心に残るとっておきの話 (第一〜九集)
平成・煌めく人間万葉集         潮文社編集部編


                 
2006-09-25

(作品は、平成・煌(きら)めく人間万葉集 『心に残るとっておきの話』 潮文社 による。)

    
    

 

 このエッセイ集は、主題にもとづき、投稿された作品集で、当初五集で休刊の予定が、第九集までになったという。第六集の刊行にあたり、人それぞれ、百人百色、千人千様の表からは見えない奥の院があって、それはふだんは、日常という塀や庭木にすっぽりと覆われていて、表には出ない。心ある読者の人生を豊に彩る福音となるに違いないと記されている。


 読後感

 
人生にはこんなに色々な人生があるものか。ふっと毎日の生活に疲れたとき、この本の一遍一遍を読んでみると、心を揺さぶられ、感動が沸き上がってくる。
 小説の中では味わえない、真実がそこにあるから、文章の上手下手や、技巧に左右されず、ふつふつとしたものが伝わってきて、思わず涙がこぼれてしまう。その後、生きていることのすばらしさ、生きる元気をもたらしてくれる。身も心も洗われるすばらしい本である。

・人は誠実で、優しく優しくなければいけない。そのためには強く強くならないといけない。



 印象に残った話、言葉(抜粋)(順不同)

以下に挙げたのはほんの一こまです。珠玉の文章が他にも沢山載っています。

☆母の頬(ほお)ずり (第七集)

・子供はみんな5才までに親孝行を済ましているのかもしれない。

「子供が生まれた時、嬉しくない親はいない。育てるのにお金も手間もかかって大変だけれど、それをはるかに上まわる喜びと幸せを子供は親にあたえてくれる。それが何よりの親孝行なのだと―――」
「特に5才までの子供には神が宿っている。存在だけで親を幸せにしてくれるから」

☆祖父からの心の遺産 (第七集)

・人間、第一印象というのは間違いないもんよ。最初にお前が感じたのが正しいんじゃ。
 人間がようないと結婚は幸せになれん。金や物じゃなれんのじゃ。

☆心の花束 (第八集)

 ある先生の言葉、「忙」という字は、心が亡びると書きます。心は死んでしまうと、カサカサの土みたいになるんだろうか。私の心も、もしかして死んでたんじゃないだろうか。カサカサの心では、何も感じることは出来ない。自分を見つめ直す余裕も、他人を気遣う気持ちも、そこからは生まれない。


☆その、意味 (第六集)

「皆さんは、この障害を持って生まれて、数時間で亡くなられたお子さんの人生は、両親を悲しませ、苦しませるためだけだったと思いますか?出産される意味がなかった、と思いますか?」
「私は、ここにも意味はあると思います」M先生は、きっぱり言い放たれました。

 命は完全でないと意味がないのだろうか?
 命は長くないと意味がないのだろうか?
 命は、おそらく、結果ではなく経過なのだ。
 あの子供にとって、いや両親にとっても、命は受胎の時より始まっていて、一分一秒がかけがえのない意味を持った存在だったのだ。私達は、いつ、どんな終わり方をするのか、結果ばかりに気を取られ、命そのものであるその間をむやみに走り回っている。そして、最後の瞬間に、抜け殻になった人生のかけらの前にその意味を探ろうとしてしまう。でも、本当の意味は、通り過ぎてきた世界の中にこそあったのだと、ようやくそこで気づくのかも知れない。とり返しのつかない喪失感と共に。


☆あのひとこと (第五集)

 中二の3学期、偶発的に、突然学校が怖くなり、人間が怖くなって不登校が始まった。教室に入るのが怖かった、その中で渦巻いている人間関係にほとほと疲れ果てていた。クラスで苛められていたわけでもなく、友達がいないわけでもなかった。勉強に遅れを感じているわけでもなかった。
 三学期の終業式を後えて担任の先生が通知表を我が家に届けていった。そこに書かれていたことに心が洗われた。
「つらくたって
 悲しくたって
 いろいろあったほうがいいじゃないか
 人生には」
それまで生きてきた中で、これほど心に直接流れ込んできた文章はなかった。


☆お約束ごと  (第五集)

 阪神大震災で1年6ケ月の大志の息子を亡くした母親に対し、空閑(くが)さんの言葉
「人は誰でも生まれてくる前に神様と一つのお約束をするのよ」
神様はおっしゃいます。
「一年と六ヶ月しかないぞ」
生まれる前の大志君は答えます。
「それでいいのです」
「その約束はもう変えられないぞ」
大志君は言います。
「はい。たとえ一年半の命で地震で絶命することになっても、私はあの両親から生まれ育ちたいのです」
そうして大志君の魂は飛んできた。私たちのところへ。
そうして大志君は生まれた。私たちのもとから。


☆生きていてこそ   (第二集)

 左の乳癌、皮膚癌、そして再び右の乳癌。その度にコバルトの部屋に。・・苦痛の日々。
話し声、後、三ヶ月の命なら、今したいことをし、思い残すことの内容に過ごそうと。お金をおろし、おいしいものを食べ、綺麗な物を着、行きたいところへ。。。しかし、重ねていくと悲しさだけが残ったということでした。

「でも私はわかったのです。あれから三ヶ月以上たっているのに、いまだに私はこうして生きている。これほどの贅沢はありません。こうして今奥さんとお話し出来ることがこんなに幸せに感じることはかってなかったのです。病気の痛みも苦しみも、そしてこのような喜びも生きていてこそ感じるのだと分かったんです。死んでしまったら何もかもなくなるのですから。今この命ある幸せをかみしめ、一日一日を大切に過ごしたいと思っています」

 そして『私も今この過酷な運命を受け入れ、この与えられた命を大切に毎日精一杯生きていかなければ』と思ったのです。



余談:
 小説もいい。古典や詩や短歌もいい。でも、エッセイ・随筆類もまた著者の心の叫びだと感じる。また読む楽しみが増えた。

 
背景画:真っ白な気持ちで読むために、背景画はなしでしめた。

                    

                          

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