遠田潤子 『ドライブインまほろば』



              2020-02-25


(作品は、遠田潤子著 『ドライブインまほろば』    祥伝社による。)
                  
            

 本書 2018年(平成30年)10月刊行。書き下ろし作品。

 遠田潤子:
(本書による)  

 1966年大阪府生まれ。関西大学卒業。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。12年「アンチェルの蝶」で大藪春彦賞受賞。18年「冬雷」で日本推理作家協会賞候補となる。「雪の鉄樹」が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベストテン」第1位に選ばれベストセラーに。他の著作に「カラヴィンカ」「あの日のあなた」「蓮の数式」「オブリヴィオン」などがある。 

主な登場人物:

坂下銀河
<俺>
妻 慶子

銀河と流星は双子で銀河が兄。「グラス」の経営者(流星と)。
高校生の頃から佐野社長の世話になっている。
「グラス」は援交クラブ。
・慶子 俺と中学同じクラス。地味で陰気なタイプ。「グラス」の経理や事務作業をしている。

坂下流星
芽依
娘 来海
(くるみ)

流星は弟。バツイチの芽依に一目惚れ、結婚して6年。
銀河を兄として甘える。二人共モデル並みで大男。野球に夢中。
・芽依 美人で巨乳。船山と離婚し、流星と芽依は二人だけの世界の中、子供は眼中になく虐待する。
・来海 保育園の年長さん。

(ゆう)
<僕>

芽依の連れ子、小学6年生。両親(流星と芽依)から存在認められず、妹の来海を連れて逃げ出す。
親の虐待を受け、流星からの堪えられない言葉にバットで殴り殺す。優等生で礼儀正しいが、暗い眼をしている。

船山健太

元芽依の夫。離婚して兵庫県三田市で特許事務所勤務。
憂に対して暴力を振るう。子供は引き取らないと。

佐野社長 表向き人材派遣会社「T.U.J」を経営するも、実態は関西に基盤を持つ指定暴力団のフロント企業。「グラス」は実質「T.U.J」の傘下にある。
憂の祖父 淡路島に住む。憂をただ一人褒めてくれる人物。憂が小学6年生になったら、一緒に十年池を探しに行こうと約束。
比奈子 <私>
娘 里桜
(りお) 没
母親

奈良県南部の村の旧道沿いに、祖父母が開業した「ドライブインまほろば」を再開。離婚したとき住宅購入資金などを折半、ドライブインにつぎ込む。二度の流産後、3人目で里桜が生まれる。
・母親 比奈子が里桜出産後も働くことに賛成し、母親が面倒を見ていたが、交通事故で里桜(5歳)を死なせるたことで、比奈子は離婚へ。

彰文(あきふみ) 元比奈子の夫。比奈子をバックアップしていたが、比奈子から離婚を強く持ち出され諦める。
タキさん 美容室&巡回スーパーの車でまほろばの常連客。

補足:「十年池」とは、10年に一度現れる池で、憂の伯父(祖父の息子)がバイク乗りで見つけた幻の池。「一夜明かして生まれ変わった」と。
――夢の中、川を飛び上がる。半月、包帯、双子の生まれ変わるところ と残す。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 峠越えの“酷道”を照らす食堂「ドライブインまほろば」。義父を殺めた少年、幼い娘を喪った女、親に捨てられた男。孤独と絶望の底で3人の人生が交差したとき、「まほろば」が見せた“十年に一度の奇跡”とは?心震える長編小説。

読後感:

 物語は俺(坂下銀河)、僕(坂下憂)、私(比奈子)を語り手としてそれぞれの側から展開していく。
 まず序章で僕(憂)が銀河と流星の双子の弟の流星をバットで殴り殺し、来海を連れてハイキングと称して十年池を求め、逃走するところから始まる。
 方や、奈良県南部の村の、旧道沿いに祖父母が開業していた「ドライブインまほろば」(一度閉店したが、私(比奈子)が再開)の舞台が中心に登場する。

 銀河と流星を中心の家族(家庭)の異常さ、子供に対する無関心、虐待といったことから、憂は今まで生きていて何もいいことがない。唯一祖父が自分の存在を認めてくれ、可愛がってくれたことが、次に生きる目標−小学6年生になったら、祖父と十年池を探しに行くこと−でかろうじて生き続けている。

 しかし母親の芽依から「とっくの昔ジジイは死んだ」と言われ絶望感を抱く。さらに流星からの暴言で思わずバットで殴り殺して来海を連れて「ドライブインまほろば」にたどり着く。
 一方、私(比奈子)はやっと授かった娘里桜が母の起こした不慮の交通事故で5歳の命を絶たれて、傷心の日々に生きる勇気も無くしているところへ、憂と来海という、来海は里桜と同い年の子が現れる。
 憂の暗い眼に何か事情がありそうな様子だが、説得して憂の夏休みが終わるまで留まることを了承させる。比奈子と母との憎しみと謝罪の繰り返し。

 三人の「まほろば」での生活の活力が生まれ、楽しさの中に、夏が終わるときの憂の覚悟、比奈子のその後の空しさの交差がのしかかる。
 一方、弟の流星を殺された銀河は、憂憎し、殺してやると探すがなかなか消息が得られないし、「グラス」の名簿を憂に持って行かれたゆえに、佐野社長に殺される恐怖で生きた心地がしない。
 また、慶子が四度目の妊娠で今度は絶対に産むと主張することに自分は父親になることを拒絶するわけを抱えている。
 かくて三者が抱えながらのラストの結末は?

 「まほろば」での来海のあどけない行動が、比奈子が幼い子供を亡くした悲しみを癒やす様が胸に迫る。その姿を小学6年生の憂が理解するその大人のような感覚を持ち合わせるその背景はどのようにして生まれたのか。
 子供の幼い人格がいかに大人の行動で変化し、養われていくのか痛烈に響いてくる。
 銀河と流星の双子の兄弟の、間違っていたかも知れないが、兄が弟のことを思い、弟が兄貴のことを思っていたことも涙を誘う。
 ラストの気持ちが通い合うシーンはホットする思いで清々しい気持ちで読書を終えられた。
 


余談:

 憂が比奈子に投げかけた「怖いんです。怖くて眠れないんです」「・・・生まれてきて・・・なにもいいことなかった」「なにひとつ・・・いいことなんてなかった」「生まれてけえへんかったらよかった」の言葉ですぐに思い出す。そう天童荒太の「永遠の仔」での久坂優希の言葉を。思わず涙が出てしまった。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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