辻村深月著  『光待つ場所へ』 


 

                2015-04-25



(作品は、辻村深月著 『光待つ場所へ』     講談社による。)

          

初出 しあわせのこみち 小説現代特別編集「esora」vol.6
    チハラトーコの物語(「『嘘』という美学」を改題)小説現代特別編集「esora」vol.8
    樹氷の街  小説現代特別編集「esora」vol.9


 本書 
2010年(平成22年)6月刊行。

 辻村深月:(本書より)
 1980年2月29日生まれ。千葉大学教育学部卒業。
 2004年に「冷たい校舎の時はとまる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。他の著作に「凍りのくじら」「スロウハイツの神様」「名前探しの放課後」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」「VTR」(以上講談社)、「太陽の座る場所」(文藝春秋)「ふちなしのかがみ」(角川書店)など。2009年に「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」が第142回直木賞候補作となる。新作の度に期待を大きく上回る作品を刊行し続け、幅広い読者からの熱い支持を得ている。

 主な登場人物:

<しあわせのこみち>
清水あやめ
(私)

T大学文学部2年生。「造形表現」科目を鷹野、田辺と一緒に受けている。最初の授業であやめの作品を褒められる。
夏の絵のコンクールでは落選、今は新年明けの絵のコンクールを目指している。

鷹野博嗣 T大学法学部。清水あやめの高校の同級生。
田辺颯也(そうや) 鷹野と友達、法学部。田辺のフォトが授業で取り上げられ、あやめは生まれて初めての敗北感を味わう。
田島翔子(しょうこ) 都内にある美大に通う2年生。
内藤章吾 内藤絵画教室を営む。清水あやめ、田島翔子が通っている。
<チハラトーコの物語>

千原冬子
(ちはらとうこ)
(私)

プロのモデル、29歳。芸名“チハラトーコ”。“嘘つき”の異名、しかし嘘の範囲には哲学を有している。
小学5年の時父とママ離婚。

幸村 チハラトーコのマネージャー。今は3人の女の子の担当マネージャー。私のことを判ってくれていると思っている。
赤羽環(たまき) 今日本で最も多忙な脚本家。去年の夏私は彼女の映画のオーディションに落ちている。
重森 小学校時代の司書教諭、30歳。アニメオタク。小学校、中学校と親交続く。
<樹氷の街>
天木 江布北中生徒会長。3年2組の合唱コンクールの指揮者。
倉田梢 ピアノ伴奏者に立候補。自信家、目立つタイプでないのに気が強い。自意識過剰。ピアノの技術はおぼつかない。
椿 3年1組。生徒副会長の役職。秀人の彼女。1組は課題曲、自由曲共に椿が伴奏する。倉田とは真逆の性格。
秀人(しゅうと) 椿とは小学校からの付き合い。

松永郁也
家政婦 多恵
姉 芦沢理帆子

存在感、現実感が薄い。父親は有名な指揮者。ピアノは椿と一緒のところに通っていたことも。しかし小学時代フランスに留学の“神童”。
・松永郁也は私生児。多恵に育てられる。
・理帆子 カメラマン、松永の家に一緒に住んでいる。


物語の概要:(図書館の紹介より)

 大学2年の清水あやめは、感性を武器に絵を描いてきたという自負がある。しかし、授業で田辺が作った美しい映像作品を見て、生まれて初めて圧倒的な敗北感を味わい…。心震わす傑作青春小説、全3編を収録。


読後感 

 主題が“絵”、“音楽”そして“モデル稼業”とその才能は特殊なもの故に近寄りがたいものがある。とはいえ、絵に関しては写真も含め自分としては関心が高く、そのテーマの作品が気になった。でも<樹氷の街>は内容がよく理解できるところから一番感動したところである。

 <しあわせのこみち>は絵の才能が天才であると自覚している田辺、でも独自の自分の世界に閉じこもる清水あやこに対しては自分には真似は出来ないと白状する田辺の思い。絵の仲間のことを好きだし好い奴というけれど、仲間の中に入っていけない、むしろ苦痛と清水あやこに吐露する田辺の心情は何となく理解できる。そんな二人の交わすやりとりには何度も読み返してみないと理解できない話題が気になってまた年を経て理解できるか読み返してみたいと思う作品だった。

 <樹氷の街>は青春とはこんなにもいいものかと思わせる心の機微、人の気持ちの高まりが伝わってきて心震るわされ一気に読み通してしまった。倉田の気持ち、椿の気持ち、そして天木の懐の深さ、秀人のおもいやり、さらには松永の人となりが心に染みる。

 <チハラトーコの物語>ではプロのモデルとして同僚、若い子の行動に自分の嘘の世界の生き様を示す。高校の時「病院に行ったら」と言われ、嘘の矛盾点をつかれ嘘の美学を解しない相手の生活感を憎む。最後のオーディションを受けダメだったら止めると決意したら・・・。憎んでいた相手、相手が苛められたりしていた人とのやりとりに根底にあるものの理解が得られたところが救いに。

  
余談:

 辻村深月の感性が気になるところ。いつかテレビである作家と対談していたのを見たことがあったが、作家ってそんな風に考えていたのかと思って興味深かったことを思い出す。何の番組か、どういう内容だったのか覚えていないが印象に残るシーンであった。最初に出会った作品は「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」だったが、・・・・なかなか気になる作家の一人である。

背景画は、本作品の「しあわせのこみち」に関係する、屋上から見える桜の木の風景をイメージして。

                    

                          

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