<注釈>
穢多: 昔、社会の最下層に置かれた人。特に江戸時代、非人と共に四民の下の民とされ不当な差別を受けてきた階層(の人)。明治維新後一八七一年(明治4)に「穢多・非人」などの制度が廃止(「解放令」)される。しかし、翌年政府が作った新しい戸籍(壬申戸籍)には、「新平民」等の記載があり、1968年(昭和43)まで、結婚、就職の際の身元調査に悪用されてきた。
読後感:
何の予備知識もなく読んだ作品は、深刻な内容であるにも拘わらず、この先、瀬川丑松はどうするのだろうかと興味津々。 丑松の素性を未だ知らない土屋銀之助と風間文平のやり取りなどは、なにか夏目漱石の坊ちゃんもどきの軽やかさ、面白さで読み進んでしまう。 銀之助の江戸っ子気質にも似た男らしさ、勇ましさは微笑ましいくらい。
風間敬之進の家庭問題も、暗くじめじめとしたものでなく、すんなりと理解出来るし、蓮華寺での住職、奥さん、志保との問題、丑松を追い出そうとする校長、郡視学とやり取り、等、今の世でもありそうな出来事が小気味よく展開して、どういうふうに展開していくのか興味をそそる。そして最後、丑松の決心とその結果のこと・・・。
「破戒」の中に表わされたテーマ、問題は大きなものであるが、それはそれとして、小説として読んだ時、さすがに人の気持ちをぐいぐい引き込んでいく力量はすごい。 語られる調子がたんたんとして、さらっと語られているところにかえって主人公丑松が世間から、どうして穢多であることで侮蔑されなければいけないのか、その苦悩が隠されているのかも知れない。
夜明け前」と違う初期の頃の作品として味のある作品であった。
印象に残る言葉:
丑松の父の戒め(遺言)
「たとえいかなる目を見ようと、いかなる人に邂逅(めぐりあ)おうと、決して其とは自白(うちあ)けるな、一旦の憤怒悲哀(いかりかなしみ)に是(この)戒を忘れたら、其時こそ社会(よのなか)から捨てられたものと思え。」
◇藤村を取り巻く環境(あとがきより)
生家である木曽馬籠の本陣の完全なる没落、父正樹の悲劇的な死、長兄秀雄のの下獄、つづいてコレラによる母の死、畏友北村透谷の自殺、明治女学校での教え子佐藤輔子との悲恋、輔子の死、・・・二十代前半に藤村の身のまわりで起こった出来ごとは、あまりにも陰鬱なことばかりであった。藤村のうちにうつぼつとしてわだかまる鬱屈(うっくつ)した精神、それはすでに詩型では表現し尽くすことのできない創造的マグマとして蓄えられてきていた。
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