小説の概要:図書館の紹介より
上
明治36年、日露戦争前夜。紀州・熊野に帰ってきたひとりの男、ドクトル槇。新しい思想、動き出すまち、秘められた愛…。激動の明治末、自由を求める人々の闘いが今、始まる。愛と青春の物語巨編。
下
日比谷騒擾事件に揺れる日本。森宮では「熊野革命五人団」が暴走する。運命に抗う“生”、人々をのみ込む新しい時代…。辻原文学の集大成ともいうべき豊饒な物語世界、ついに完結。
読後感:
出だしの方でのインドから帰国する槇隆光が船上でまじわせる描写は横光利一の「旅愁」を思い出させるようでなつかしかった。そして八甲田山の遭難事件に関わっている永野忠康が森宮の町の屋敷を構えていることから新田次郎の「八甲田山死の彷徨」を読んでみたかったのでなおさら興味を惹かれた。(読書に邁進し始めた頃取り上げた新田次郎を父に持つ藤原正彦のエッセイ「初めての海外旅行」により、「物書きの力は、読者をどれだけ最後まで引きつけられるかだ」の言葉が印象的であった。)
そんなこんなで読み始めてすぐに明治の時代の話とはいえ、物語の中に没入していった。
物語は日清戦争の後から日露戦争に世の中が巻き込まれていく中での、和歌山県森宮のまちを舞台に展開するがやがて満州での日露戦争が舞台にのぼる。ドクトル槇も赤十字社派遣の従軍医として野戦病院に配属されて脚気の兵士達を救う活躍。森林太郎(森鴎外)のドイツ医学へ傾注していたことへの苦悩、永野の殿様の生き様と夫人の苦悩、一方でドクトル槇の評価が上がる一方で、永野夫人との苦悩と様々な苦の中にどう生きたかが描かれる。
日露戦争の勝利による講和会議の結果日本が賠償金を放棄せざるを得ないことや要求がほとんど満たされないで終わったことに対する熊野革命五人団や「魁」の金子スズらの過激な反対運動でその黒幕とされた槇が逮捕されるにいたり、緊迫が走る。
若林勉の命も残すところ少なくなり、物語は終焉へと進む。
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