寺地はるな 『わたしの良い子』


              2022-08-25


(作品は、寺地はるな著 『わたしの良い子』    中央公論社による。)
                  
          
  
  
 本書  2019年(令和元年)9月刊行。書き下ろし作品。

 寺地はるな
(てらち・はるな)(本書による)

 1977年佐賀県生まれ。 大阪府在住。 会社勤めと主婦業のかたわら小説を書きはじめ、2014年「ビオレタ」で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。 他の作品に「大人は泣かないと思っていた」(集英社)、「正しい愛と理想の息子」(光文社)、「夜が暗いとは限らない」(ポプラ社)、「架空の犬と嘘をつく猫」(中央公論新社)などがある。 

主な登場人物:

小山椿
<わたし>

文房具メーカーの経理部に勤務。朔が2歳になったとき、妹から託され子育てに翻弄される。
小山(さく)

保育園ではひとりでぼんやり突っ立っていると連絡帳に。
小学校1年生の授業参観、ひらがな不得手、動作のろい。

小山鈴菜 椿の5歳年下の妹、朔を産むも、相手は不明。
突然沖縄に行くと朔を残して出奔。月に一度電話を掛けてくる。
小山の父 製薬会社の役員。心臓の病気で入院、朔は椿が預かることに。
穂積

椿と経理部の仲良しの同僚。恋人と同棲していた時期も。
18歳から一人暮らし。

杉尾 椿、穂積、杉尾三人同期入社。妻帯者。
須田高尾 椿の恋人。付き合って6年、転勤で関西支社にいること4年、遠距離恋愛中。
真弓

高尾を好いていて、入院中の高尾の見舞いで鉢合わせ。
椿とのバトルは・・・。

静原
妻 
娘 愛結(あゆ)

椿の中学、高校時代の友人。東京の大学を卒業後地元に戻ってきた。
・愛結 小学校1年生の時、朔と同じクラスに。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 出奔した妹の子ども・朔と暮らすことになった椿。 勉強が苦手で内にこもりがちな、決して「育てやすく」はない朔との生活の中で、椿は彼を無意識に他の子どもと比べていることに気づく。 それは、大人としてやってもいいことなのだろうか…。

読後感:

 妹の息子朔を託され、子供を育てることになった主人公の小山椿。 他人から見れば、可哀そうがられるかも知れないが、朔と交わりながら、子育ての難しさにとまどいながらも、いとおしさ、自身が母でないことへの寂しさを味わう。
 それでも自身の考えを修正しながら子育てに喜びを感じる様が伝わってくる。

 朔は人より動作がのろかったり、塾でも現状レベルになかなか。
 そんな朔の様子でも、椿は他の子と比べていることに深く反省する。
 色々な場面で読者に投げかけられてくることが胸に響く。

 ・小学校に入ってから、わたしは朔を他の子どもと比べてばかりいる。
 ・「面倒を見る」ことと当事者になることは違うのだ。
 ・朔が鈴菜を「ママ」と呼ぶ弾む声を聞くと、「わたしは、鈴菜から朔を奪っているんだろうか? のんびり沖縄で暮らすほうが、朔にとってはいいのかも知れない」
 ・朔に「がまんできるから」なんて言わせてしまうことに比べたら、先生や静原夫妻に嫌われることなんか少しも問題じゃない。
 守るべきものの優先順位を間違えないこと。
 ・わたしは、朔に生きていてほしい。「良い子」じゃなくたっていい。 ただこの世界を生き延びてほしい。 ただ、それだけ。
(高尾の母の「自分がいなくても生きていけるように育てるのが、親の役目だわ」を受けて)


余談:

 椿の同期仲間の穂積とのお互いのぐちや情報のやりとりもまたいい。
 穂積が言う「椿のその、優しい他に他人への関心が薄いところが好きなんだよ。」
 そしてまた、妹の鈴菜とのラストでのやりとり。
 鈴菜は、わたしとはまったく違うものを見ていたのかも知れない。同じ家で育ちながら。そのことが鈴菜を苛立たせる要因だった。
 寺地はるなという作家は女性共感率No.1とある。(帯文より)

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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