◇ 読後感:
この作品は小説なのかエッセイなのか読んでいて惑われた。図書館の紹介記事を見て半自伝的小説とあり、読後感はどういう風に纏めたらいいのか困った。
丁度富永ドクター(僕)が島内顧問から言語録をどういう風に纏めたらいいのかを苦労しているように(・・程度は異なるだろうが)。
読んでいる内に色々なことが頭に浮かんできて、こういう作品もなかなか興味深いものだなあと思うようになった。気になってネットで調べたら、ナント著者の辻井喬とはあの西武百貨店の総帥として長らく日本の産業社会をリードしてきた堤清二氏であった。
そのことが判るといっぺんにそういうことだったのかと得心した。ちょうど島内顧問と僕(富永ドクター)を含めての半自叙伝だったのだ。
それが判ってからなのか、作品の中味のせいかよく分からないけれども、随所が心引く者に感じられてきた。
ことに俳句の大家山吹八重の、吟行の随行医として奄美に赴き、そこでの大家での宴会風景で大家族の温もりの体験、奄美の土地風土の体感、平家の落人の話などに引き込まれる。
人の出自にまつわるミステリアスな内容、人生の死を感じながらのひとの行動とか、心の揺れというようなことが、ひしひしと伝わってくる小説の醍醐味というか、読み物としても心に響くものがあった。読んでよかった。
歴史的なこともいろいろと記されていてこれも興味深いものがあった。
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