辻村深月著 『水底フェスタ』
 




                2015-09-25



   (作品は、辻村深月著 『水底フェスタ』   文藝春秋による。)

                  
 
 初出 「別冊文藝春秋」2010年1月号〜2011年5月号。
 本書 2011年(平成23年)8月刊行。

  辻村深月:(本書より)

 
1980年山梨県生まれ。2004年「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年「ツナグ」で第32回吉川英治文学新人賞を受賞。「凍りのくじら」「ロードムービー」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」「本日は大安なり」「オーダーメイド殺人クラブ」ほか著書多数。

物語の概要: 図書館の紹介より

狭い日常に倦んだ広海は、村への復讐に戻ってきた由貴美に惹かれるが、彼女が真に求めるものは。そしてフェスの夜、取り返しのつかない事件がふたりを襲う…。辻村深月が一生に一度の恋を描く傑作長篇。

主な登場人物:

涌谷広海
父親 飛雄
母親 美津子

睦ツ代村(高原地帯と山岳地帯からなる)の室平の集落に住む高校生。
・飛雄 村の村長に就任して2年、40代。数年前までは村役場で一番真面目で人当たりのいい人柄の職員。無投票当選。

織場由貴美(おりば)

この村の出身、中学卒業して東京に出、モデル、女優、歌手で名を知られるも、母親の死を機会に故あって村に戻ってくる。広海より8つ年上。
村人からは恩知らずの人間として遠巻きにされている。広海に近づいてくる。

織場門音 広海の幼なじみ。織場はこの村で一番多い名字。
市村昌人(まさと) 広海、門音、市村三人、村から通える六ケ岳市の公立高校に進む。
須和光広

広海の10歳年上の従兄。村に一つの診療所を手伝っている。
由貴美と中学まで先輩後輩の間柄だった。

日馬達哉(さくま)
家政婦 英恵
兄 京介

白馬開発の現社長白馬栄介の息子。六ケ岳第一商業高校三年生の典型的なドラ息子。広海が中1の10月、中2のクラスに転入してきた。門音に対するひどい仕打ちが人を近づけないで、村では広海ぐらいしか友達はいない。
・英恵 20代前半のお手伝いさんと二人暮らし。
・兄の京介は睦ツ代村の開発に力を入れる父親を追い出そうと画策。

 読後感

 睦ツ代村という小さな村に潜むおそろしさが背筋をそっとなでていくような戦慄を感じさせる。織場由貴美という村を出て東京でモデルや女優、歌手として大成とまでは行かないまでも自分の限界を見たが周囲はさらに上を望み、失敗して母の死に疑問を抱き、村に戻ってきてなしたことは・・。

 涌谷広海という8つも年下の高校生に近づいてきたのは何故か? 村への復讐というその真意はどこにあるのか。広海と由貴美の交わりの真意はどうか?広海の気持ちの高ぶりは読者にすんなりと伝わってくる。そして広海とは母親同士の、許嫁を考えている織場門音との関係は、白馬達哉というドラ息子の存在も含め、好かれていても由貴美とのことで頭がいっぱいの広海にはうっとうしい存在になる。

 ミステリアスな話と恋愛の話がおり混ざり、村の秘密のこと、人柄のいい父親飛雄の存在も、物わかりのいい父親かと思いきや、やはりというか村の隠蔽体質そのものの様相も見せ、はたしてどういう結末が待っているのか。

 途中、白馬達哉の門音に対する暴行はなんだか恐ろしい性格を秘めていて、その彼が、由貴美に会わせろと広海に頼む様子を見るにつけ、広海と由貴美が水根湖で会っていたときに現れ、逆上して襲いかかる様子は先の門音への暴行を知っているだけにぞっとしてしまう。
 しかし、後でわかることだけれど、白馬達哉の行為は本当は・・・。
 

  
余談:

 人は見かけだけで判断してはいけないとはこのことか。
 特に物静かで物わかりのいいと思われる小さな村の人間が、よってたかって隠蔽をすると、よそ者の人間には簡単に隠しおうされてしまい、たとえ真実を警察に訴えようが、そんなことはもみ消されてしまう恐ろしさを秘めていることに、恐ろしささえ感じてしまう。

                    

                          

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