レフ・トルストイ著  『戦争と平和』 (その2)
工藤精一郎訳


              2012-03-25

(作品は、レフ・トルストイ著 『戦争と平和』 新潮文庫による。)

            
  

 
 
本書 昭和47年(1972年)3月刊行

 トルストイ:(ウィキペデイアと解説の工藤清一郎氏の資料より) 

 1828−1910年帝政ロシアの小説家・思想家。ドストエフスキー、イワン・ツルゲーネフと並んで19世紀ロシア文学を代表する巨匠。代表作に「戦争と平和」、「アンナカレーニナ」、「復活」など。
 トルストイはまれに見る自伝的な作家。彼の82年の生涯は、彼の持ついずれも桁外れのたくましい生命力と精神力と、誘惑と、求道と、あらゆる美徳と、あらゆる悪徳との参加した、悲劇的な栄光ある戦いの戦場であった。


物語の概要:ウィキペディアより

 19世紀前半のナポレオンによるロシア遠征とその失敗、アウステルリッツの戦いや、ボロジオの戦いなどの歴史的背景を精緻に描写しながら、1805年から1813年にかけてあるロシア貴族の3つの一族の興亡をピエール・ベズウーホフとナターシャの恋と新しい時代への目覚めを点描しながら綴った、登場人物500人を超える群像小説。 ピエール・ベズウーホフが、著者トルストイの分身と見られ、彼の没落していくロシア貴族から、大地の上で強く生き続けるロシアの農民の生き様への傾倒へと続く魂の遍歴は、著者の心の動きの反映とも言われる

主な登場人物

◇ロストフ家
イリヤ・ロストフ伯爵
伯爵夫人

長男 ニコライ

上の娘 ヴェーラ
下の娘 ナターシャ
末子ペーチャ
姪 ソーニャ

ニコライ:ボリスと親友。軽騎兵を志願。
ナターシャ:
妻(リーザ)を亡くしたアンドレイ公爵と1年待つことを条件に婚約、しかしアナトーリ・クラーギンと親密になり誘拐事件にまで発展。
ソーニャはニコライに夢中。

◇ベズウーホフ家
キリール・ウラジーミロヴィッチ・ベズウーホフ伯爵
庶子 ピエール
(妾の子)

エカテリーナ女帝時代の有名な顕官。大富豪、しかし明日をも知れぬ病状。
ピエールはニコライと親友。無頼漢。
ピエール、ワシーリィ公爵の親類筋に当たる。ベズウーホフ家の財産を継ぎ、大富豪となるが、エレンとの結婚で不貞を疑い別居、フリーメーソンの会員に。

◇ボルコンスキー家
ニコライ・アンドレーエヴィチ・ボルコンスキー公爵
公爵令嬢 マリヤ
アンドレイ・ボルコンスキー若公爵

老公爵:田舎の禿山(はげやま)に令嬢のマリヤと住む。
アンドレイ若公爵:アウステルリッツ会戦で負傷後、戦争には行かないと。ピエールと親友なるも考え方に違い。

アンドレイ公爵はナターシャと秘密の婚約、老公爵は不賛成。
マリヤ:不器量だが、心優しく双方の間で悩む。

ワシーリイ・クラーギン公爵
娘 エレン
息子たち インポリット
アナトーリ
デニーソフ?

エレン 社交界にデビュー、全社交界の憧れの美人。
    ピエールと結婚(第一巻)、しかしエレンがドーロホフと関係があるという噂にピエールがドーロホフと決闘、別居へ。その後復縁し社交界で輝く。
一方ピエールとの仲は冷え切ったまま。(第二巻)
デニーソフはニコライと仲がよい?

