寺地はるな 『月のぶどう』


              2022-02-25


(作品は、寺地はるな著 『月のぶどう』    ポプラ社による。)
                  
          
 

 
本書 2017年(平成29年)1月刊行。書き下ろし作品。

 寺地はるな
(「声の在りか」より)

 1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。会社員勤めと主婦業のかたわら、小説を書き始める。2014年「ビオレタ」で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞。著書に「ミナトホテルの裏庭には」、アンソロジー集「リアルプリンセス」がある。

主な登場人物:

[天瀬ワイナリーの人々] 大阪府のかかとの辺りにある月雲(つぐも)市にある。
天瀬歩(あませ・あゆむ)

歩と光実は二卵性の双子の弟、26歳。18歳で家を出、大学中退、就職の会社も次々辞め、 現在叔母(和葉)のカフェでアルバイト。姉の光実に比較して、“出来の悪いほう”と言われ、母親が亡くなる前は、家業には一切関わらずの状態だった。

天瀬光実(みつみ)

歩の姉。母親を尊敬し、母からは“出来のいい方”と。
がんばり屋で、ひとりでがんばって、ひとりで疲れる。時々ものすごく視野が狭くなる。

父 誠
母 美香枝
(みかえ)
(没)

父は婿養子。もともと会計事務所勤務。数年前退社し、婿養子入り後は会社の経理を担当。
・美香枝 天瀬ワイナリーの代表者。40代の働き盛りの人に意外と多い突然の死。

祖父=仁基(ひとき)

曽祖父が興した天瀬ワイナリーを継承の月雲ワインの事業(葡萄を育て、製造したワインを大手の酒造メーカーに卸す)。
それを母(美香枝)は小売りに切り替えた。

日野

大手酒造メーカー勤務だったが、10年程前天瀬ワイナリーに移ってきて、醸造長を勤める。ワインのこととなると人が変わる。
指示はするが、教えることはせず。

加納 パートの40代の主婦。
森園

従業員、20歳。歩の最も苦手とするタイプ。ワイナリーの仕事をするようになった歩に対し、嫌がらせをするように。
生まれつき心臓の持病持ち。

叔母 和葉

姉(美香枝)より7歳年下。夫は会社員、カフェを営む。
歩に対し「歩にしかない良さがあるんやから、歩のままでええのよ」と。

冨美雄 「ツクモワイナリー」の代表者。天瀬家にとっては遠縁。
広田大志

歩の友人。中学入学の年から13年の付き合い。口数あまり多くない。光実と広田お互いに好意を持っている。

君沢美晴 光実にとり中学の同級生。わかりやすい子。
理津子

光実と保育園からずっと一緒。東京の大学を卒業、会社勤めを辞め、去年実家に帰ってきて、「パティシエ」になると大阪市内の製菓専門学校に通っている。
実家は天瀬ワイナリーと契約してワイン用の葡萄を栽培している。

妹尾(せお) 理津子の恋人。建設業の会社勤務。
戸川あずみ

「キラガラス工房」の二階を借りて修行中。 歩は、作業する姿に、ものがなしいほどのひたむきさを感じる。
父親は6年前病死、母親はアルコール依存症。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 26歳になっても逃げることばかり考えている歩。突然の母の死をきっかけに、双子の姉・光実とともに実家のワイナリーを継ぐ決意をするが…。デビュー作『ビオレタ』で注目を集めた新鋭による感動作。

読後感:

 ふたりの主人公の二卵性双生児の姉光実は、母親の実香枝の突然の死に、この後天瀬ワイナリーをどう継いでいけば良いか、まだまだ未熟で不安いっぱいの状態。それというのも母からもっともっと教えてもらいたいことがあったのにと涙が止まらない毎日である。

 一方、弟の歩はいままで家事のことには一切関わらず、好き勝手に叔母の和葉のカフェでバイト暮らしの毎日。
 頼りとなるのは醸造長の日野頼み。それでも母の死後、歩とふたりでこのワイナリーを守っていかねばならない。そこで対策を立てた。日野を中心に歩を光実の手伝いとして教えることに。
 さて、頑なな光実は歩に対し、絶対的優位性を持っていたが、歩に対する評価は、和葉や祖父によると別の見方を持っていた。

 そんな状態でワイン造りに励む歩の姿やら、光実の奮闘の姿が描かれる他に、光実の恋や、歩を取り巻くイジメや、いつも叱られる日野に対する反論をぶつけたりと次第に成長していく歩の姿が眩しい。
 そんな中、光実はいつのまにか歩が自分を追い越していることにショックを受ける。
 でもお互いが思うところを語り合うことでふたり揃ってワイナリーを発展させていくことで一致する。


余談:

 本の題にあるごとく、ワイン作りの過程が時系列的に描写されていて、おもしろい。赤ワインと白ワインの違い、色んなワインがある理由も理解できた。
 ワインの評価について、歩が光実にぶつけた言葉が歩の成長の一端を示している。
「わかる人だけにだけわかればええっていうのはさあ、つくる側が言うてええことなんかなあ、それは、」と歩。
「自分の作ったもんに自信を持つ、ということと、自分のつくったもんがわからんやつはおかしいと、否定することとは違うで」というのは祖父の言葉だ。  

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る