辻村深月 『傲慢と善良』



              2020-02-25


(作品は、辻村深月著 『傲慢と善良』    朝日新聞出版による。)
                  
          

 初出 「週刊朝日」2017年3月3日号〜2019年2月16日号
 本書 2019年(平成31年)3月刊行。

 辻村深月:
(本書による)  

 1980年2月29日生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年に「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。2011年「ツナグ」で第32回吉川英治文学新人賞、2012年「鍵のない夢を見る」で第147回直木賞、2018年「鏡の孤城」で第15回本屋大賞受賞。著書に「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」「島はぼくらと」「朝が来る」「青空と逃げる」「噛みあわない会話と、ある過去について」など多数。

主な登場人物:

西澤架(かける)

今から6年前(33歳の時)父親の突然の死により父親の会社(イギリスの地ビールを専門に取り扱う代理店)を引き継ぐ。
女性からも好感度で見られている。

坂庭真美(まみ)
母親 陽子
父親 正冶
(しょうじ)

真面目ないい子。母親のいいなりに育てられ、自分の意志を持たないで生きてきた。
・両親 群馬に実家。
 陽子 姉の希美が居なくなり、対称は真美に。見合いから結婚相手まで口を出し、自分の思い通りに支配したがる親。
 正冶 市役所勤務を定年退職、今は地元の私立大学で嘱託。

岩間希美(のぞみ)
夫 剛志

真美の姉。結婚して東京の小岩井に住む。
群馬では母親のかまいだてに反発、家を出た。
三井亜優子(あゆこ) 架が真美の前に付き合っていた女性。架32歳の時、アユ(26歳)から結婚の話切り出されたが、架は引く。その後別の男性と結婚。
美奈子

架の大学時代からの、一番仲の良かった女友達。辛辣な本音を聞かせるタイプの女子。真美が一番嫌いな苦手の相手。
・梓(あずさ) 美奈子の親友。

小野里夫人 群馬在住の「縁結び 小野里」なる結婚相談所の主。
金居智之(かない・ともゆき) 小野里夫人の紹介で坂庭真美と見合いをした一人目の相手。
しばらく付き合うも真美から断りが入る。その後別の女性と結婚。
花垣学
弟 勉

小野里夫人の紹介で坂庭真美と見合いをした二人目の相手。
高崎の花垣歯科医院の歯科助手。真美が身上書を見て好ましく思っていたが、会って拍子抜け断る。断られた後も付き合えないかと小野里夫人に連絡していた。
・勉 父親から引き継いだ花垣歯科医院の院長。

有阪恵(めぐみ) 真美が働いていた群馬県庁での同じ臨時職員。
ジャネット 真美が英会話教室で働いていた時の、真美の大好きな元同僚。
谷川ヨシノ

ボランティア団体の“プロセスネッド”のスタッフ。
ヨシノも訳ありの事情を抱えている。

樫崎正太郎
孫 耕太郎

樫崎写真館の館長。東日本大震災での写真洗浄のボランティアを引き受けている白髪の老人。
・耕太郎 東京からおじいちゃんの手伝いで戻って来た。

早苗
息子 力
(ちから)

樫崎写真館で手伝っている。訳ありの逃げてきている母子。
板宮 ヨシノの世話で、石巻で震災後の住宅地図の更新作業を行っている。
高橋 板宮と同様、もう一人の作業員。仮設住宅の寮に住む。
石母田(いしもだ) 三波(みつなみ)神社の神主のおばあちゃん。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 婚約者が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる…。生きていく痛みと苦しさ、その先にあるはずの幸せ。圧倒的な“恋愛”小説。

読後感:

 群馬の狭い世界で母親の価値観で育てられ、何事も母親のいいなりに育てられていた真美が母親のセッティングでお見合いをし、身上書で初めて自身好ましいと思い、臨んだ相手に失望。このままではこの家に取り込まれてしまうと東京に飛び出して婚活にも参加。西澤架という、好ましい男性と巡り会い、結婚する迄話が進み、同棲するまでに。
 それには真美の身の上にストーカー騒ぎが絡んでいる。

 一方、架の方では、実は好きで付き合っていたアユ(三井亜優子)がいたが、アユから結婚話を申し込まれたが、未だその気になれず、その話はうやむやになり、アユはほ別の男と結婚してしまった。
 適齢期になった架が婚活で知り合った真美と結婚することになったが・・・。
 ストーカー騒ぎで同棲するに到った架だが、突然真美が姿を消した。

 物語は架が真美のことを調べだし、どういう生活をしていたのか、どうしていなくなったのかの追跡をする過程で、真美の見合い相手のこと、職場でのこと、相手の家庭のことなど様々な事情、背景、問題が浮かび上がってきて、読み進む中で結婚するってこんなに大変なことなんだなあと読者は思い知ることに。

 第一部では架を中心に物語が展開するが、第二部では、真美が物語の中心でそこまでに到る描写で進む。果たして結末は?
 東日本大震災後の東北の地の自然の有様が目に浮かび、姿を消してからの逞しくなっていく真美の姿、見知らぬ人とのホットするような、かけられた言葉の優しさ、感情の機微に触れる会話に、著者の気持ちの優しさ、表現の巧みさを感じてしまった。
 


余談:

 物語中に出てくる結婚相談所の小野里夫人の言葉がいい。
(1)婚活がうまくいく人と、いかない人の差って?に
「うまくいくのは、自分が欲しいものがちゃんとわかっている人です。自分の生活を今後どうしていきたいかが見えている人。ビジョンのある人。」
(2)現代の結婚が上手くいかない理由は?に
「『傲慢さと善良さ』にあるような気がするんです。現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけれど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、“自分がない”ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います」
 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る