カラーギン家

マリヤと小さいときからの親しい女友達。マリアにアンナ・ミハイロヴナがワシーリイ公爵の子息アナトーリと結婚させようと白羽の矢の秘密を知らせる。
ボリス・ドルベツコーイと婚約(第二巻)

デニーソフ
(ワシーリイ・ドミートリチ・デニーソフ)

ニコライ ・ ロストフの親友。
パルチザン部隊の隊長。(第四巻)

ペーチャと出会う。

ドーロソフ パルチザン部隊の隊長。(第四巻)
クトゥーゾフ ロシア軍の総司令官(老公爵)
ラストプチン伯爵

モスクワの総督。

補足:公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順番。


読後感

 二巻に比べ第三巻は急に様相が変わり今までの貴族社交界の華やかさや複雑な人間関係から一転、フランスとロシアの生々しい緊迫した戦争場面に大きく舵が切られた感じを抱く。 第一巻でナポレオンとのオーストリアとロシアの連合軍が敗戦をし、一時的に和平交渉が成立し平和が訪れたかに見えていたが、ナポレオンとアレクサンドル皇帝との親和的関係が思わぬ誤解からか互いに戦闘状態へと突入していき、フランス軍がロシアに侵入してきて危機的状況が貴族社会を初め国民に危機感を植え付ける。 その一方でアレクサンドル皇帝への国民の熱い支持がみなぎり皇帝のためなら死をもいとわぬ世論が喚起される。

 戦争場面では特に1812年8月26日のボロジノ会戦の描写が圧巻である。 ここで一気にアンドレイ公爵とクトゥーゾフ総司令官の信頼関係と、クトゥーゾフ総司令官の人となりが描かれている。
 そしてモスクワを放棄することを決めたクトゥーゾフと他方ナポレオンの敗北感のあたりがそう言う歴史だったのかとまざまざと感じた次第。

 歴史に余り知識を持たない自分としてはナポレオンがどうして弱体のロシア軍に手痛い敗北をしたかの描写あたりでは大変興味を惹かれ思わずのめり込んでしまった。
 一方で中心となる主人公達のそれぞれの成り行きは??
 ナポレオンがボロジノの会戦で勝利(?)しロシア側がモスクワを放棄して侵攻後、何故か当初侵略したスモーレンクスに退却する過程でパルチザン戦を展開したロシア側によりゲリラ戦法で消滅していく展開の中、アンドレイ公爵、 ピエール伯爵、 ニコライたちの戦争中の変化が展開される。

 そして歴史上評価されなかった人々の活躍が描写される。
 デニーソフやドーロソフ、 若いペーチャ ・ ロストフの出会い。 また女性たちの運命も。 ボルコンスキー家のマリヤ公爵令嬢、 ロストフ家のナターシャ、 ワシーリィ ・ クラーギン家のエレンのこと。

 一体これらの人々の運命がナポレオン戦争の間でどのように変遷していったのか、 驚くほどの登場人物の多さ、 一方でフランス軍とロシア軍の戦争がどのように展開されて歴史家がどんな風に見ていたかも評価しながら物語は終局へと向かっていく。

 複雑な人間模様も死をむかえた人(エレン、 アンドレイ公爵、 老ロストフ伯爵、 ドゥーソホフ)、 結婚にゆきついた人(ピエールとナターシャ、 ニコライと公爵令嬢マリヤ)、 旧家ロストフ家の没落と新生と変遷し、 ロストフ家、 ベズウーホフ家、 ボルコンスキー家、 ワシーリイ家を中心とした人々が、 歴史の流れのなかで様々に変化を遂げしかも登場する人物達の詳細な描写に一大叙事詩と歌われる評論がやっと理解できた。

  

余談:

 物語の途中にもあったが、エピローグで歴史家の見方何故このような流れに至ったのかの見解などの記述はなにか物語として不可思議の感が否めない。 解説(工藤清一郎氏)を読みトルストイのまれに見る自伝的作家であること、 生い立ちや考え方の変化、 「戦争と平和」作成のエピソード(?)を読み、 なるほどとちょっぴり判る。
 知識もなく読んでみて、 トルストイという人物を多少わかり、 また作られていった作品を知るにつけ歴史を知り、 作家のことを知らなければとつくづく思う。 この作品も再び読んでみないといけない作品である。
背景画は、ネット”土曜日の書斎”より映画「戦争と平和」のボロディノの会戦で敗退しドイツ軍がモスクワを捨てた後ナポレオン軍がモスクワに入場するシーンを利用。

                    

                          

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