんにまつわる描写がラストの方でも色濃く関係していて、やはりそうだったのかと思わせた。

 もうひとつなんだか騙されているようなこと(写真にまつわる話)があり、心残りでもう一度読み直してみないとなあと思わせるる。かなりの長編なのでまたの機会としたい。

  

余談:

 メフィスト賞なるものを調べた。株式会社講談社が発行する文芸雑誌「メフィスト」から生まれた公募文学新人賞とある。特徴としては、対象となるジャンルはエンターテインメント作品。
 辻村深月の本作品は2004年第31回の受賞である。

 著者のあとがきに「何かしら、この話の中から皆様にとって得るところがあったらいいな、と思います」とあるが、登場人物の色んなケースから得るところがあったような気持ちがした。
 もうひとつ、辻村深月のデビュー作がというのもその後の作品の質の高さを証明していると思う。

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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