遠田潤子著 『蓮の数式』








              2018-12-25
(作品は、遠田潤子著 『蓮の数式』    中央公論新社による。)
          
  
  本書 2016年(平成28年)1月刊行。書き下ろし作品。

 遠田潤子
(とおだ・じゅんこ)(本書より)
 
 1966年大阪府生まれ。関西大学文学部卒。2009年、第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した「月桃夜」でデビュー。2012年、「アンチェルの蝶」で第15回大藪春彦賞候補となる。その他の著書に「鳴いて血を吐く」「雪の鉄樹」「お葬式」がある 
    

主な登場人物:

安西千穂(35歳)
夫 真一
義母 ェ子
(ひろこ)

商業高卒の地味な珠算講師不妊治療を続けていて4度目の流産
・真一 教育心理学者
教授40歳超え高級住宅地の北畠に住む。
異常なほど千穂にオモチャを手に入れた子供のように執着、時に暴力を振るう。
・義母 元々千穂との結婚に反対。千穂が子供を産めないことに冷たく当たる。結婚当初から同居。

新藤賢治(65歳)
妻 美津子(没)
娘 恵梨
娘婿 拓真
 子供 蒼太
(そうた)

播州姫路から赤穂の下流域、時代遅れの根っからの農民、蓮田を持つ。れんげ荘を営む。狭心症の持病持ち。
・妻の美津子は47歳で大西理香に殺される。美津子はかわいそうな麗を家に来させ世話を焼いていた。
賢治は何故妻が殺されなければならないかを求め大西麗を探している。
・娘の恵梨は赤の他人の麗が家に入ってきて子供のように扱われていることを忌み嫌っていた。麗とは同じクラス。

大西理香
子供 麗

れんげ荘の住人。賢治に無断で子供を住ませている。新藤美津子殺害と放火で無期懲役、ガン治療のため医療刑務所で亡くなる。川に息子を突き落とし麗は見つからず。理香は夫に激しい暴力を受け、他からも脅され次第に壊れていく。
・麗は無口で無表情。

弓場紀夫(ゆみばのりお)

大西麗の協力を得て「ムシガッタイ」のオモチャを開発。
12年前、大西理香が起こしたあの事件で証言した子供。大西麗が川に突き落とされるのを見たと。

高山透(27歳)
母親 真弓(没)
祖母 邦子(70歳)

学習障害の一種、“算数障害”の男。ふらっと「ダリヤ」に姿を現すも又出て行く。無口、色白で無表情、身勝手なセックス。
千穂、高山透に算術を教えることに。真一は千穂のことを浮気、売女と言い、暴力を振るう。
・祖母の邦子は能登半島の宇出津でスナック「ダリヤ」を経営。

「ダリヤ」の常連客

・六田(六ちゃん) 
・剣崎

ノノ(希希)(17歳) 茶髪の女、高山透と交わっているところを千穂に見られる。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 不妊治療で夫と義母に存在を否定され続け、婚家から孤立する千穂が出会ったのは、自らの生い立ちと算数障害に悩む男、透。愛を忘れた女と愛を知らない男の逃避行がはじまる…。注目の気鋭による長篇。        

読後感:

 何とも評しがたい物語。人殺し、セックスでしかコミュニケーションをとれない人物、頭が混乱する二人の人物、どういう関係があるのか判らなかった二組の家族、そしてそれらをつなぐ人間、だんだん判ってくるのは無国籍の人間の存在と戸籍を奪って入れ替わった人生を送る人間、そういうものが次第に関連づけられて、背景が判り、何とも悲しい事情が判ってくる後半には切なくて、殺人は許せないけれど、でも逃がしてやりたくなることも判る気がしてくる。

 人間の幸せとは本当にどこにでもあるものだと考えさせられてしまう。
 複雑にしているのが、大西麗と高山透の二人。途中で読者は同一人物ではないかと思わされる。無口で無表情、顔も似ていると。しかし高山透の祖母があんたは誰やと問い詰める。
 そして良く理解できなかったのが、安西真一、千穂、高山透と新藤賢治、妻美津子、大西麗の関連がどうなったている事かと言うこと。そして弓場紀夫の存在である。
 真一の異常さ、高山透の異常さ、優しくいい夫婦であった新藤美津子が何故殺されなければならなかったか、ミステリーともいえる物語は本当にラストに向かって問題含みの展開で明らかになっていく。
 

余談:

 ・安西家の夫婦と義母、・大西理香と麗、・能登半島での祖母邦子と高山透、安西千穂との様子、・新藤賢治、美津子、娘の恵梨の麗に対する憎しみを抱えた家族と、登場する家族の中の有様は現在の世の中にも多く存在するかも知れない。そして無国籍という悲しい現実も存在することだろうけれど、それに対して熱心に責め立てた新藤美津子の行為が殺害の動機となっていたというのにはなんとも言えない思いが澱となって残った。  
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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