辻村深月著 『鍵のない夢を見る』






              
2014-04-25



 (作品は、辻村深月 『鍵のない夢を見る』  文藝春秋による。)

                

 初出 仁志野町の泥棒    オール読物2009年10月号
    石蕗南地区の放火   オール読物2009年10月号
    美弥谷団地の逃亡者  オール読物2009年10月号 
    芹葉大学の夢と殺人  文春ムック「オールスイリ」
    君本家の誘拐     文春ムック「オールスイリ 2012」

 本書 2012年(平成24年)5月刊行。

  辻村深月:(本書より)
 
 1980年山梨県生まれ。2004年「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年「ツナグ」で第32回吉川英治文学新人賞を受賞。本書収録の「芹葉大学の夢と殺人」は第64回日本推理作家協会賞(短編部門)の候補となるなど、ジャンルを越えて注目されている。「凍りのくじら」「ふちなしのかがみ」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」「本日は大安なり」「オーダーメイド殺人事件」「水底フェスタ」「ネオカル日和」ほか著書多数。 

主な登場人物:
◇仁志野町の泥棒 “律子の母親は泥棒”との噂を聞いて・・・。

私(ミチル)
母 

町内で一番小さい規模の仁志町北小学校生。
母親は小学校の教師をしていて真面目で堅い人。

水上律子
弟 幹也

母親はおおらかで家庭も開けっぴろげ風。なのに律子は転々と学校を変わっている。
私と律子と優美子は仲良し三人組。

◇石蕗南地区の放火 実家の前の神社にある消防団の控え所が出火、大林の活動が際立っている・・・。
笙子(36歳) 短大卒、災害共済の地方支部で公有物件の保険事業業務を行っている。
大林勇気(38歳) 役場の水道課勤務、ボランティアで消防団に入っての指導的立場の年配者。
◇美弥谷団地の逃亡者
“幸せはいつも自分の心が決める”の言葉に感銘したことがあったのに。
私(浅沼美衣 ミエ) 母親から離れたくて一人住まい。ご近所サイトで知り合った陽次だがやがて・・・。
柏木陽次(26歳) 気分や(?)、詩人の相田みつおの言葉を私に教えたり、千葉に二人で連れて行っての行動は・・・。
◇芹葉大学の夢と殺人 彼の夢を諦めさせようと・・・。
二木未玖 絵本を描くことに夢を持つも、現実は大学を出てからは高校の美術の教師に。大学で付き合っていた雄大とは離れられないで。
羽根木雄大 デザイン工学部に在籍するも医学部に転入してサッカーの日本代表になり、その先はまた医者に戻りと夢を追うも、留年しつづけ・・・。
◇君本家の誘拐 育児に疲れた母親の幻想。

君本良枝
夫 学

産休、育休と恵まれた会社に勤める良枝、やっと妊娠、女の子を出産するが、実家から戻って一人で赤ん坊の世話をする身は・・・。

物語の概要:(図書館の紹介記事より)

町の中に、家の中に、犯罪の種は眠っている。普通の町に生きるありふれた人々にふと魔が差す瞬間、転がり落ちる奈落を見事にとらえる5篇を収録。現代の地方の姿を鋭く衝く、待望の最新短篇集。

読後感:

 最初の「仁志町の泥棒」を読んでごく身近に見知った人間がこそ泥をする。そんな噂を聞くにつけ、ましてや目の当たりにした時に当人の気持ち、見た家族、目の当たりにした私(小学生)の気持ち。そしてその子供と友達の私の気持ち。
 
 そんなどきっとするような瞬間が眼に浮かぶようで、鮮烈な印象が甦ってくる。果たしてどう向き合うのか。大人の態度、子供の立場それぞれ複雑であろう。そうして毎年のように学校を変わっていく家庭の思いはどんなであろう。
 
 そして感じたのが最初に置いたせいか、中味からそうなのか分からないけれど、「仁志町の泥棒」が一番胸に響いた。ごく身近な出来事ということの他に、どんな気持ちでこそ泥をしたのか、その後律子が私を見て名前を忘れたかのような振る舞いをした時の気持ちがどんなであったか、そしてバスガイドとして溌剌と働いている律子の様子から何とも複雑な気持ちにさせられた。こういう作品を書けるのが辻村深月作品だなあと感銘しきり。

 日常のごく普通の生活の中に起きる出来事。そんな中で発生する犯罪や放火や殺人や妄想。
 切りとられた側面にはこんな物語が生まれていた。
 
 最後の「君本家の誘拐」も結婚して漸く子供が出来、実家での大勢の人間に囲まれ、祝福された雰囲気から一転、マンションに帰ってきたら赤ん坊と二人だけの時間が長く、しかも夜泣き、お腹をすかしては泣く子に疲れ果てている母親の姿。つまされる思いで読んでしまった。こんな母親の気持ちを実に鮮やかに描き出している。これを最後に持ってきたのも頷ける。

  

余談:

 たまたま本原稿作成のこの時期に読んでいた辻村深月著「太陽の座る場所」、メモを作成しながらの作業する中でイライラが高じてしまう。語りの人物、話している人間が誰なのか、私というのが誰をさしているのかがハッキリせずに混乱して、話の中身に入っていけない。
 この作家の特徴のような気がする。「ゼロ・ハチ・ゼロ・ナナ」や「ツナグ」はおもしろかったけれども・・・。残念。
 

背景画は。本作品の内表紙を利用。

                    

                          

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